血液を医師に抜き取られて死んだ男、ジョージ・ワシントン

投資ブログへのリンク

血液を医師に抜き取られて死んだ男、ジョージ・ワシントン

   医師の治療によって別の障害を引き起こす病気であるIatrogenesis(医原病)。 医療の進歩は素晴らしいものですが、一方で医者は必ずしも私たちを健康にしてくれる適切な治療を100%確実に行ってくれるとは限りません。 ここに医療に関するリスクが存在します。


   Iatrogenesisは過去、現在問わず存在するものです。 そこで今回は過去のIatrogenesisの事例を一つご紹介します。


   アメリカの初代大統領であるジョージ・ワシントン。 実は彼もIatrogenesisによって亡くなっています。 つまり医師による病気の処置によって、別の病気を引き起こして死んだのです。

ジョージ・ワシントンの死因は何か?-Iatrogenesis by Bloodletting-

   ジョージ・ワシントンは身長が188cmもあった大柄な男性でした。 晩年も非常に健康だったワシントンは、68歳になっても深い雪の中、プランテーション農園まで馬を走らせて向かうくらいパワフルでした。


   そんな1799年のある12月の冬、ワシントンは夜中に突然目覚めて体の不調を訴えました。 喉の感染症に掛かっていたのです。


   声を出すのも息をするのもキツかったため、ワシントンは友人でもある専属医に血を抜いてもらうように頼みました。


   当時Bloodlettingという治療が病を治すと信じられていました。 英語から連想されるように、Bloodlettingとは血を抜き取る医療を表します。


   古代ギリシャやインドの時代から19世紀の後半まで、実に2000年に渡って効果があると信じられていました。 現在では基本的に禁止されている医療行為ですが、これだけ長い間効果があると信じられていたので"先人の知恵"とでも言えるような代物だったのです。


   当時のアメリカでは、少なくとも「何もしないよりはマシ」という理由でBloodlettingが行われていました。 当のワシントンもBloodlettingが病の治療に効くと信じていたため、自身の病気を治すために血を抜いてもらうように専属医に頼んだのです。


   しかし10時間にも渡って血を抜かれた結果、ワシントンは息を引き取ってしまいました。 あれだけ健康であったワシントンは、こうも短期間のうちにあっけなく亡くなってしまったのです。


   ワシントン自身Bloodlettingの信奉者であったので、当人の意向によって血を抜く治療が施された上で亡くなったのだからしょうがない、そう思われるかもしれません。


   しかし一つ、深い疑問を抱かざるを得ない事実があります。 それは抜かれた血の量が尋常ではなかったことです。


   実はワシントンは10時間程の短時間の間に、実に3.75リットルもの血液を抜き取られていたのです。 ワシントンは体重が90kg程度あったため、この体重からワシントンの血液の量は全部で7リットルであると推定されています。


   つまり10時間の間に、全血液量の半分もの血が抜き取られたのです!


   体重60kgの成人だと2リットルの血液を抜かれると失血死します。 失血死する血液の量は体重に比例するので、体重90kgのワシントンであれば3リットルの血液が抜かれると失血死する計算です。


   ワシントンに対して、最初からいきなり体内の半分の血が抜き取られたわけではなく、最初はもっと少量の血が抜かれました。 しかし抜いても抜いても一向にワシントンの状態が良くならないので、ガンガン抜いていってしまったのです。


   ワシントンの正確な死因については論争があり、確定的な死因は特定されていません。 人によってはワシントンの当初の病気である喉の感染症によって亡くなったと見る人もいます。


   しかしワシントンが体内の半分もの血液が抜かれたのは事実です。 さらにワシントンは亡くなる直前に、苦しみに悶えていた状態がピタッと止まって肉体の力がスッと抜けています。 これは低血圧と失血によるショック症状が起こった時に起こる現象です。


   こうした事実を考慮すると、ワシントンは大量の血を抜かれたことによる失血死と見るのが妥当でしょう。 つまり喉の感染症を治すために尋常でない量の血液を抜くBloodlettingを施した結果、失血死したのです。


   このようにIatrogenesisは過去にも普通に存在するのです。

アボマガリンク


アボマガ・エッセンシャル(有料)の登録フォームこちら


アボマガお試し版(無料)の登録フォーム


このエントリーをはてなブックマークに追加   
 

関連ページ

Antifragileとは何か?
何故Antifragileが重要か-ランダムと非線形-
不確実を味方につけて大きな利益を得るための3要素
非線形とは何か-Fragile、Robust、Antifragileを理解するために-
Fragile、Robust、Antifragileとは(理解を深めたい人向け)
職業によってリターンの度合いが異なる-Antifragileをブレンドする-
失敗とテクノロジー-テクノロジーはTrial and errorから生まれる-
ベーコンの線形モデルとは-何故理論あってのテクノロジーなのか-
偶然とテクノロジー-理論とテクノロジーの非対称性-
ランダムだから人生が楽しくなる
「努力は報われる」を考える-漠然を愛する考えの提案-
企業の目標はオプションが多い-企業と個人の目標の置き方の差異-
土壌を広げて成功を待つ-Antifragile的成功への考え-
犠牲と利益-大きな利益を得るためには必ず犠牲が伴う-
犠牲と利益-列車の安全性の裏に乗客の犠牲あり-
失敗は大きな利益を得るための情報
平均は求める場所ではない-尖ったものが合わさってバランスをとっている-
Ludic fallacyとは-現実世界をゲーム的に捉える考えの過ち-
Ludic fallacyと教育-学校で学ぶ確率はすべてゲームの世界-
経済学教-Economics rationalizes us-
Known unknownsとUnknown unknownsとは
1920年代のアメリカバブルから見るバブルの正当化
専門家とFragile-1920年代のアメリカバブルから見える教訓-
つながりの力-独立性の有無が大人数の選択の意味を変える-
自分で自分の文脈をつくる-成功本には必ず文脈がある-
帰納の問題と食品の安全性-被害が出るまで安全かどうかはわからない-
レーシック手術と帰納の問題
Iatrogenesis(医原病)とは何か-医者は別の病気を生む-
血液を医師に抜き取られて死んだ男、ジョージ・ワシントン
女性特有の病気とIatrogenesis-ヒステリー&マンモグラフィー-
スウェーデンの結核死亡率の歴史-寿命を延ばす要因は医療だけではない-
生存率と死亡率の違い-医療と正しく付き合うために-
リード・タイム・バイアスとレングス・バイアスとは
生存率は医療界の生存にプラスに働く
健康基準に根拠があるとは限らない、科学的に決められたとしても
医師の診断を確率的に考えてみる-Base rate neglect-
正しさを追い求めることの罠-正しさとFragile-
正しさを追い求めることの罠-正しさと心理との関係-
一次効果と二次効果とは-何故計画は現実を過小評価するのか-
不安定が安定をもたらす-人工呼吸器とJensenの不等式-
投資の教え、安全域の原則とAntifragile
リスクとボラティリティとの違い-ボラティリティはリスクにも利益にも変化する-

▲記事本文の終わりへ戻る▲

▲このページの先頭へ戻る▲