Fragile、Robust、Antifragileとは(理解を深めたい人向け)
前回の記事の最後に、非線形の性質からみたFragile、Robust、Antifragileの定義を紹介しました。 もう一度ここに載せておきましょう。
- Fragile:ちょっとした変化によって大きなダメージを受ける可能性があること(上に凸な性質をもつこと)
- Robust:どんなちょっとした変化によっても大きなダメージを受けないし、大きな利益を得ないもの
- Antifragile:ちょっとした変化によって大きなダメージを受けず、むしろ大きな利益を得られるもの(下に凸な性質をもつこと)
最初の記事で、私はFragileであることを「大きな衝撃によって損をするもの」とし、Antifragileを「大きな衝撃によって得をするもの」と言いました。 またRobustを「大きな衝撃によって損も得もしないもの」と話しました。
違いは「大きな衝撃」を「ちょっとした変化」と修正しているところにあります。
最初に「大きな衝撃」と話したのは、その方が直感的にわかりやすいからです。 FragileやAntifragileという考えが私たちにとって最も大切なのは次のような例です:
- サラリーマンとして働いていたら突然リストラされた
- バブルが突然崩壊して株価が暴落した
- コツコツとアフィリエイトに取り組んでいたら突然集客が増えて広告収入が急増していった
こうした予期しない突然の出来事、つまり大きな衝撃によって人生が急反転する例を真っ先に思い浮かべてほしかったので「大きな衝撃」という表現を使いました。
しかしFragileやAntifragileは、"ちょっとした変化"で考えるともっとクリアになります。
Fragile、Robust、Antifragileの考えの肝は"変動"です。 変動をプラスに活かせるか、マイナスに働かせてしまうのか、ここが一番のポイントです。
変動の中でもちょっとした変化に対してどう振る舞うかをみれば、もっと大きな変化に対する振る舞いもわかります。 つまりちょっとの変動を見れば、あらゆる変動に対する知見が得られるのです。
ちょっとした変化によってFragileやAntifragileを捉えるとはどのようなものなのか、以下で説明します。
ちょっとした変化で見たときのFragileとは
まずはFragileの場合です。 下がFragileのグラフです。 一番初めに書いたように、Fragileは上に凸なグラフによって表されます。
点Aがブレーク・イーブン・ポイント、つまり損も得もしない場所です。 そこから左にズレればずれるほど得が増えて、右にズレればずれるほど損が増えます。
ポイントは次の二つです:
- ちょっと左に動いた時の得が小さい
- ちょっと右に動いた時の損が大きい
点Aから左と右に同じ距離だけズレたときのそれぞれの結果が点B、Cで表されています。 図を見れば明らかなように点Bよりも点Cの方が変動が大きい(高さが大きく変化している)ことがわかるでしょう。
ちょっと左に動いた時に得が小さいということは、大きく左に動いた時でも得はそこまで増えていかないものです。 図を見るとわかるように、左にどんどんズレていってもだんだんと得の増え方は緩やかになってきていますよね。
逆に右に動いた時に損が大きいということは、万が一大きく右に動いたらその分損がグッと増えることを意味します。 図を見ても右にどんどんズレていけばいくほど、損が加速度的に増えていっていることがわかります。 そしていつしか、自分に壊滅的な被害をもたらす"死亡ライン"を超え得る可能性もある。 これがFragileです。
ちょっとの変動が自分にとってマイナスに働きやすいのがFragile。 もしも大きな変動が起こるとマイナスがめちゃくちゃ増えてしまうのがFragile。 安定大好き!変化、ボラティリティ、お願いだからやめてくれ!!これがFragileなのです。
安定を求めるサラリーマン、高値で株を購入した人たち、こうした人たちはまさにFragileです。 サラリーマンとして仕事をコツコツこなしても、景気が良くなっても、増える給料や株価はたかが知れています。
しかしちょっとの消費税増税や社会保険料の増加、デフレによる給料の減少や賃金が増えないインフレによって生活は苦しくなります。 ちょっとした価格調整や世界情勢リスクの顕在化などで、株価が下がると嫌になるものです。
そして一度大きな変動、つまりリストラ、暴落なんて起これば場合によっては一貫の終わりです。
このように安定大好き、変動やめて! サラリーマンや高値掴みの投資家は、こうしたFragileリスクが潜んでいるのです。 (過去に終身雇用が当たり前だった頃はサラリーマンはFragileではなかったでしょう。むしろRobustです。しかし今後日本でサラリーマン一本で暮らすことはほぼ間違いなくFragileでしょう。)
