偶然とテクノロジー-理論とテクノロジーの非対称性-


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偶然とテクノロジー-理論とテクノロジーの非対称性-

   以前の記事で述べたように、現代の科学ではアカデミックな理論、基礎研究があってこそのテクノロジー、発明という認識が広く知れ渡っています。 フランシス・ベーコンの線形モデルという考えを採用しているのです。


   しかしベーコンの線形モデルは決して正しいという保証はありません。


   以前の記事に書いたように、原子爆弾はベーコンの線形モデルによって生まれた技術です。 しかし原子爆弾以外にベーコンの線形モデルが上手くいった大きな例は現状知られていません。 (もし他に大成功した事例があれば大々的に報じられるはずでしょう。現代科学の考えの正しさを再認識させ、科学者の地位向上につながりますから。)


   たった一回の成功によって線形モデルが正しいという認識が広まってしまったのです(これは帰納の問題と呼ばれるものです)。


   決して理論→発明が悪いとか、理論が悪いと言っているわけではありません。 しかしベーコンの線形モデルの考えが原子爆弾以外に大して成功していないという現実を考えると、理論→発明という順序が正しいという考えにはちょっと疑問があります。


   私たちはテクノロジーの発展を見るときに、ベーコンの線形モデルではすっぽり抜けている一つの重大な要素を見過ごしてはいけません。 それは偶然の力です。

無線通信と偶然

   時系列だけで見ると理論→テクノロジーに見えることでも、実際は理論→テクノロジーには物凄い飛躍があるものです。


   例えば無線通信の発明。 次にように、時系列でみると確かに理論からテクノロジーが生まれているように見えます。


   無線通信発明の起源はマクスウェルの電磁理論にさかのぼります。 ドイツの物理学者マクスウェルが1864年に、電気や磁気が波のように伝わることを数学的に証明しました。 これによってマクスウェルは電磁波の存在を予言しています。


   その後1887年にドイツの物理学者ハインリッヒ・ヘルツが実験によって空気中に電磁波を生み出すことに成功しました。 マクスウェルの予言がまさに現実となったのです。


   無線通信を発明したのはイタリアの発明家のグリエルモ・マルコーニです。 マルコーニはヘルツの電磁波の実験に関する文献を読んで、これを無線通信に応用できるのではと思いつきました。 そして試行錯誤の末、1895年にわずか21歳という若さで1700mという遠距離での無線通信に成功しました。 その6年後には3200kmの大西洋横断通信も成功しています。


   この無線通信の歴史を見ると、確かに理論→テクノロジーという順序によって無線通信が生まれていることがわかります。


   しかしこの順序で見るときに、ある重要な"触媒"が必要であることを認識しなければいけません。 それは偶然です。


   理論からテクノロジーが生まれるためには、Trial and errorによる思いもよらないヒント、偶然がめちゃくちゃ重要になるのです。


   私たちはベーコンの線形モデルによって、暗に理論からテクノロジーがすんなり生まれるように思ってしまいがちです。 だけどすんなりとテクノロジーが生まれるのであれば、何故マクスウェルが電磁理論の論文を発表してからヘルツが理論を実験によって証明するまでの間に23年も掛かるのでしょうか。


   マルコーニによる無線通信の発明も、度重なる失敗と偶然によって得られたヒントが大きな役割を果たしています。 →http://www.dia.janis.or.jp/~nasimoto/tuusin/musen.htm


   そう考えると、私たちが思っているほど理論からテクノロジーは簡単に生まれていないのです。 Trial and errorの繰り返しによって得られる偶然という大きな力が加わる必要があるのです。

青色LEDの開発経緯

   2014年に日本人物理学者3名(赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏)が青色LED開発の功績を称えられ、晴れてノーベル物理学賞を受賞しました。


   赤﨑勇氏、天野浩氏がまず基礎研究で青色LEDの実現に成功し、その後中村修二氏が青色LEDの製品化(つまり発明)に成功しています。


   こうした時系列だけで見ると、ベーコンの線形モデルに慣れ親しんでいる私たちとしては、赤﨑勇氏、天野浩氏の基礎研究を忠実に参考にしながら中村修二氏が青色LEDの発明に至った、そう思ってしまいます。


   しかし実態は上のような解釈とは随分異なるものです。


   まず中村修二氏は青色LEDの応用研究を始めるにあたり、青色LEDに関する論文や本を当初は全く読まなかったのです。 関連する論文や本を読みこんで忠実に再現しようと試みると、頭が凝り固まって柔らかいアイデアが阻害され、逆に研究が上手く行かなくなるという苦い経験があったためです。


   そのため中村修二氏、今までのLED研究の経験を活かして、泥臭く試行錯誤を繰り返しながら開発を行っていったのです。


   続いて赤﨑勇氏らによる研究と中村修二氏による研究は、研究期間に重複があること。 彼らは共同研究を行っているわけでもなかったので、独立にお互い研究を進めていたのです。


   さらに青色LEDを開発するためには、p型の窒化ガリウム半導体と呼ばれるものを作製する必要がありました。 赤﨑勇氏が1989年にp型半導体の作製方法に関する論文を発表しましたが、その方法を真似ても誰も同じものが作れなかったのです。


