Cash account、Sweep accountと資産保護の関係

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Cash account、Sweep accountと資産保護の関係

初回公開日:2016/04/08
最終更新日:2017/05/23

 

今回は米国証券口座の開設時によく訊かれる「Cash accountとSweep accountの選択」について、万が一の場合の資産保護の観点から話していきます。

 

実はCash accountとSweep accountの選択は、万が一のことが起きたときの資産保護と深い関係があり、非常に重要な選択なのです。

 

まずは証券口座に対する資産保護の仕組みを簡単に話した上で、Cash accountとSweep accountのどちらを選択するのが安心かについて話していきましょう。

 

※本記事は客観的な情報をもとにした合理的な説明に努めていますが、本記事を参考にして万が一損失を被られた場合にも一切責任は負えません。ご了承ください。あくまで一つの意思決定のための道具としてご利用ください。

 

【追記:2017/05/23】
現在FirstradeではSweepのサービスは行われておりません。2016年(のおそらく秋あたり)からFirstradeに預けられた現金はすべてCash accountに預けられることとなりました(Firstradeに問い合わせて確認)。

 

証券会社が破産(Liquidation)したときの資産保護

私たちが証券口座を開設して資産運用するときに頭の片隅に置いておきたいのは、万が一利用している証券会社が清算(Liquidation)したときです(破産と似たようなもの)。

 

幸運なことを、万が一利用している証券会社がLiquidationしても、定められた上限額までであれば資産の保護を受けることができます。

 

通常は証券会社の財政状況が悪化した場合でも、Liquidationする前に他の証券会社の口座に資産を移管することで資産を守ることができます。

 

しかし稀にLiquidation前に資産が盗まれるなどして移管手続きが出来ないままLiquidationが開始してしまう場合があります。Liquidationが開始されると口座にあるすべての資産を失うことにつながるわけですが、こうした場合の資産の損失時に定められた上限額までの保護を受けることができるのです。
→The Investor's Guide to Brokerage Firm Liquidations

 

証券口座に預けている資産を保護してくれる団体は2つあります。SIPCとFDICです。証券口座に預けられている資産の種類によって、SIPCによる保護とFDICによる保護のいずれかを受けることができます。

 

SIPCとFDICによって受けられる保護の対象と保護額の上限は大体次のようになります:

 

  SIPC FDIC
保護対象資産

・証券投資家保護法(Securities Investor Protection Act)で定義された"証券"。株式、債券、投資信託など
・Cash accountに預けられている余剰資金
・Sweep accountに預けられている現金のうち、銀行のSavings accountへの預け入れ以外によって運用されている部分

・Sweep accountに預けられている現金のうち、銀行預金(通常の利息がつく預金や市場金利連動型普通預金)によって運用されている部分
※市場連動型投資信託などで運用されている分はSIPCによる保護の対象となる

保護対象外資産

・通貨(Currency)
・商品(Commodity)
・先物(Futures contract) など

 
保護上限額 50万ドル(このうち現金は25万ドルが上限) 25万ドル

 

証券口座の資産保護を考える上では「現金」と「現金以外」とを分けて考えることが大切です。本記事ではCash accountとSweep accountの選択に関する話をしたいので、それに関わる「現金」部分の話をメインにします。

 

「現金以外」の資産保護に関してはこちらの記事をご覧ください。

 

「現金」についてはCash accountとSweep accountのどちらを利用しているかで、保護してくれる機関が変わります。Cash accountとSweep accountは口座開設手続き時に訊かれる項目ですが、実は証券会社のLiquidationという万が一の場合に受けられる資産保護に大きく関わってくるのです。

 

Cash account利用の場合は、現金はSIPCによる保護を受けることになります。上限は25万ドルで、SIPCの保護上限額50万ドルに含まれます。
→What SIPC Protects

 

一方Sweep account利用の場合は、Sweep accountに預けている現金のうち銀行預金として運用されている現金はFDICの保護対象となります。市場連動型投資信託といった別の元本保証資産として運用されている分についてはSIPCの保護対象となります。FDICの保護上限額は25万ドルです。
→My brokerage firm sweeps my cash. Is that cash protected by SIPC?

 

Sweep accountの現金については運用されている資産の種類によって保護機関が異なるのがややこしいですね。以下は説明をシンプルにするため、Sweep accountの現金はすべて「銀行預金として運用される」(つまり全額FDICが保護)として話を進めます。資産保護を考える上でも、このように考えるのがリスク管理上一番合理的です。

 

Cash account利用時は「現金込みで最大50万ドル保護」、Sweep account利用時は「現金はFDICにより最大25万ドル保護」、「現金以外の証券はSIPCにより最大50万ドルの保護」、計75万ドルまでの保護を受けられることになります。

 

こうしてみると「FDICによる保護が受けられるSweep accountを利用した方が、証券口座のLiquidationという万が一の場合にお得」なように見えます。

 

果たしてそうでしょうか?

 

本当にSweep accountを利用した方がお得なのか?

