何故Antifragileが重要か-ランダムと非線形-
私はAntiragileという考えはこれからを生きる日本人にとってぜひインストールすべき考えだと思っています。 その理由は一言で言ってしまえば次のようになります。
不確実なものを活かせるようになる!
実は世の中を見渡すと、不確実の中にこそ大きな成功や楽しみが隠されていることがわかります。
副業の成功、ダイエットの成果が表れるタイミング、旅行先で虹を見かけたときの喜び... こういったことは私たちが事前に予期できるものではありません。 努力、行動+ランダムによって得られるものです。
私たちは不確実、ランダムをネガティブなものと捉えがちです。 不安定、ランダムと聞くと地震、株価の暴落、リストラといったネガティブなものを連想してしまいます。
しかし上のように、周りを見渡せば不確実でランダムなものは大きなプラスな出来事を生み出すことだってあるのです。 むしろ大きな利益を得るためには、安定を手放して不確実なものに挑む必要があります。
こういった思考で物事を捉えて行動に移すことがAntifragileなわけです。
世の中に隠された2つの性質
世の中のあらゆる出来事には次の2つの性質が潜んでいます:
- ランダム性(Randomness):結果ははいつ現れるかわからない
- 非線形性(Nonlinearity):結果は長い停滞の末に一気に現れる
ランダム性、非線形性は世の中の摂理です。 それを実感してもらうために、ランダム性、非線形性が関わっている例をいくつか列挙しましょう。
- 火山の噴火と登山者:噴火が起こっていない間は登山者は普通に山を登れるが、いつ起こるかわからない噴火によって登山者の命を奪う
- 株価:ほとんどの期間で株価は緩やかな変化だが、予期しないときに歴史に名を刻む大暴落が一瞬で起こる
- サラリーマン:普段は安定した給料が支払われるが、リストラや倒産によって収入が一気に途絶える
- 健康:今までタバコを毎日何箱吸っても何も問題なかったが、ある日の健康診断で末期の肺がんだと宣告された
- 投資:市場が暴落して株価が格安のときにいろいろな株を買いまくって、3年間放置したら株価が2倍に増えていた
- サイト訪問者:サイトを作成しても最初は訪問者がからっきしだったが、優良コンテンツを追加していくうちに急に閲覧者が10倍に増えた
- 将来:いままでお金は貯金すればよいと思っていたが、ある一冊の本をきっかけに将来の資産をどう増やしていくか真剣に考えるようになった
こうしてみると、私たちのあらゆる出来事はランダム性と非線形性に満ちていることがわかります。 いつ起こるかわからないきっかけ、出来事が、良い悪いにかかわらず大きな影響を及ぼすのです。
逆に考えれば、ランダムで非線形なものをどれだけプラスに扱えるかが自らの人生に対する大きなポイントとなります。 こうした考えがAntifragileになるための第一歩です。
成果は努力に比例しない
ランダム性と非線形性について、一つ重要な例をあげます。 それは努力と成果との関係です。
そしてこの例はAntifragile的思考、つまり「一度の大きな衝撃によって大きな利益を得る」ことがいかに大切な思考であるのかを示す例でもあります。
あなたは努力と成果はどのような関係になっていると考えていますか。 努力とそれに見合った成果との関係を表すグラフを考えたときに、どういったものを思い浮かべますか。
多くの人は下のようなグラフを思い浮かべるのではないでしょうか。
努力と成果は比例関係にある、直線関係にあるというグラフです。 つまり努力をした量に見合った成果が常に現れる、そういったグラフです。
しかし努力と成果は直線関係で出来ているとは思えません。 努力の分だけ成果が常に保証されるなんて、ほとんどありえないと思っています。
そうではなくて、努力に努力を重ねていくと、いつの間にか自分の知らない間に能力がぐわっとあがっていることに気づきます。
例えば私は大学から大学院まで、ずっと数学を勉強してきました。 数学というのはただ単に読めば良いというわけではなく、証明をじっくり読んでしっかり自分の頭で考えて理解しなければ中々実力はあがりません。 そのため一行一行丁寧に読み進めていき、場合によってはたった一行の文章の意味を理解するために何時間も試行錯誤して考える必要があります。
しかし何時間も努力して理解しようと努めても、やっぱり理解できないときがあります。 そうしたときは仕方なくわからかった場所を飛ばして、先のページを読み進めていきました。