   そこで中村修二氏は独自にp型半導体を作製しようと試みた結果、1992年に別の方法で簡単にp型半導体を作製できることを突き止めたのです。


   上のように開発経緯の一端を見ても、ベーコンの線形モデルが言うような理論→発明という順序であるとはとても思えません。


   かといって赤﨑勇氏らによる研究は、中村修二氏による発明に大きな影響があったことはもちろん見逃してはいけません。 しかしこの影響は、赤﨑勇氏らによる直接的な研究というよりは、もっと偶発的なものです。


   例えば中村修二氏は研究する材料として窒化ガリウムを選択したのは「周りがやっていない」という理由だけでした。 しかしその時、たまたま赤﨑勇氏は窒化ガリウムを使った青色LED研究をしていたというのは、無意識のうちに一つの心の支えにもなっていたのではないでしょうか。(中村修二氏はそんなことを言っていませんが)。


   またp型半導体を中村修二氏が簡単に作製できたのも、赤﨑勇氏による方法では作製"できそうにない"という情報を知っていたことは大きいと思います。 「こうすると上手く行かない、失敗する」という情報は別のやり方を考える、あたりをつける意味で物凄く重要ですから。


   Trial and error、偶然、基礎研究の論文の内容ヒントに別の方法を試すといった泥臭さ、不思議さ、反骨精神、こうした私たちにとって意外に感じられる要素が当たり前のように積み重なって、青色LEDは開発されたのです。


   決して理論→発明という綺麗な流れではないことを認識する必要があります。

「テクノロジー→理論」と「理論→テクノロジー」の非対称性

   テクノロジーから理論が生まれる過程と、理論からテクノロジーが生まれる過程との間には一つ非常に大きなギャップがあります。


   それは、「テクノロジー→理論」の場合ではテクノロジーの性質が直接的に新しい理論を生み出す情報となる一方で、「理論→テクノロジー」の場合では理論が直接的にテクノロジーを生まないことです。


   考えて見て下さい。 ジェットエンジンにしろ、無線通信にしろ、新しいテクノロジーが発明されて今までの物理学で説明できない現象が確認されたらどうでしょうか。 確実に物理学は発展しますよね。


   何故なら現在の物理学では説明できないことは、新たなる研究余地があることを示しているからです。 物理学で説明できないという事実は、物理の発展への大きな情報となるのです。


   しかも研究するうえでも、既にジェットエンジンといった新しいテクノロジーを使っていろんな実験を重ねることができます。 よってテクノロジー→理論を生み出すうえでは特別な障害はありません。


   新たなテクノロジーの発明は新たな理論の発見を保証するのです。


   逆に理論→テクノロジーでは、新たな理論が新たなテクノロジーを生み出すという保証はまったくありません。 どんなに理論が優れていようと、それが現実に100%Applyするわけではありません。 上の青色LEDの開発経緯を見てもそれがよくわかるでしょう。


   また、電子工学の理論によってマサチューセッツ工科大学の研究者たちがレーダーを発明する試みがなされましたが、理論はほとんど役に立たずに結局試行錯誤によってレーダーを生み出さざるを得ませんでした。


   それに、どんなに理論が現実を反映していようとも、それが新たなテクノロジーを生み出す可能性を理論は言及していません。 理論を生み出すのと、理論をテクノロジーに応用させることは全く別物なのです。


   ヘルツだって実験の目的はあくまでもマクスウェルの理論を実証することでした。 まさか自分の実験が無線通信に応用されて、さらにそこからラジオといったテクノロジーが生まれるなんて思ってもいなかったのです (残念なことにヘルツはマルコーニによる無線通信の成功を見ることなく、その前年に亡くなりました)。


   こういうことを考えると、テクノロジー→理論という発展にテクノロジーは直接的な大きな役割を果たしますが、理論→テクノロジーの発展では理論の直接的な役割はそこまで大きくないのです。


   むしろ理論→テクノロジーは、発明者の発想力、柔軟性、失敗を諦めない忍耐力といった発明者の力+その試行錯誤の中から生まれる偶然によるものが大きいように思えて仕方がありません。


   つまりテクノロジー→理論でも理論→テクノロジーでも、発展に寄与するウェイトが大きいのはどちらもテクノロジー、発明者側だと考えられるのです。


   これは「テクノロジー→理論」と「理論→テクノロジー」の非対称性とでも呼べるでしょう。

結局Trial and errorによって偶然を味方につけるしかない

   いままでベーコンの線形モデル、そしてテクノロジーの生まれ方について見てきましたが、ここから教訓として得られるのは"Just do it!"という一言に尽きるのではないでしょうか。


   つまりとにかく行動して、Trial and errorによって偶然を味方につけて非線形な大きな利益を得るAntifragile的な考えで取り組むのが唯一の道だということです。


   理論やテクノロジーの発展という、一見「数式を使ってマーベラスに導かれる」というイメージを持っている分野でも、キーとなるのは泥臭いTrial and errorなのです。行動を繰り返していくうちに科学では説明がつかない現象、ヒントを偶然に得ることがテクノロジー、そして科学の発展に不可欠なのです。

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