女性特有の病気とIatrogenesis-ヒステリー&マンモグラフィー-

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女性特有の病気とIatrogenesis-ヒステリー&マンモグラフィー-

初回公開日:2014/09/18
最終更新日:2017/10/12

 

 今回は女性特有の病気とIatrogenesis(医原病)について見てみます。

 

 女性と医療は切っても切り離すことができません。女性特有の病気の烙印を押された女性に対して、過去には医者から治療と称して酷い仕打ちを受けてきた悲しい歴史があるのです。

 

 現代においても、女性の柔らかくて優しいイメージや、子供を産んで育てるという母性的なイメージを巧妙に利用して、女性に過剰に医療を受けさせる風潮をつい感じてしまいます。

 

 医療と上手く付き合うためには、イメージではなくしっかりと客観的な情報のもとで自分なりに考えることが大切なのです。

 

ヒステリーとIatrogenesis

 ヒステリーとは皆さんご存知の通り、興奮等で感情をコントロールできない状態のことを指します。現在ではヒステリーという用語は精神医学では使われておらず公式の病名ではありませんが、かつてヒステリーは一つの病気として捉えられていました。

 

 ヒステリーは英語ではHysteriaと呼ばれます。Hysteriaの語源はラテン語のhystera、子宮を意味する単語です。つまりヒステリーは子宮から生まれた言葉なのです。

 

 ヒステリーと子宮?全く関係ないように思えますが、実はヒステリーは女性特有の病気だと古代から誤解されていました。そして女性特有ということで、ヒステリーは子宮が原因であるとされていたのです。このような誤解は古代ギリシャから19世紀の終わりまで、実に2000年もの間信じられていました!

 

 ヒステリーが最も深刻だったのは19世紀のアメリカとヨーロッパです。この頃はヒステリーの医学研究が最も盛んに行われた時期でもありました。

 

 ヒステリーの医学的な研究は私たちに憤りを与える結果をもたらしています。おそらくヒステリーの医学的な研究による最大の(悪しき)貢献は、ヒステリーの定義を幅広く解釈できたことです。これによりヒステリーのありとあらゆる初期症状が発見されればヒステリーと診断され、医師から治療を勧められることになります。

 

 要は早期に胃がんらしき物体が検査で発見されたら、すべてを胃がんと見なして抗がん剤治療や手術を患者に受けさせることと一緒です。例えそれが本物のガンではなかったとしても!

 

 ヒステリーの医学的な拡大解釈によって、それまでヒステリーと診断されなかった軽い症状の人も、ヒステリーと診断されるようになりました。そのため本当はヒステリーではないのにも関わらず、ヒステリーだと誤診される可能性が極めて高くなってしまったのです。

 

 そのおかげでヒステリーで入院する患者の割合は、1841年では診断を受けた女性の1%に過ぎませんでしたが、1883年には17%にまで増えたとも言われています。

 

 またWikipediaによると、1859年にある医者が「女性の1/4はヒステリーだ」と主張したそう。医学という権威を振りかざした女性蔑視以外の何物でもありません。

 

 では誤診も含めて、ヒステリーと診断された女性患者はどのような処理を施されたのでしょうか。

 

 全く考えられないのですが、当時はヒステリー患者には女性器を刺激してオーガズムに達しさせることがヒステリーに効くと医学的に本気で考えられていました。そのため裸の女性患者を椅子に座らせて、女性器に少し強めの水圧を5分近く当てることで患者をオーガズムへと導く治療が行われていたのです。

 

 さらに重篤だとの診断を下された患者は悲惨です。誤診のために子宮や卵巣を取り除く手術が行われたのです。

 

 このようにヒステリーを拡大解釈することによって、多くの女性がヒステリーと医師からの烙印を押されてしまって悲惨な治療を受けざるを得なくなってしまったのです。

 

マンモグラフィーとIatrogenesis

 放射線を当てて乳がんの早期発見のために行われているマンモグラフィー。このマンモグラフィー、50歳未満の女性には効果なしとのことです。

 

→http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2010/01/post-909.php

 

 しかも効果がないだけではありません。マンモグラフィーによって放射線を浴びると、他のガンを引き起こす可能性すらあるのです。

 

 45年間にわたり放射線が人間に与える影響を研究してきた医師、ジョン・ゴフマンによると、マンモグラフィーやCTスキャンといった放射線を体に浴びせる治療が、その後起こるガン全体の75%に影響を与えることを示しています。

 

 さらにゴフマンは、44~55歳のアメリカ人女性の死因一位が乳がんであることについて、「胸の組織は放射線に対してとても過敏なため、マンモグラフィーがガンの原因になり得る」と警告しています。

 

 このようにマンモグラフィーは非常に危険なのです。場合によってはマンモグラフィーによって生まれた乳がんを、マンモグラフィーによって発見するという皮肉な結果だってあり得るのです。

 

 特に若い女性は中年、高齢の女性に比べて放射線により敏感です。若いうちから何回もマンモグラフィーを受けると、マンモグラフィーによる発がんリスクが増えてしまうのです。

 

 別の警鐘を2、3ほど。

 

 まず乳がん患者が増え続けている、そんなニュースがあります。しかしマンモグラフィーといった乳がんの早期発見技術が進めば、それだけ乳がんと診断される人が増えるのは当たり前です。いままで無視されてきた微小な乳がんが、技術の進歩によってすぐに見つけられるようになったわけですから。

