生き残りに必死なサウジアラビア...国際的地位は確実に衰退してきている

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生き残りに必死なサウジアラビア...国際的地位は確実に衰退してきている

2017/03/13

 

【2017/03/11 ブルームバーグ】NY原油(10日):大幅続落、米在庫増で週間の下げは11月以降で最大

10日のニューヨーク原油先物市場ではウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物が大幅続落。週間での下げは昨年11月以降で最大の9.1%となった。石油輸出国機構(OPEC)加盟国・非加盟国の減産合意から3カ月かけて積み上げた価格上昇は、米在庫の急増で失われた。

 

【2017/03/08 日本経済新聞】サウジ国王が12~15日に来日 46年ぶり、アジア歴訪の一環

 サウジアラビアのサルマン国王がアジア歴訪の一環で12~15日、日本を訪れる。サウジ国王の来日は1971年のファイサル国王以来、46年ぶり。安倍晋三首相との会談では、石油だけに頼らない国を目指す経済構造改革の実現に向けた協力拡大を確認する。

 

 2月末から1カ月にわたるアジア歴訪には、協力や投資を引き出し、原油の重要な消費国と関係を固める狙いがある。最初に訪れたマレーシアでは、サウジ国営石油会社が大型石油化学設備への70億ドル(約8千億円)の投資を発表した。国王は続いてインドネシアに滞在し、来日後の15~18日に中国を訪れる。

 

 外交関係者によると、国王来日の随員は1500人規模にのぼる。宿泊する高級ホテルや国内移動用の車両で特需を生んでいる。経済閣僚が同行し、日本の閣僚や企業トップらとの会談を予定している。

 

 

 最近原油市場が荒れています。昨年12月にOPECが減産合意したことで市場は原油供給引き締めを期待し原油価格は高騰、以来価格を維持してきましたが、今回米国の原油在庫量が1982年以来最大となる5.28億バレルであることが発表されたことを受けて、OPEC減産合意後の価格上昇分がすべて失われてしまいました。

 

WTI原油先物価格と米国原油在庫量

 

 2015年12月に40年ぶりに原油輸出解禁となった米国では、昨年秋ごろから原油の生産量が上昇しており、今年は日量100万バレル超の原油を生産するかもしれません。サウジアラビアがOPEC減産合意に沿って減産をするなか、米国は順調に増産してきています。

 

米国の原油産出量

画像ソース:Zero Hedge

 

 現在の原油市場は相変わらず供給過多で在庫も増えてきていますが、需要サイドを見れば今後は中国、インドなどで自動車やトラックのガソリン需要が安定的に増加すると見込まれているので、いずれは原油業界の淘汰が起きて需給のバランスが整って原油価格も安定することでしょう。

 

原油需要予測

画像ソース:BP

 

 しかし供給過多による原油価格低迷が続けば、原油価格が安定するまでの過程で淘汰される供給者が出てくるのは避けられません。

 

 今回はそんな淘汰される可能性の側に位置している国である、サウジアラビアについてです。

 

 サウジアラビアは財政収入のほとんどを石油収入に頼ってきましたが、原油価格の下落に伴い2015年以降、税収入が極端に落ち込んでしまいました。2016年の財政収支はおよそ2億9700万リヤル(7920万ドル程度)の赤字見込みであり、GDP比11.5%程度の赤字です(GDPは2016年の見積額を使用)。

 

 諸外国の財政収支対GDP比を見ると、GDP比11.5%の財政赤字というのが相当大きなレベルの財政赤字だということがわかります。

 

 2017年予算でも財政収支は1億9700リアルの赤字になるとしていますが、この数字は歳入が2016年予算よりも31%アップするという根拠の薄い楽観的な数字を含んでいるので、今後もサウジの財布事情は厳しいことが予想されます。

 

サウジアラビアの歳入

画像ソース:サウジアラビア財務省

 

 サウジアラビアは石油収入への財政依存の限界を悟ったのか、2016年に国家変革計画(National Transformation Program、NTP)という、2020年に向けた5カ年計画を発表しています。

