どこか阿吽の呼吸を感じさせる米国と北朝鮮の緊迫状況

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どこか阿吽の呼吸を感じさせる米国と北朝鮮の緊迫状況

2017/08/11

 

 北朝鮮情勢が非常に緊迫してきましたね。米国の報道を見ても開戦間近のような雰囲気になっているように見えます。

 

 私も今後具体的にどのように推移するのかは全くわからないのですが、報道をいろいろ見ていくと、うーん、何か変ですね。米国も北朝鮮もどこかおかしいというか、戦争というより何かお互い別の目的のために、ある種の阿吽の呼吸でつながっているんじゃないの?と感じる部分がいくつかあるんですよね。

 

「石油禁輸措置なし」の北朝鮮制裁安保理決議採択に満足気味のトランプ

 国連安全保障理事会は今月5日、北朝鮮が7月に実施した2回の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受けて、新たな制裁決議を全会一致で採択しました。

 

 採択された内容は例えば次のようなものです。

 

  • 北朝鮮の主要輸出品である、石炭、鉄・鉄鉱石、鉛・鉛鉱石、海産物-の輸出を例外なく禁止
  • 海外で働く北朝鮮労働者について、加盟国が現在より受け入れ人数を増やすことを禁止
  • 北朝鮮の団体・個人との共同企業体(JV)新設や、既存のJVの拡大の禁止
  • 資産凍結や渡航禁止の制裁対象に、北朝鮮の外国為替銀行である朝鮮貿易銀行など4団体と9個人を追加
  • 北朝鮮による化学兵器の使用・配備を禁止

 

 このように採択された内容は、北朝鮮の外貨獲得手段を大きく狭め、ドル決済システムへのアクセスを制限するといった経済制裁の様相が色濃いです。

 

 しかし北朝鮮の軍事力に大打撃を与える「石油禁輸措置」は盛り込まれませんでした。

 

 石油禁輸措置を提案したのは米国です。石油禁輸措置は、軍事力弱体化に非常に大きな効果のある措置であり、かつてABCD包囲網のフィナーレとして日本が軍事的大打撃を受け、その後の敗戦を確定させたものとして実証済みです。

 

 もし米国が北朝鮮を本気で潰そうと思っているならば、米国は石油禁輸措置を盛り込めなかったことを残念がる仕草を多少なりとも見せてもよいはずです。

 

 トランプ、ツイッターで「国連安保理が北朝鮮への制裁を全会一致で採択した。中国とロシアもわれわれに賛同した。非常に大きな経済的打撃だ」と賞賛しています。石油禁輸措置が盛り込まれなかったことには一切触れていません。

 

 この時点で、トランプは北朝鮮体制を軍事的手段で崩壊させる気、ないんじゃないの?と思ってしまいます。

 

 さらに以前の記事でも書いたように、ここ数年は経済制裁はドル離れを生む流れをつくっています。ロシアもそうですし、イランもそうです。

 

 こうしたトレンドを踏まえると、トランプはむしろ北朝鮮を自立させるためのアシストをしているんじゃないの?とすら思ってしまいます。

 

 トランプ、2日に署名した対ロシア制裁強化法について、こうコメントしていますよ。

 

ホワイトハウスのトランプ声明文

"this bill makes it harder for the United States to strike good deals for the American people, and will drive China, Russia, and North Korea much closer together."

 

(この法案は、米国がアメリカ人のために良い協定を結ぶことをますます難しくする。そして中国・ロシア・北朝鮮を互いにより親密にさせるだろう。)

米国も北朝鮮も軍事作戦に関する大々的な「事前通告制度」をとっている

 さらにおかしいのは、米国も北朝鮮も、何故か自らの軍事作戦計画をマスコミを通じて世界的に流しているんですよね。軍事作戦に関する大々的事前通告制度を互いに導入しているのです。

 

 米軍は「グアムのアンダーソン空軍基地からB-1戦闘機を出動して、北朝鮮にある25ヶ所程度のミサイル基地を先制攻撃により空爆するぞ」と言っています。

 

 北朝鮮軍は「中距離弾道ミサイル火星12ロケット4発を発射し、日本の島根、広島、高知各県の上空を飛び、3356.7キロを1065秒飛翔した後、グアムから30~40キロ離れた海面に着弾する」という発射計画を8月半ばまでに完成させると言っています。

