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レーシック手術と帰納の問題

   前回の記事で帰納の問題を紹介しました。 危険だという証拠がないから安全だという、誤った認識をしてしまうことでした。


   今回は帰納の問題によって、当初は暗黙のうちに安全だと思われていましたがその後危険性が表面化してしまった例を考えます。

レーシック手術と帰納の問題

   近視眼を直して裸眼で生活できるようになる魔法の医療、レーシック。 日本では2000年にレーシック手術が行えるようになりました。


   当初の2000年には年間2万人の人がレーシック手術を受けましたが、2008年にはなんと年間40~45万人もの人がレーシック手術を受けました。 8年間でレーシック手術を受けた人数は20倍以上に膨れ上がったのです。


   テレビでも芸能人がレーシック手術を受けたりと、何かと話題になっていました。 私の友人でもレーシック受けようか迷っていた人がいたほどです(結局受けていないようですが)。


   しかし2008年をピークにレーシック手術の患者数は減少しており、2012年には20万人にまで半減してしまいました。


   半減したしまった一番の原因はレーシック手術の危険性が表面化されてきたことです。 2009年からレーシック手術を受けた患者の目の不調がメディアに流れ始め、その後どんどんレーシック手術による副作用が表面化したのです。


   2014年現在、レーシック手術を受けた患者の実に40%もの人がドライアイなどの何らかの目の不調を訴えており、中には慢性的なドライアイになってしまったとか、最悪失明に至る人も出てきています。


   2009年に問題が現れるまでは、レーシック手術による危険性というのは周知されていませんでした。 これにより患者は「危険だという情報がない→安全」という誤った論理を受け入れてしまったのだと考えられます。


   つまり帰納の問題というトラップに引っかかってしまったのです。 危険だという情報がなかったが故、それを無意識のうちに安全だと解釈してしまったのです。


   私たち人間は自分たちの頭にないものを理解することが中々できません。 危険だという情報がなければ、「レーシック=危険」という考えは直感的に受け入れにくくなってしまいます。


   むしろ「レーシック=魔法の医療」というポジティブなイメージが頭の中に染みついてしまい、レーシックは良いものだという印象を持ちやすい状況にあったと考えられます。


   こうした人間のフィーリング、直感、System1がレーシックに対する機能の問題を生み出してしまったのです。

帰納の問題を防ぐ鉄則:結果で考える

   レーシックのような帰納の問題を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。


   鉄則はただ一つ、結果を考えることです。 具体的に言えば、うまくいったときのメリットとうまくいかなかったときのデメリットを天秤にかけて判断しろ、ということです。


   レーシックのように人体に影響を与えることを行う前に、結果でものごとを見る必要があります。 確かにレーシックは眼鏡やコンタクトをしている人にとっては魅力的ですが、もしもレーシックが失敗したら...というリスクを常に考える必要があります。


   レーシックが広まった当時で危険だという情報がないときでも、レーシックは自分の目にメスを入れる行為であることは事前に知ることができます。 そこから自分の目に起こる最悪なことってなんだろう、そう想像することが大切です。 こういう想像が出来れば、失明というリスクを連想することができましょう。


   裸眼で何でも見えるようになるメリットと、もしかしたら失明するかもしれないというデメリットを天秤にかけたとき、どうでしょうか。 正直、失明するデメリットの方が裸眼で何でも見えるようになるメリットよりもずっと大きいですよね。


   こういう観点で物事をみると、レーシック手術というのはとてもFragile、リターンを遥かに上回るリスクを潜在的にもつものなのです。


   しかし状況次第では必ずしもレーシック手術が悪いわけではありません。 (現実にあり得るかはわかりませんが)もし仮にあまりにも近視が進み過ぎていて、眼鏡をかけてもコンタクトをしても全然見えない状態にまで陥ったら、裸眼で何でも見えるようになるメリットはとても大きくなります。


   こういう場合だったらレーシックを受けるほうが良いでしょう。 レーシック手術を受けなければどうせ何にも見えないんだから、失明のリスクを背負ってでもレーシック手術を受けて裸眼で見えるようになるメリットの方が大きいです。Antifragileな行為となるのです。


   良い結果と悪い結果の天秤を掛けて、良い結果の方が大きければ受ける、悪い結果の方が大きければ受けないという判断が大切なのです。

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