 

 5年間で非石油収入を3.8倍に増やすとか、45万の民間雇用創出をするとか、財政支出に占める公務員給与の割合を45%から40%に減らすなどの目標が掲げられていますが、目標達成のための根拠は不明です。
 →National Transformation Program 2020の実際の文書
 →日本語で書かれた参考記事

 

 現在までにサウジアラビアでは人口のおよそ1/3にのぼる約900万人の外国人労働者がサウジ経済を支えてきましたが、サウジ政府はあまりにも多すぎる公務員を民間セクターに振り向けて公務員給与を減らすために、働き手の中心であった外国人労働者を国内労働者に置き換えようと動いています。

 

 最近ではサウジ政府の意向に沿って、民間企業が外国人労働者の契約を打ち切るケースが増えてきているようです。さらに今年7月からは扶養されている外国人労働者から一定額の税金を課すことが検討されており、働き手だった外国人労働者がサウジを去り始めているそうです。この外国人への厳しい課税導入もまたNTPの計画に含まれていたものです。
 【Indiatimes】Many Foreign Workers Are Leaving Saudi Arabia Because The Kingdom Will Demand Tax From Them

 

 サウジ政府は不法移民約500万人を追放すると発表したようですが、上の900万人という数字と比較すれば実質的に外国人労働者の排除となります。

 

 しかしサウジアラビアの国民が外国人労働者の代わりとなって働く能力があるかどうかは甚だ疑問です。サウジアラビアの労働人口の2/3以上は公務員であり、毎日1時間しか働かない職員もいるくらいですから。
 【RT】‘Saudi civil servants work 1 hour a day, we’re headed for bankruptcy in 3-4 years’ – ministers

 

 こうした事情を考えれば、国民を民間セクターに転換させて国内経済を拡大させ、非石油収入を増やせるなんて到底思えません。はっきりいって不可能です。このまま原油価格の低迷が続いてしまえばサウジアラビアは国家を維持し続けることは困難でしょう。

 

投資ファンド国家として生き残ろうとするサウジ

 しかしサウジアラビア政府も上のように経済発展させて税収入を得るという、全うな方法で国家を維持、発展させていくことが困難であることをどうやら認識しているように見えます。

 

 サウジの長期経済プランやここ数ヶ月の動きをみていると、どうもサウジは結局海外からのカネに頼って生き残る道を選択したようです。

 

 昨年10月にサウジ政府は5年、10年、30年満期のドル建て債券を海外投資家向けに販売し175億ドルを集めました。この額は新興国による債券売上額としては過去最高額です。
 【Bloomberg】Saudi Arabia Raises $17.5 Billion in Record Sovereign Bond Sale

 

 また最近ではサウジ政府がスクークと呼ばれる、イスラム教の教義に沿って設計された債券をドル建てで販売することでさらに海外からの投資資金を呼び込もうと計画しているようです。早ければ今年6月の終わりまでに第一弾が販売されるそうです。
 【Bloomberg】Saudi Arabia Plans Domestic Sukuk to Help Boost Market

 

 サルマン国王は3月1日から1ヶ月間にわたるアジア各国歴訪の旅をしており、12日には日本に到着しました。15日には中国も訪問する予定です。サルマン国王の歴訪の最大の目的はアジア各国との経済連携を強め、脱石油経済を構築することとなっていますが、要はカネ目的の旅ということです。

 

 サウジの財政、経済事情を考えれば、日本や中国などからサウジのインフラ開発等の経済協力を得るためだけに歴訪していると考えるのはあまりにもお人よし過ぎます。それだけの理由で豪華外遊 「高級ホテル1200室は押さえた」 それでも足りない、高級ハイヤーも 1500人の大訪問団が訪れるなんてありえません。それ相応のとんでもない見返りを求めているのでしょう。

 