 

 どんだけ戦略をオープンに語っているんだ!という話です。プロ野球の先発投手予告制度か!軍事と野球は一緒か!という話です。

 

 特に北朝鮮軍の軍事作戦計画発表は、あまりにも具体的すぎです。

 

 しかしこれら軍事的戦略の事前通告をみると、北朝鮮にはメリットがありますが米国にはメリットないですよね(軍事的な意味で)。

 

 北朝鮮は中距離弾道ミサイルの技術力や精度を世界的にアピールし、自らの軍事能力の高さを世界に知らしめ、強い北朝鮮というインパクトを世界中に与える格好の機会となります。

 

 一方米国は、先制攻撃の計画をばらしてしまうことで先制攻撃の奇襲性が喪失し、先制攻撃をやる意味がなくなってしまいます(ソウルを火の海にし、在韓米軍に多数の死傷者を出したいという自殺願望がなければね)。

 

 さらに北朝鮮がもしグアムに中距離弾道ミサイルを発射した場合を想定して、米軍はグアムに配備されている地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」による迎撃を行うのか否かを決定しなくてはなりません。

 

 しかしTHAADによる迎撃は、軍事専門家のあいだでも、本当にすべてのミサイルを迎撃できるのかは不透明であるとの意見も出ており、これが本当だとすれば米軍は厳しい選択を迫られることになります。

 

 実は米国の方こそ、北朝鮮に、さらには世界中に対して、軍事能力を試されている、という流れになっているのです。

 

 いずれにせよ、重要な軍事戦略情報を互いに垂れ流しているのですから、米国も北朝鮮も、本当の目的は戦争ではなく何か別の目的があるのでは?と思ってしまいます。

 

 

 今後北朝鮮と米国とのあいだに少なくとも次の4つの可能性が考えられます。

 

  • 北朝鮮はグアム沖にミサイルを発射しない
  • 北朝鮮はグアム沖にミサイルを発射、米国はTHAADによる迎撃を見送り
  • 北朝鮮はグアム沖にミサイルを発射、米国はTHAADによる迎撃を試みるも失敗
  • 北朝鮮はグアム沖にミサイルを発射、米国はTHAADによる迎撃を試みて成功

 

 1つ目は最も平和的なものです。実現するためには外交的解決が進むことが条件ですが、ティラーソン国務長官もマティス国防長官も北朝鮮に対して核・ミサイル開発をやめることが外交の必要条件だとしていますし、トランプの「炎と激怒」発言もあり、その可能性が高いとはいえない状況です。

 

 ただカタール断交問題がティラーソン国務長官のシャトル外交の甲斐もあって最悪の事態を免れたという外交的成果もありますし、北朝鮮のグアム沖へのミサイル発射計画がはったりである可能性もありますし、これらを考慮すると北朝鮮がミサイルを発射しない可能性はそれなりに高そうです。

 

 2つ目は北朝鮮の核・ミサイル開発をエスカレートさせる結果につながるでしょうが、開戦まではいかないでしょう。ミサイルがグアム島に落下しないことが確実な場合、米国にとってまだリスクの少ない選択肢ですので、それなりに実現する可能性は高そうです。

 

 3つ目は北朝鮮の核・ミサイル開発をエスカレートさせる結果につながるでしょう。開戦の可能性も出てきます。が、一番の効果は米国の防衛能力の欠陥が世界に露呈し、戦後の世界覇権国としての米国の立場や矜持が崩れることでしょうか。

 

 米国にとってはTHAADによる迎撃を決定すること自体が北朝鮮との緊張関係をさらに悪化させることにつながるで、リスクは高いです。ただ、米国がTHAADによる迎撃をわざと失敗させることを目的として迎撃を決定することはあるかもしれません(国防総省から、米軍の長期的な軍事戦略を根本から見直すべきとのレポートが出ていますから)。

 

 実現可能性は1、2つ目ほどではないにしろ、それなりにあると思います。

 

 4つ目は3つ目と同様、北朝鮮の核・ミサイル開発をエスカレートさせ開戦の可能性も出てくる嫌なものでしょう。ただ3つ目とは違い、米国の立場や矜持が保たれることになります。戦争屋のCIAやイスラエル等が明らかに弱体化していることもあり、実現可能性は一番低いのではないかと思います。

 

