帰納の問題と食品の安全性-被害が出るまで安全かどうかはわからない-

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帰納の問題と食品の安全性-被害が出るまで安全かどうかはわからない-

   私たちが知らない間に危険なものに手を出してしまい、無意識のうちに自らをFragileにしてしまう問題の一つに帰納の問題があります。

帰納の問題とは

   帰納とは、1000羽の白鳥がすべて白ければすべての白鳥は白であると結論付ける方法のことです。 つまり数多くのデータを検証してすべて同じような結果が出れば、その結果は常に成り立つと結論付けるのが帰納と呼ばれるものです。


   現代は帰納的手法をあちこちで取り入れています。 例えば新薬が発売されるときも、帰納的にメリットがある、デメリットがないことを確認したうえで販売されます。 何回もテストをした結果デメリットがなければ、危険性はないと判断され世の中に出回ります。


   しかしこうした帰納的手法には大きな問題があります。 それは何百回、何千回と同じような結果が得られたとしても、その結果が正しいとは限らないことです。


   つまりたった一回でもいままで観測された結果と異なる結果が出てしまえば、何百回、何千回と観測してきた結果は正しくなくなってしまうのです。 これが帰納の問題です。


   例えば昔は白い白鳥しか観測されなかったので、すべての白鳥は白いと思われていました。 無駄な努力を表す英語のことわざで「黒い白鳥を探すようなものだ」というのがあったくらいですから。


   しかしその後オーストラリアで黒い白鳥(コクチョウ)が発見されて、「すべての白鳥は白い」というのが誤りであることが証明されました。 何百羽、何千羽もの白い白鳥が観測されようとも、たった一羽の黒い白鳥が発見されれば「すべての白鳥は白い」は嘘になるのです。

帰納の問題と食品の安全性

   帰納の問題が顕著に現れる一つのフィールドは、食品の安全性です。


   世に溢れている食品はすべて安全との触れ込みで販売されていますが、これは本当の意味で安全なわけではありません。 これまで致命的な危険性が発見されていないから安全だと謳っているにすぎないのです。


   例えば現在ゼロカロリーの飲料や食品がたくさん売られています。 ゼロカロリーの飲料や食品には、アスパルテームという甘味料が使用されています。


   アスパルテームは砂糖の200倍もの甘さがある化学物質です。 つまり砂糖のたった1/200の量だけアスパルテームを使用すれば同じ甘さが得られるわけです。 これがゼロカロリーと呼ばれる所以です。


   このアスパルテームの安全性も、帰納的手法によって言われているにすぎません。 例えば欧州食品安全機関(EFSA)は2009年、次のような声明を出してアスパルテームの安全性を訴えています:


   on the basis of all the evidence currently available… there is no indication of any genotoxic or carcinogenic potential of aspartame
   (現在出ているすべての証拠から考えて、アスパルテームの潜在的遺伝毒性や発がん性を示唆するものは全くない)


   危険だという証拠がないから、アスパルテームを使用しても問題ないと結論付けているのです。


   まさに帰納の問題です。 確かに膨大な証拠があってこその結論でしょうが、だからといって「危険という証拠がない→安全」と考えるのは早計です。 たった一つの致命的なデメリットが表面化すれば、もはや安全ではなく危険となります。


   既にゼロカロリー食品を摂ることによって逆に肥満を引き起こしやすくなるといった結果が出ています。 将来、信頼できるデータのもとで発がん性といったより深刻なデメリットが証明される可能性も0ではありません。


   致命的なデメリットについての証拠が現在ないだけで、潜在的な危険性がある可能性は否定できないのです。


   現代は科学的なデータや理論を振りかざして安全性、正当性を訴える時代です。 もちろん中には信頼できるものもありますが、食品や薬の安全性は本当に安全かどうかはわからないのです。


   何十年、何百年と使用されてきて安全性が保障されていれば大丈夫ですが、そうではなく最近出たばっかりのものは隠れた危険性が潜んでいても不思議ではありません。


   少なくとも食品の安全性に関しては、新しい添加物を含む食品や飲料はむしろ危険度が高いと思っておくことが無難です。 新しきを疑い、古きを愛することが、食品の安全性に関する帰納の問題への最大の解決策になるのです。

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