 

 乳がん患者数が増えているから乳がん検診を受けましょうというのは、次のようなループが回ることを指します。つまり医者の懐を増やす行為以外の何物でもありません。

 

乳がん早期検診ループ

 

 もう一つ。乳がんの死亡率が増えていることは確かに事実です。日本における乳がんの年齢調整死亡率は、1960年代の終わり以降に急速に上昇し、2013年現在で過去最悪のレベルに達しています。

 

乳がんによる年齢調整死亡率

画像ソース:WHO

 

【補足】病気の死亡率を見る場合には、「年齢調整死亡率」という、ある特定の人口ピラミッドのモデルに合わせて死亡率を調整した指標を見ることが大切です。年齢調整死亡率を見ることで、時代とともに移り変わる人口構成の変化や、他国との人口構成の違いによって生じるバイアスを減らし、より正確な死亡率を判断できるようになります。

 

日本の医療業界では、年齢調整死亡率ではなく、人口構成の変化や国ごとの違いによるバイアスを含んだ「粗死亡率」を使うケースがあるので注意が必要です。少子高齢化が進む日本では、ガンのように高齢者が掛かりやすい疾病について粗死亡率は実質の死亡率よりも水増しされた数値になりやすいです。医師らは粗死亡率を見せることで、患者らに過剰な恐怖を与えることが可能となります。

 

→参考:NANAのブログ

 

 しかし60歳未満の乳がん年齢調整死亡率(以下は単に「死亡率」と表記します)を見てみると、2000年代前半ごろをピークに近年は減少中です。40歳未満の乳がん死亡率の減少はさらに顕著で、1998年をピークに2013年までに28%減少しているのです。

 

60歳未満の乳がんによる年齢調整死亡率

画像ソース:WHO

 

 近年は若い女性も乳がん罹患率が増えていますよと言われることもありますが、それ以上に重要な指標である死亡率は減っているのです。また40歳未満の乳がん死亡率の推移を見る限り、早期発見が乳がん死亡率減少に貢献したようには全く見えません。何故なら、厚生労働省が乳がん検診の受診率向上も盛り込んだ「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正した2004年以前から、40歳未満の乳がん死亡率は明らかに低下しているのですから。

 

 最後にもう一つ、興味深い統計データをお見せしましょう。日本人の30代、40代といった年代別の乳がん死亡率を見ると、各年代の乳がん死亡率のピークが8-10年程度ずつシフトしていることがわかるのです(青線が日本)。

 

 30代は1980年代終わりごろ-1990年代全般にかけて、40代は1990年代中ごろ-2000年代半ばごろ、50代は2000年代半ばごろ-2010年代前半にかけて、乳がん死亡率のピークを迎えています。また60代は2010年代に入りピークを迎えているように見えます。70代以上はピークに向かっている途中です。

 

年代別乳がんによる年齢調整死亡率

画像ソース:WHO

 

 下の画像をみるとよりはっきりわかるでしょう。

 

年代別乳がんによる年齢調整死亡率2

画像ソース:WHO

 

 これらからわかるのは、高度経済成長期の手前~中盤ごろに出生した人たちが最も乳がん死亡率が高い傾向に見えることです。

 

 また日本以外の先進国と比較すると、高度経済成長期の手前~中盤ごろに出生した人たちが最も乳がん死亡率が高い傾向は日本特有の現象であることがわかります。

 

 ここからある一つの仮説が生まれます。

 

 「日本における乳がん死亡率増加の一番の要因は、高度経済成長期前後の大気汚染に代表されるような環境汚染(公害)ではないのか?

 

 高度経済成長期やその手前の日本における最悪の環境汚染期に生まれた人たちが、最も抵抗力や免疫力の弱い年齢のときから大気汚染や汚染物質が含まれた食品摂取したことによる影響が、乳がんの死亡率という形で反映されているのではないか?という見立てです。

 

 若い頃の不摂生が年を重ねたときに一気に噴出するとよく言われますが、そうであれば赤ん坊の時から取り込んできた汚染物質による影響が、年を重ねて乳がんという形で現れる可能性について否定することはできません。

 

 どうもこの見立てに関する科学的な分析はなさそうですから、肯定することはできませんが同時に否定することもできません。今後の科学的な分析が求められます。

 

 環境汚染、公害が主要因かどうかはともかくとして、少なくとも高度経済成長開始前後に出生した人たちが最も乳がん死亡率が高い傾向(相関関係の存在)は、統計データを見る限りは事実に近いように見えます。

 

 高度経済成長開始前後に起こった日本特有の何かしらの現象や政策と乳がんの死亡率との因果関係、何かあるのでしょうか。因果関係を示すには厳密な科学的分析が不可欠であり、私は専門家ではないのでこれ以上のことは何も言えませんが。

 

 因果関係がわからずとも、高度経済成長開始前後のある特定の現象や政策と乳がん死亡率との間に何かしらの相関関係さえ見つかれば、ますます医療の進歩の乳がん治療への寄与度は「巷で言われているよりもずっとずっと小さい」だけでなく、昨今の乳がん検診を推し進めようとする流れは「数多くの患者らからカネを巻き上げたいというビジネス目的なのでは?」と考えざるを得なくなります。

 

 

 こうした罠にお気をつけください。

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