 1つ目で済めば良いですし、2つ目が実現してもまだギリギリ大丈夫だとは思いますが、3つ目、4つ目が実現してしまうと米朝開戦という最悪の未来も可能性として考えなければならないでしょう。

 

 ちなみに上の4つの可能性、「米国→日本」に置き換えても考えなければなりません。北朝鮮は日本の上空にミサイルを飛ばす計画があると言っているのですから。

 

 もし日本のミサイル迎撃システムが北朝鮮のミサイルを撃ち落せば、日本が最悪の結末を迎える未来を現実的な可能性として考えなければならなくなるでしょう。

 

 小野寺防衛大臣、北朝鮮が米領グアムを狙って弾道ミサイルを撃った場合、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に認定し、自衛隊のイージス艦が迎撃することは法的に可能だとの認識を示したようですね。

 

 専門家からは「米国が個別的自衛権を発動していない段階で、日本が『存立危機事態』と認定して自衛隊が米軍と一緒に参戦することはできない」との指摘も出てきているにも関わらずね。

 

 北朝鮮が言うように「日本列島を焦土化、太平洋に沈没」させたいんでしょうか。

 

 もっとも、防衛省幹部いわく、北朝鮮から日本の中国・四国地方上空を通過し、グアムへと向かうミサイルを、イージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル「SM3」の能力で撃ち落とすのは「技術的に困難」のようですが。

 

 まぁ、こうしたアメリカ製迎撃ミサイルシステムには、どうせマルウェアが仕込まれていて米国がサイバー攻撃によって自由に機能を停止できるつくりになっているでしょうから、最終的に日本がどうなるのかは北朝鮮と米国次第ってことでしょうけれどもね。

 

 北朝鮮が本当にグアム沖にミサイルを発射するのか、発射した場合米国や日本はどのような対応を取るのか...この結果次第で、今後の北朝鮮情勢の行く末をかなり推測しやすくなるかもしれませんね。

 

米国は北朝鮮をわざと軍事的に強化させている?

 最後に、米国にとって北朝鮮を扇動して北朝鮮の核・ミサイル開発を推進することは、米国自身にとってもメリットがあることです。

 

 何故なら、米軍が韓国や日本、グアムといった東アジア・太平洋地域から撤退しても、北朝鮮が中国に対する抑止力として働いてくれるようになるからです。

 

 現在は中国が世界の主導権を握ってきているように見えますが、北朝鮮が軍事能力を向上してくれれば中国一強に歯止めをかけることが期待できます。

 

 そうなれば米国としても、中国と北朝鮮(あとロシア)が軍事的均衡状態にあるうちに新たな軍事的・経済的な戦略を時間を掛けて計画、実行し、米国をまたそれなりに強い国家として再建するチャンスも増えるでしょう。

 

 米軍はもはや米国一強の世界を維持するのは不可能で、このままでは中国・ロシア・イラン・北朝鮮、それにイスラム原理主義グループ等の台頭もあって、米国も世界に飲み込まれると危惧していますから、一度米軍を世界から撤収して立て直さざるを得ないと思っているはずです。

 

 そのために北朝鮮の軍事力強化は好都合なのです(韓国と合わせて中国と長期間対峙できる程度の強化が許容限度でしょうが)。東アジアでの軍事的均衡が保たれるようになるし、米国の扇動により北朝鮮がますます軍事的に強くなることでソウルが火の海になる蓋然性が高まれば、在韓米軍やその家族等の生命を危惧する米国軍人も多数出てきて、米軍の戦いへの意欲もますます落ちそうな気がします。

 

 最後は財政問題といった、北朝鮮問題とは直接関係のない内部事情で撤収する感じになるんでしょうかね。

 

 個人的には、こうした事情もあって、米国は北朝鮮をわざと扇動して軍事的に強化させているのでは?と思っていますし、だからこそ両者の何らかの阿吽の呼吸を感じ取っているのです。

 

**********

 

 米国は9月に入ると、2018会計年度(10月1日から始まる)予算案と債務上限問題をめぐって議会が大紛糾することは確実で、北朝鮮どころの話ではなくなってしまいます。

 

 トランプも「誰も見たことがないことが起こるだろう」と言っているように、我々の想像のはるか斜め上を行く事態が、いますぐにでも起ころうとしているのかもしれません。

 

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