失敗とテクノロジー-テクノロジーはTrial and errorから生まれる-
Antifragileな行為の一つに失敗を愛することがあげられます。
何か新しいものを生み出す、新しいスキルを習得するときには必ず失敗が伴います。 しかしこうした失敗は自分の頭の中になかった貴重な情報です。
ですからいかに失敗を愛せるかどうかが、新しいものを生み出すにはとても重要になります。
これはテクノロジーの進化にも当てはまります。 皆さんはテクノロジーの発展は物理や工学理論の向上によって生まれたものと思っているかもしれません。
しかしテクノロジーの発展はTrial and errorの中から生まれているものがとても多いのです。 つまりどんなに科学が発達しても、泥臭い試行錯誤から生じる偶然の積み重ねによって新しい技術は生まれるものなのです。
ジェットエンジンの発達とTrial and error
1900年代中ごろに登場したジェットエンジン。 現代に生きる我々だと、20世紀に生まれた発明は理論から生まれたと思ってしまいがちです。
しかしジェットエンジンは度重なる失敗の連続の中から生まれています。 つまり泥臭いTrial and errorによって生まれたのです。
第二次世界大戦中にイギリスが、第二次世界大戦後にアメリカ、フランスがそれぞれジェットエンジンの開発に乗り出しました。
当時はジェットエンジン開発な有用な材料、流体力学等の理論が十分に発展していない状況でした。 3国ともある同じ技術的問題に直面しましたが、理論が不十分だったのでどの国も試行錯誤で開発せざるを得なかったのです。
例えばフランスは8年間もの歳月をひたすらTrial and errorして、ようやくちゃんとした品質のジェットエンジンを開発しました。 アメリカは25億ドルという巨額の費用を投じて開発にこぎつけました。 これは原子爆弾の製作費よりも多い金額です。
ジェットエンジンが上のように泥臭いTriai and errorによって生まれたことを紐解いたのは、歴史学者のPhilip Scrantonという人です。 彼はこうしたテクノロジーの発展に関する研究を通じて、地球温暖化やガンのような複雑な問題は、時間、お金、科学、そして失敗を恐れないいくつもの行動によって解決できる可能性があると述べています。
産業革命とTrial and error
18世紀後半から19世紀中ごろまでイギリスで産業革命が起こったのは皆さんご存知のことでしょう。 この間、イギリスの人口は750万人→2300万人と3倍以上に膨れ上がり、国民の実質賃金も2倍に上昇し、イギリス経済が一気に栄えることになりました。
蒸気機関や紡績機などの発明が産業革命を引き起こしましたが、実はこれらの発明も発明者のTrial and errorによる賜物です。
例えばトーマス・ニューコメンは10年にも渡る実験で培った経験、直感によって、試行錯誤の末に蒸気機関を発明しました。
その後ジェームズ・ワットによって蒸気機関の大幅な熱効率化が施されましたが、これも従来の蒸気機関の度重なる観察や改良版蒸気機関の模型を何回も作ったりするという、地道な作業の積み重ねがあったからです。
当時ジョセフ・ブラックという物理学者が変形熱の理論を生み出しました。 ワットとブラックは同じイギリスのグラスゴーで働いていたこともあり、ブラックの物理理論がワットの改良版蒸気機関の開発に応用されたのではないかと見られることもありました。
しかしワットはこれを強く否定しています。 ワットは物理理論を応用したのではなく、地道なTrial and errorの繰り返しによって蒸気機関の効率化を成功させたのです。
産業革命が起こっているとき、最も科学に熱心だった国はフランスでした。 科学研究機関に当時世界最大の実験室を開設したり、多額の税金を科学研究や教育に費やしてきました。
しかし産業革命が起こったのはイギリスでした。 フランスでは産業革命のような、科学の発達が国の経済を大きく発展させることはありませんでした。 科学理論や基礎的実験を繰り返しても、それを大きな経済発展に応用させることが出来なかったのです。
こうしてみても、科学がテクノロジーを生み出すというよりは、むしろ人々の試行錯誤がテクノロジーを生み出すことが普通であることがわかることでしょう。
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