保護を受けられる総額だけを見れば、FDICによる保護も受けられるSweep accountの利用がお得なように見えます。しかもSweep accountを利用すれば利息も得られるので一石二鳥です。

 

しかし複数の証券会社の口座を利用しており、万が一これら複数の証券会社が同時期にLiquidationしてしまった場合には景色が変わってきます。

 

SIPCによる保護は「証券会社ごと」に受けることができます。例えば皆さんがFirstradeとSogoTradeに同じ名義で口座を開設していたとしましょう。そして大規模な金融危機が起こるなどして、FirstradeとSogoTradeの両方が経営破綻したとしましょう。

 

この場合、皆さんはFirstradeとSogoTrade、それぞれに対して保護を受けることができます。つまり最大100万ドルまでの保護を受けることができるのです。
→Rule 201

 

FDICによる現金の保護も異なる銀行ごとに25万ドルの保護を受けることが出来るのですが、ここで問題です。FirstradeとSogoTradeのSweep accountの資金はそれぞれどの銀行に預けられるのでしょうか?

 

もし預入される銀行が異なれば別々に保護を受けられるかもしれませんが、同じ銀行に預入されたらアウトです。

 

例えばFirstradeとSogoTradeのSweep accountにそれぞれ20万ドル、計40万ドルの現金を預けており、同じアメリカ銀行という一つの銀行(説明のための架空の銀行です)に預けられて運用されていれば、保護されるのは25万ドルで残りの15万ドルは失うこととなるでしょう。

 

一体Sweep accountに預けられた資金はどの銀行の口座に預けられるのでしょうか?ここがまさにクリティカルな部分ですね。

 

調査してみたところ、現在のところ上のような心配は単なる杞憂のようです。

 

FirstradeのSweep accountの運用方法を調査したところ、Sweep accountの資金はすべてReich & Tang Insured Deposits Programの運用に使われることがわかりました(→ソース)。Firstradeのクリアリングハウス(Clearing house)であるApex Clearing Corporationを通じてプログラムが適用されます。

 

プログラムの内容は複数行の口座に分散して資金が預けられ、FDICの保護上限である25万ドル以下になるよう調整してくれるとのこと。そしてこのプログラムで保護される資金の上限は250万ドルとのことです。上限が250万ドルであればほぼ十分ではないですか?

 

SogoTradeについてもクリアリングハウスが同じApexであり、Apexを通じてSweep programが適用されると明示していることから(→ソース。「Sweep」と検索)、おそらく同一のプログラムが適用されると思います。保護上限額はFirstradeと通算されると思います(これは推測です)。

 

というわけで、このプログラム通りしっかり運用してくれるのであれば、Sweep accountの現金の資産保護は十分そうですね。

 

Cash accountとSweep accountのどちらを利用するべきか?

最後に万が一のときの資産保護という観点から、Cash accountとSweep accountのどちらを利用した方がよいかを考えてみましょう。

 

調査からわかったのは、Sweep accountの運用プログラムの資産保護さえ十分であれば、保護上限が引き上げられやすく利息も得られる分Sweep accountの方がお得だということです。

 

ただしSweep accountはいくら資産保護額が十分であっても、証券会社の破綻以外にも預けている銀行の破綻などによって一時的に現金の利用が出来なくなるリスクもないとは言えないので、その点は気を付けたほうが良さそうですね。

 

このリスクを考えると、もし一つの証券口座だけを利用するのであればCash accountの利用が無難にも思えます。複数の証券会社を利用するのであれば、最低一つはCash accountに設定して残りをSweep accountにしておけば安心なように思えます。

 

Sweepの運用プログラムに信頼がおけない方や、証券口座にある現金を勝手に運用されるのが気に障るのであれば、次のような戦略をとるのが資産保護の観点から一番確実だと思います。

 

【追記:2017/05/23】
Cash Accountでも現金は運用されているようです。少なくともFirstradeでは2016年11月以降からCash accountに利息がつくようになったので、間違いなく運用されています。

 

それは一つの証券会社の資産総額がSIPCによる保護を受けられる上限の50万ドル以下に抑えておき、複数の証券会社を利用して資産を分散させておくことです。もちろんすべてCash accountで。

 

そうすれば上に書いたように、複数の証券会社に万が一のことが起こっても、各証券会社の口座ごとに50万ドルの保護を受けられます(3つの証券会社を利用すれば最大150万ドルまで保護されるはず)。

 

現金は各証券会社ごとに25万ドルが保護上限額なので、この点を気を付けて複数の証券会社の口座に上手く資金を分散すればほとんど問題ないでしょう。

 

最終的にCash accountを利用するかSweep accountを利用するかは皆さん次第です。投資資金や投資目的、投資に対する考え、万が一への対処、こうしたことを総合的に考慮して選択してもらえればと思います。

 

米国証券口座を開いて米国株投資をスタートしたい方は、次の記事をご覧ください。
→米国証券口座を開いて米国株式投資を始める

 

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