Antifragileとは何か?
"ブラック・スワン"という概念を世に広めたことで有名なナシーム・タレブは、著書「Antifragile」の中で題目にもあるAntifragileという概念を提唱しました。
何か人やものがAntifragileであるとは、大きな衝撃や変化、混乱が起こった時に多大なる利益を上げられることを言います。
一番簡単な例が人の筋肉です。 負荷の軽い筋トレを行っても大した筋肉はつきません。 しかし自分の筋肉の限界に近い負荷、つまり大きな衝撃を与えることで筋肉の細胞が壊れ、その後元よりも強い筋肉が出来上がります。
Antifragile = Anti + Fragile
AntifragileとはAnti(アンチ)とFragile(脆弱な、壊れやすい)を組み合わせた造語です。 つまり「壊れやすい」の反対なのです。
「壊れやすい」の反対ってことは「壊れにくい」ってことではないのか?と思われる方もいるでしょう。 しかしAntifragileとは決して「壊れにくい」というものではありません。 最初に述べたように、Antifragileとは大きな衝撃によって多大な利益を上げることです。
「壊れにくい」だと大きな衝撃を受けても中々壊れないということです。 つまり大きな衝撃を受けても大きな損はしないが、得もしないことになります。 (このようなものをタレブは「Robust」なものと言っています)
しかしAntifragileは大きな衝撃を受けることで得をするのです。 つまり大きな衝撃を受けることを待ち望んでいなければなりません。
FragileとグラフからAntifragileを理解する
ここでFragileなものを考えてみましょう。 Fragileなものとはコップ、ケータイ、パソコン、テレビ、CDなどです。 これらはみんな大きな衝撃や変化を加えると簡単に壊れてしまいます。
コップだったらテーブルから誤って落っことしたらすぐに割れます。 ケータイ、パソコンなどももっと高いところから落とすと壊れてしまいます。 またこういった電化製品は大量の水がかかってしまっても壊れてしまいます。
これをグラフで表すと次のようになります。
グラフからわかるように、Fragileなものは小さな衝撃を与えただけではビクともしませんが、ある大きさの衝撃を境にグワッとマイナス方向(下方向)に行って最後には壊れてしまうのです。
では上のグラフを反対にしてみましょう。 グラフを反対にすると次のようになります。
このグラフはある大きさの衝撃を境にドカッとプラス方向(上方向)に行っていますよね。 つまり大きな衝撃によって利益を得るのです。
AntifragileはFragileの反対であると話しました。 このようにグラフで考えると、少なくとも概念的な意味でAntifragileが大きな衝撃や変化によって大きな利益をあげるものというのがしっくり来ると思います。
Antifragileは壊れにくいではありません。 大きな衝撃や変化で大きな利益を上げるものなのです。 まずはこれを理解してください。
Fragile、Robust、Antifragileの例
世の中に存在する様々なものはFragile、Robust、Antifragileの3種類に分けられます。 この3つのイメージを皆さんに理解していただくためにいくつかの例をご紹介します。
例を紹介する前に、この3つの性質を改めてまとめておきます:
- Fragile:一度の大きな衝撃によって大きな損を生み出すもの
- Robust:大きな衝撃を受けても大きな損も得もしないもの
- Antifragile:一度の大きな衝撃によって大きな得を生み出すもの
例1:職業
Fragile | Robust | Antifragile |
---|---|---|
多くのサラリーマン | 医者 | アフィリエイター |
多くのサラリーマンはFragileです。 何故なら安定した給料をもらえますが、景気の悪化等で業績が悪化し、リストラや企業の倒産に遭って急に収入が途絶えるリスクがあるからです。 大した給料をもらえない人が多数ですから、収入が途絶えたときに十分な貯金が出来ていない可能性があります。
低収入と仕事を失った時に収入が途絶えるリスクが、多くのサラリーマンをFragile化させているのです。
医者はRobustです。 何故なら景気が悪化しようが何しようが、医者は常に必要とされる職業だからです。 むしろ少子高齢化時には医者の需要はより高まるでしょう。
また医者になるためには高度の専門知識や経験を要し、簡単に職を奪われないこともRobustであるためのポイントです。
最後にアフィリエイターはAntifragileです。 何故なら時間以外のコストをほとんど掛けずに、自分の努力次第で収入をグングン伸ばせる可能性があるからです。
開始して数か月~数年は努力しても収入がほとんど入らないものですが、ある時を境に一気に努力が報われて安定的な収入を得られます。 さらに努力を重ねればもっと収入を増やせます。
「ある時」というランダムな衝撃が大きな収入を生むのです。
例2:ダイエット方法
Fragile | Antifragile |
---|---|
食事を摂らないで我慢する | ジョギング、筋トレなどを楽しみながら行う |
食事を抜くダイエットを行うと、食事を我慢している最中は痩せられるでしょうが、いざ食事を元に戻すとリバウンドしやすくなります。 非常にFragileなわけです。
一方でジョギングや筋トレを楽しんで行うダイエットはAntifragileなダイエット方法です。
私の経験から、ジョギングや筋トレをして代謝を高めることが無理せずダイエットをするためのポイントです。 運動をしてもしばらくは痩せない可能性がありますが、ある時を境に急に体重が減るものです。
私も運動を開始して3ヶ月は体重が全く変わりませんでしたが、3ヶ月経ってから急激に体重が減り始めました。 運動を開始してから1年経ったころには、1年前に比べて10kg以上も痩せていましたから。
運動を絡めた正攻法のダイエットは最初は中々結果が出ず、努力が報われません。 しかしやり続けるとあるとき急に体重が減りだすものなのです。 つまりAntifragileなのです。
例3:ミスに対する考え方※
Fragile | Robust | Antifragile |
---|---|---|
ミスをしてはいけない | ミスは情報。良くも悪くない | ミスを糧に成長できる! |
※ただし原発事故のような致命的な過ちは除く
ミスは私たちに大きな情報を与えてくれます。 何せミスは自分の頭の中になかった、新鮮で刺激的な情報となってくれますから。
ビジネスや投資にしろ、ジェットエンジン等の科学技術の発達にしろ、プログラミングにしろ、Trial and errorの繰り返しによって成功を掴めるものです。 どれだけ失敗を肯定的に受け止められるかが、大きな利益を得るためのカギになります。
失敗が成功へのカギという鉄則を頭に入れれば、ミスを悲観的に捉えるのはFragileな考えであり、ミスを肯定的に捉えることがAntifragileな考えなのです。
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