 サウジアラビア公共投資ファンド(サウジアラビア政府出資の投資ファンド)は2015年から海外企業への投資を始めており、昨年にはウーバーに35億ドル投資したり、ソフトバンクが設立する、1000億ドル規模になると見込まれているテクノロジー系ファンドに共同出資する覚書を締結し、最大450億ドル出資するとも見込まれています。ここにきてサウジアラビアは海外投資を活発化させてきているのです。

 

 2016年5月の段階でサウジ公共投資ファンドは海外資産比率が5%程度しかありませんでしたが、2020年には50%以上を海外資産にするという計画があるようです(ただし今後公共投資ファンドがオーナーとなるサウジアラムコの資産価格は含まれていません)。

 

 サウジアラビアはVision 2030という2030年に向けた経済戦略を掲げており(最初に話した5ヵ年経済計画のNTP2020はVision2030の一里塚)、投資を海外に振り向けてそこから得られる収益を財政収入の足しにする旨が書かれています。

 

 こうした点をつなぎ合わせると、どうもサウジアラビアは海外から集めたカネを世界中の企業に投資して配当・利子収入を得るという、投資ファンド国家としての道を歩みだしているように思えます。

 

 アジア各国歴訪の旅も、カネの獲得および海外企業への出資に関わる国家間の契約を結ぶことが本当の目的なのではないでしょうか。公務員だらけのサウジ国民が短中期期で付加価値を生み出せるわけがありませんから、原油価格が低迷し財政赤字が拡大する中で生き残るためには、投資ファンド国家として生き残るくらいしか道はないのかもしれません。

 

 

サウジアラビアの国際的な地位は衰えてきている

 私たち日本人は何となくサウジアラビアを金持ちで国際的地位も安定した国だと思っているかもしれませんが、そうしたサウジ観は誤りです。サウジにカネがなくなってきていることは上に書いてきたとおりですし、ここ最近の動きを見ているとサウジアラビアの国際的な地位も衰え始めてきています。

 

 サウジの国際的な地位を測るのに参考になるのが、ここでも原油にまつわる報道でしょう。カネが回らなくなることが国家の衰退を意味しますから、サウジの財政収入の源泉である原油に関する動きを見るのが国家的な地位を測る上でも一番参考になります。

 

 昨年11月の終わりにOPEC加盟国・非加盟国間で減産合意に達し、2017年初から発効していますが、1月の各国産出量を見ると他国の産出量は合意内容の減産水準に達していないなか、サウジアラビアは合意における水準以上の減産を行っています。

 

2017年1月の各国原油減産量

画像ソース:Bloomberg

 

 また2月に日本や韓国などへの供給についてはほぼ維持するが、中国やインド向け原油供給を削減する見通しだという報道も出ました。中国、インドは今後世界の石油需要の中心国です。この供給削減があったからか、サウジは2月もさらに原油輸出量が減る見込みです。

 

 こうしたサウジの原油に関する向かい風に関係があると思われるのがロシアの存在です。

 

 昨年のOPEC減産交渉のとき、サウジアラビアはイランも減産しないのならば自分たちも減産はしないと、事実上減産に反対の立場をとってきましたが、減産交渉の場においてプーチン大統領がイラン大統領へ電話掛けて何らかのアドバイスをした直後、イランを減産免除とする内容で減産合意が決まったという事実があります。
 【Reuter】Exclusive: How Putin, Khamenei and Saudi prince got OPEC deal done

 

 2017年に入ると、ロシアは昨年12月に原油生産量でサウジを抜き、世界最大の産油国になったという報道や、2016年にロシアが初めて中国向け原油供給でサウジを抜きトップに躍り出たという報道も出ました。

 

 またロシアの国営石油企業ロスネフチはインドの石油企業2番手のエッサール・グループの石油精製事業を買収しており、インドにも手を伸ばしています。先ほど2月にサウジがインド向け原油供給を削減見通しだと書きましたが、具体的にはインドの石油精製会社1社に対して約20%の削減が通知されました。このインドの精油精製会社というのが、実はロスネフチが買収した石油精製会社である可能性があります。

