「中国は北朝鮮問題を外交的に解決するしかない」という弱み
2017/08/14
北朝鮮問題において、最も弱い立場に立たされているところは一体どこでしょうか?米国?韓国?日本?
個人的には中国が最も弱い立場に立たされているように思います。
「中国は北朝鮮問題を外交的に解決するしかない」という弱み
何故北朝鮮問題に関して、中国が最も弱い立場に立たされていると考えているのか。
理由は中国共産党は北朝鮮体制の崩壊を絶対に受け入れられないからです。何百万人もの北朝鮮からの難民が中国東北部に押し寄せることで政治的な不安要素がさらに高まりますし、米軍が北朝鮮と中国国境付近に進出することで中国軍と戦闘状態になるおそれがあり、いずれも中国共産党政権の崩壊につながる危険性をはらんでいます。
そう考えると、中国共産党は北朝鮮問題を外交的に解決するしか道は残されていないのです。
これは中国にとって極めて大きな弱みとなります。何故ならこの弱みを利用して他国の利権屋たちは簡単に利権を拡大することができるからです。
要は外交的解決を先送りして中国を弱い立場に立たせ続けることで、他の国々や多国籍企業、国際金融屋等が大きな利益を得ることができるわけです。
北朝鮮は中国との外交的解決を遅らせることで、核・ミサイル開発を継続し、他国(特に中国)に対する抑止力をさらに高め、今後外交的に有利な状況をつくりやすくなります。
北朝鮮が核・ミサイル開発を継続してくれれば、北朝鮮に核・ミサイル開発技術を供与しているどこかの企業や、北朝鮮に多額の借款を渡しているどこかの金融機関は儲けることができるでしょう。
一方米国は、武器売却によって儲けることができます。トランプはしきりに金正恩を挑発する言動を取っていますが、中国が外交的解決にしくじっているあいだに北朝鮮危機を煽ることで「対北朝鮮防衛」を名目に日本や韓国等に武器購入契約を結ばせて儲けることができます。
さらに米国は北朝鮮危機を利用して、中国から有利な通商協定を得られやすくなります。
いままでトランプは中国に対し、北朝鮮問題で主導的な役割を担うよう要求し、何度も中国を持ち上げる発言をしてきました。
しかし中国は北朝鮮問題解決で全くの役立たずであることが露呈され、米国に対して表向きの交渉材料を与えてしまいました。
それだけではありません。中国が北朝鮮問題解決にしくじっているあいだに米国が北朝鮮危機を煽れば、米国は日韓等に対する、対北朝鮮を名目とした対中国の武器売却をしやすくなり、中国の軍事戦略にも影響を与える事態になっていくでしょう。
すでにトランプ政権は6月29日、総額14億2000万ドルの台湾向け武器売却計画を議会に通知しています。
当然中国は反発しましたが、その5日後に北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星14の発射実験を行っています。
また韓国は米国から購入したミサイル迎撃システムTHAADの発射台を9月までに追加で4基を臨時配備するつもりです。THAAD配備は表向き、北朝鮮の核・ミサイルを迎撃する目的であると言われていますが、実際には北朝鮮の核・ミサイル迎撃には役立たずな一方、中国から発射された核ミサイルの迎撃や核ミサイル発射位置を捕捉するのに有用だと言われています。
これが事実だとすると、今後米国は対北朝鮮目的だと言いつつ、実は対中国用の武器を日韓などに売却していく可能性があるのです。
今後中国の軍事予算は2050年にかけて右肩上がりで上昇し、2030年代あたりには米国を抜いて軍事費で世界トップに躍り出るとの予測もあります。
そうであれば世界の軍需企業にとって、日韓のみならずアジア地域に対中国用の武器販売契約を結んでおくことは、長期的に利益をあげ続けるために必須と言えるでしょう(もちろん中国にも武器を売れるんだったら売りたい)。
つまり米国は、中国が北朝鮮問題の外交的解決にしくじっている間こそ、中国や中国の近隣各国に長期的な金儲けにつながる契約を結ぶ大チャンスなのです。
さらに北朝鮮の軍事力強化や、米国の各国への武器売却を通じて、北朝鮮・韓国等が中国への抑止力として働くようになりますから、米軍を世界から撤退させるというトランプや国防総省の一部メンバーの目標を遂行しやすくなるでしょう。
中国は米国から不利な通商協定を持ち出されても、拒みづらい立場に追いやられているのです。
ちょっとでも中国側が拒むしぐさを見せれば、当然トランプはいままでの北朝鮮外交での中国の失敗をメディアに大きくアピールし、習近平政権のイメージダウンをはかるでしょう。5年に一度の中国共産党大会の開幕が直前に控え、中国国内の締め付けも強化される中、習近平は極度のジレンマに陥るというわけです。
さらに通商交渉を長引かせれば、北朝鮮問題がエスカレートして本当に難民危機等の中国共産党が懸念する最悪な事態に発展する蓋然性も高まりますし、そこまでいかずとも中国近隣各国の軍事力が米国との武器購入契約を通じて強化され、中国の今後の防衛戦略にもいろいろと悪影響を与えるかもしれないのです。
中国は米国と北朝鮮のあいだに挟まれ、身動きがとれない状態と言ってよいでしょう。トランプと金正恩という狂犬2人に対し、中国側はなすすべがないというのが実情でしょう。
以上のように、中国側にとって北朝鮮問題を外交的に解決するしか方法がないという弱みは、北朝鮮、米国、軍需産業、国際銀行家等に様々なメリットを生じさせるものと思われます。
そう考えると、中国が北朝鮮の核・ミサイル開発に関する外交的解決に全く上手くいっていないのも、トランプの北朝鮮や金正恩に対する挑発的な言動も、なんとなく辻褄が合います。
北朝鮮問題に関する国際外交の黒幕が、北朝鮮に対しわざと中国との交渉テーブルにすぐにつかないようアドバイスするなどし、北朝鮮問題の外交的解決をわざと遅らせている可能性も考えたほうがよいでしょう。
とはいえいつまでも北朝鮮危機が続いてしまうと、外交的に引くに引けない状況となってしまい、本当に第二次朝鮮戦争が勃発してしまい米国含め世界が滅茶苦茶なことになってしまいかねないので、いつまでも北朝鮮危機を煽り続けることはできませんが。
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今後は北朝鮮問題と平行して、米国の通商協定は本格化していきそうですね。
米国は世界の警察をやめる流れにありますが、世界の警察をやめるとそれまでの米国の国際的権威が失墜しますので、各国との通商協定でも米国有利の協定を締結することが難しくなるでしょう。
ですからトランプ政権は、米国の国際的権威が残っているうちに(それは北朝鮮問題が残っているうちに)短期決戦で中国をはじめとした各国との通商協定締結を目指すものと思われます。
逆にいえば、もしトランプ政権が通商交渉にしくじって短期的に成果をあげられなければ、北朝鮮問題は最悪な方向に推移する危険性も考えなければならない、ということでしょうかね。
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