何週間、何か月か経って教科書をパラパラとめくったときに、以前理解できなかった箇所を見つけたのでもう一度ふと考えるのです。 そうしたら不思議なことに、昔は何時間かけて考えても理解できなかったところが、ものの数分ですんなりと理解できた、そういうことがあります。
数学の勉強時間に見合った成果はすぐには現れないことがありましたが、さらに勉強を積み重ねて改めて見直すと、いつの間にか自分の実力があがっていたのです。
数学に限らず、英語の勉強でもそうです。 毎日英語のニュースを聞いても最初は全く理解できないですが、しばらく経ったある日にまたいつものように英語のニュースを聞くと、今までが嘘のように聞き取れたりするものです。
またダイエットでも、最初の3ヶ月はまったく痩せませんでしたが3ヶ月経ってからいきなり体重が減り始め、ダイエット開始から1年後には体重が10kg以上も減っていました。
こうした私自身の経験を踏まえると、努力と成果のグラフは下のように表されるような気がします。
最初は努力しても成果は出ません。 青線のような停滞期が続くことになります。
しかし停滞期も努力を繰り返していき、点Aの地点に行くとあるとき突然赤線のようにドワッと成果が上がっていくのです。 その後またしばらく停滞期が続いて、その後点Cの地点に行くとまた突然ドバッと成果が上がっていく、この繰り返しなのです。
成果は努力の分だけ直線的に得られるのではなく、ある時突然瞬間的に成果がグワッとあがる曲線のように得られるのです。 そしてこれが私が先ほど述べた2つの要素のうちの非線形性です。
努力と成果の関係に存在するランダム性
点Aや点Cに達するまで努力をすると、一気に点B、点Dにまでギューンと成果があがります。 しかし私たちは点Aや点Cがどこにあるのか事前にはわかりません。 つまりどこまで努力すれば目に見える成果が一気に現れるのかがわからないのです。
これがランダム性です。 努力はいつか何かしらの形で報われますが、いつ報われるかわからないのです。
このランダム性は私たちを三日坊主にさせてしまうための要因です。 努力しても中々報われないために、いまの努力が無駄なんだと思ってすぐやめてしまうものです。
これは暗黙のうちに努力と成果が比例関係であると誤って認識しているからです。 努力すれば努力した分だけすぐに成果が現れるものである、そういう思考のトラップに引っかかっているからすぐに諦めてしまいます。
しかし努力が成果に結びつくのはランダムなのです。 成果が中々現れなくてもひたすら努力し続ける、これが成果を出すための唯一無二の鉄則です。
場合によってはかなり長い期間の努力を要することだってあります。 私だって英語のニュースがかなり聞き取れるように実感したのは英語の勉強を再開してから4年です。 4年間ほぼ毎日、何かしらの形で英語の勉強をしてきましたが、こんなものです。
努力をし続けているうちに、成果としては現れないけれども見えないところでマグマのように溜まっているのです。 そして努力というマグマが溜まりに溜まっていくと、いつか知らないうちに一度の大噴火を起こして大きな成果が生まれるのです。
努力と成果の関係はまさに一度の衝撃で大きな利益を得る、Antifragileなものなのです。
ランダムを活かすか殺すかがFragileとAntifragileの分かれ目
大きな出来事は予期せずランダムに起こるものだということを見てきました。 地震等の災害、株価の暴落といったとても悪い出来事はランダムに起こります。 一方でスキルアップの成果、副業の成功、新しい人との出会いによって人生が大きく変わるといった、自分にとって大きなプラスになる出来事もランダムに起こります。
そう考えると、ランダムに起こる大きな出来事をどう活かすかが私たちの人生を大きく左右するのです。
Fragileとは大きな衝撃や変化によって大きな損をすることでした。 一方Antifragileとは大きな衝撃や変化によって大きな得をすることでした。
世の中の大きな出来事がランダムに起こることを考えれば、Fragileとはランダムな出来事によって損をするもの、Antifragileとはランダムな出来事によって得をするものと言い換えられます。
人生に大きな影響を与えるのがランダムだとすれば、私たちがいかにAntifragileになれるかが良い人生を送るための大きなカギを握るのです。
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