平均は求める場所ではない-尖ったものが合わさってバランスをとっている-

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平均は求める場所ではない-尖ったものが合わさってバランスをとっている-

   私たちは常日頃から平均を意識してきました。 平均身長、平均初婚年齢、平均学歴などなど、平均からどれだけ優れているか、劣っているかという目線で物事を見てしまいます。


   心理学的に私たち人間は平均というのを直感的に扱いやすいものです。 例えば「30, 58, 120, 78, 44」の平均はどれくらいかと言われたら、なんとなく70くらいかな?なんて瞬間的にわかりますよね。


   またAbove-average effectという心理もあって、私たちは運動神経とかIQとか、そういったあらゆるスキルを他の人たちの平均よりも上だと思ってしまうものです(特にIQの低い人に対して顕著な性質です)。


   このように心理学的に私たちは平均を考えてしまいやすい生き物なのです。


   しかし私たちは肝心なところで平均を上手く捉えられていません。 私たちは世の中が尖ったものが合わさってバランスをとっていることを無視しているのです。

平均回帰の無視

   私たちは比較的短い期間の平均を考えることは好きです。 最近5試合の野球選手の打率とか、ここ一年間の幸福感などです。


   しかしもっと大局的に平均を考えることを怠ってしまいます。 言い換えれば私たち人間は平均回帰を無視してしまうのです。


   平均回帰とは良いことも悪いことも最終的には中間、平均に戻っていくことを言います。


   世の中のいろいろなものにはサイクルが回っています。 春夏秋冬、地球が太陽の周りを一周するなど、世の中を見渡せたばサイクルが目白押しです。 どんなに暑くても寒くても、いずれ春や秋といった過ごしやすい季節に戻っていきます。


   他にも株とかもそうです。 株価は良い時期と悪い時期とのサイクルが常に回っています。 つまり良いことがあったあとには必ず悪い末路が待っています。 これは過去の歴史が証明しています。


   こうやって見ると、良いことと悪いことが繰り返し起こることによってバランスがとられていることがわかります。


   しかし何故か私たちはサイクルを無視、平均回帰を無視してしまうのです。 100年間地震がなければこれからも一生巨大地震が起こらない、20年間経済成長が続けば今後も一生経済は成長し続ける、そういう風に考えてしまいます。


   つまり過去を未来に当てはめてしまうのです。 これによってマクロ的にバランスをとっていることを無視してしまうのです。


   この考えは非常にまずいです。 私たちを一気にFragileにします。


   世の中はFragile、Antifragileなもので満ち溢れているので、長い間良いことがあったら突然悪いことが起こる、逆も然り。 平穏が続いた後の突然の大地震に巨大津波、長年のバブルの後の株価暴落、全くの閑古鳥状態だったビジネスが突如上向く、何とも味気ない生活を送っていた男性が運命的な出会いをする瞬間...などなど。


   長い間のシチュエーションをちゃぶ台返しするようなイベントが一瞬のうちに訪れるのがこの世の中なのです。 世の中は突然の大反転イベントによってマクロ的に平均を保っているのです。

尖ったものが組み合わさってバランスをとっている

   よくよく見ると世の中はミクロ的に尖ったものが、マクロ的なバランスを取っていることがわかります。


   例えば車を考えてください。 車はハンドル、ペダル、エンジン、タイヤ、ボンネットといった部品を組み合わせできています。


   これら部品は、ある一つの特徴に特化したものです。 ハンドルは方向を調節するため、エンジンは動力、などなど。


   何が言いたいのかというと、一つの尖った特徴を持ったものを組み合わせて車という一つの"安定した"ものは作られているのです。 平均的に方向を調節できるし動力ともなる...とか、そういった複数の中途半端な性質を持った部品なんか使われないですよね。


   ある一つの明確な、誰にも負けない特徴をもった尖った部品たちが集まってバランスを取っているんです。


   言われてみれば当たり前ですが、身近なテクノロジーはすべて尖ったものが組み合わさって出来ているのです。


   今度はガラッと話題を変えて生物学に目を向けましょう。 受精を行うとき、巨大で数が少ない卵子に、微小で膨大の数の精子が争いを経て結合することで受精が行われます。 これは皆さんご存知ですよね。


   実は生物学的には精子や卵子の"大きさの違い"がオスとメスを分ける、最も重要な違いだと言われています。 それだけ大きさの違いは重要なのです。


   では何故受精は全く両極端なサイズをもつ卵子と精子によって行われるのでしょうか。 受精のメカニズムに、中間的なサイズや数をもったものが存在しないのは何ででしょうか。


   それは中間的なサイズになると尖ったメリットが消えるからだと言われています。


   卵子は巨大なため栄養を享受できる確率が増え、死ににくいという特徴があります。 一方で精子は小さくすぐに死んでしまいますが、動きが素早く数も膨大なため、少なくとも一個の精子が卵子とくっつける確率が増えます。


   しかし中間的になってしまうと、決して素早くないので自分から結合しに行く競争力が弱いです。 かといって卵子のように待っていたって、そんなに大きくないので生存力が弱まってくっつく前に栄養不足で死んでしまいます。 よって中間的だとあまりにも能力が中途半端すぎて、長年の間に淘汰されていったのです。


   上の考えはパーカーモデルと言う生物学的な一つの考えであり、決定的な確証が得られているわけではありません。 しかし精子と卵子のサイズが全く異なること、そしてその中間のサイズが存在しないことは、性別をもつすべての生物に当てはまる事実です。


   長年の歳月を経て育まれた生殖システムだって、二つの両極端でアンバランスなものによってバランスが保たれているのです。


   最後にちょっと考えて見て下さい。 新しいものを生み出すときだって、オール3のような人たちが集まっても何も生み出さないでしょう。 物理が得意な人、経営の素質がある人、プログラミング技術がすごい人、そういう人たちが合わさるからすごいものが生まれるんです。


   私たち一人一人という、尖ったミクロの組み合わせによって、素晴らしいマクロ的なものを生み出せるのです。


   そういうことを考えれば、ミクロなものに対しては中間なんて大して存在しないし、そもそも存在する価値もないんです。 尖った性質をもつものが組み合わさってバランスが保たれていると考えるほうが自然なのです。


   平均は目指すところではなく、マクロ的に落ち着く場所。 平均を目指すという考えは、残念ながら排除することをおすすめします。

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