 

 ここ数ヶ月の一連の流れを見ていると、どうもサウジアラビアはロシアに弱みを握られているような気がしてなりません。

 

 14日、OPECが月例レポートを発表し、サウジアラビアの原油産出量が、OPEC調査の二次情報からの集計とサウジ筋からの情報をもとにした集計とで大きく異なることが話題となっています。前者は前月比6万8100バレル/日の減産でしたが、後者は前月比26万3000バレル/日の増産でした。いずれもOPECの減産合意内容を守っていますが、市場は嫌気し原油価格は大きく下がりました。
 【Zero Hedge】Oil Tumbles After Saudis Report Big Jump In Production; Kuwait Warns Of Drop To $45

 

 どちらの数字が正しいのかはわかりませんが、少なくともサウジは減産すれば生産量が減る分収入は減るし、増産すれば市場からの洗礼を受けて原油価格が下落して収入も増やせないというジレンマに陥っていることがわかります。

 

 他にもサウジアラビアの立ち位置が衰退していることを匂わせる報道があります。それは世界最大の油田をもつサウジの国営企業、サウジアラムコの一部株式放出に関する報道です。

 

 サウジアラビアはサウジアラムコの株式の5%を放出して海外投資家に売り出すことを検討しており、2018年頃に株式を新規上場する見通しとなっています。サウジアラビア側はサウジアラムコの資産価値をおよそ2兆ドルと見込んでおり、5%の株式売却で計1000億ドル程度の売却益を得られると考えてきました。

 

 しかしここ最近、サウジアラムコの評価額はサウジが見込んだ2兆ドルよりもずっと安くなるのではないかという報道があちこちから出始めているのです。

 

 サウジアラムコは利益の85%というあまりにも高すぎる法人税を支払っているから、海外投資家に受け入れられるには法人税を下げなきゃならんが、財政厳しいサウジ政府がそれを許すの?とか、これまで詳細な財務レポートを一切公表してこなかったけれど国際的なアカウンタビリティを満たすことはできるの?とか、原油の埋蔵量はアラムコ側の主張よりも実はもっと少ないんじゃないの?等々...
 【New York Times】For I.P.O., Saudi Oil Company May Have to Give Up Some of Its Secrets
 【Reuter】Trillion-dollar question looms as Aramco audits oil reserves

 

 こうした報道が原油価格の大きな下落とともに、サウジ国王がアジア訪問旅行中で国内不在のなかに相次いで出てきているわけです。これもまたサウジの国際的な地位が衰退してきていることを意味しているかもしれません。

 

サウジの本当のリスクは...

 しかしサウジの国際的立ち位置を考える上で最も重要なのは、サウジアラビアとテロとのつながりが隠し切れなくなっていることです。いちいち書き連ねるのは面倒なので書きませんが、サウジアラビアのカネがクリントン財団を通じてテロリスト創設資金に使われてきましたし、9.11テロの関与も確定的です。
 グーグル検索結果1グーグル検索結果2

 

 こうした悪事が世界的に認知されて、世界中でサウジアラビアに対する訴訟が相次いで起これば、さすがにサウジといえども国家破綻するしか道はないでしょうな...

 

 すでに米国では、議会が当時のオバマ大統領の拒否権行使を覆して、テロ事件に関与した外国政府に損害賠償できるいわゆる「9.11法案」が成立しており、サウジに対する訴訟が巻き起こる未来への種はすでに蒔かれています。

 

 最近、ウィキリークスがCIAのハッキングに関する内容の文書を公開しだしましたよね。世界最大の諜報機関の文書という最高機密文書が世界中に流出される時代ですから、サウジアラビアに関する致命的なリークがいずれ出てくるのも不思議ではありません(すでに出てるんですけどね)。

 

 サウジアラビアは生き残りのために必死に経済活動を始めていますが、一度点火したら防ぎようのない爆弾を一生背負っていかなければならないのです。国家が崩壊するまでのあいだ永遠に...

 

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