またちょっとの変化による損得でFragileを捉えると、大した病気でもないのに無暗に薬に頼ることがFragileな行為であることもわかります。
2、3日放っておけば治るのに、わざわざ薬を飲んで治そうとしても大して大きな効果、得はありません。 むしろ変に解熱剤なんかを飲むと、治るのが遅くなってしまうって逆効果です。 最悪、薬を飲むことで別の病気を生むIatrogenesisだって起こる可能性があるわけですから。
そう考えると、大した病気に掛かっていないのに無駄に薬に頼ることはFragileなのです。
ちょっとした変化で見たときのAntifragileとは
今度はAntifragileの場合です。 AntifragileについてはFragileのときとほとんど逆となります。 下図を見て下さい。
ポイントは次の二つです:
- ちょっと左に動いた時の損が小さい
- ちょっと右に動いた時の得が大きい
AntifragileはFragileと逆で、ちょっとの変動が自分に取ってプラスに働きやすいものとなります。 点EとFの高さの差を見ても、点Fの方が高さが大きいことがわかります。
ちょっとの変動でプラスの方が大きいということは、大きな変動が起きたときに予想だにしない利益を得られる可能性があることも意味します。 これがAntifragileです。
ちょっとの変動が自分にとってプラスに働きやすいのがAntifragile。 もしも大きな変動が起こるとプラスがめちゃくちゃ増える可能性があるのがAntifragile。 失敗上等。変化、ボラティリティはウェルカム!!そんな夢のある場がAntifragileなのです。
アフィリエイトなどのネットビジネスはまさにそうです。 失敗しても金銭的な損はほとんどありませんが、一度成功すれば人によっては月50万、100万といった収入を稼ぐことができますから。
また投資の原則にも次のような格言があります。
「町のあちこちで通りが血に染まっているときこそ、買いの絶好のチャンスだ。」と。
損の振れ幅を最小限に抑えて、悲観されまくった株価が次第に本来の価値に向かって回復していく。 それだけでも十分ですが、さらに将来予想だにしない純利益50%アップといった業績のアップや世界経済の回復によって予想以上に株価が増す可能性すらある。
まさにAntirfagileの核心をついた最強の合理的な投資法なのです。
Antifragileと見せかけてのFragile
AntifragileはFragileの"ほとんど"真逆だと書きました。 ちょっとの変動で損しやすいがFragile、逆に得しやすいのがAntifragileです。 こうしてみると完全に真逆の考えのように見えます。
しかし一か所だけ異なる部分があります。 それはパッと見Antifragileでも、"死亡ライン"を超える可能性があればたちまちFragileになってしまうことです。
いくらマイナスの変動の影響が小さいとしても、死亡ラインを超えるような損をする可能性があればたちまちアウトです。 下図のように、場合によって損が死亡ラインを超える可能性があればもはやAntifragileではありません。 Fragileです。
いくら通りが血に染まっているからといって、全財産を投資につぎ込むのはFragileです。 いくら長期的に勝てる確率が高くても、そこに達する前に生活に窮したら一貫の終わりですから。
ちょっとした変化で見たときのRobustとは
最後にRobustについて簡単に説明します。 Robustをグラフで表すと次のようなものになります。
左右どちらに振れたとしてもそんなに変わりがなく、大きな変化が起きても死亡ラインを超えることはない。 一方で得もある程度で頭打ちしてしまう。 それがRobustです。
※頭打ちする場所がめちゃくちゃ高い場合は、RobustというよりはAntifragileです。 ネットビジネスもいくら努力しても現実的に稼げる上限があるでしょうが、上限が個人で年収1億といった超高額だったらもう十分ですよね?
地味ですが、大きな変化が起きても死亡しないというのはとても重要なことです。
例えば医者はRobustです。 どんなに景気が悪かろうが国民の生活が苦しくなっていようが、医者のニーズが変わることはそうそうありませんから。
一方で、どんなに優れた医者でも収入を無限に増やすことは難しいでしょう。 どんなに腕があって信用もあって、多くの患者を見込めたとしても、肉体が資本ですからどうしても限界がありますから。
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