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お金と個人情報、預ける意味はまるで異なる

2018/07/20

 

【2018/07/18 日本経済新聞】「個人データ銀行」創設 三菱UFJ信託 同意うけ企業に提供

 

三菱UFJ信託銀行は2019年にも、個人から購買履歴などのデータを預かり、民間企業に提供する「個人データ銀行」を始める方針を固めた。個人はスマートフォンのアプリで情報提供先の企業を選び、対価として企業からお金やサービスを受け取る。情報を得た企業は商品開発などに生かす。

 

 すでに米国を中心に、個人情報を収集・販売する「データブローカー」とよばれる企業が多数存在する。それを日本では、日本らしく寡占的にやってしまおうという動きが出てきたということ。

 

「お金の仲介」だけでなく「データ・情報の仲介」も

 米国ではグーグル、フェイスブックといったICT企業が、検索、地図、メール、ソーシャルメディアサービスなどを無料で提供する代わりに、世界中の人々の趣味・嗜好、資産状況、位置情報、友人関係、政治思想などに関わる情報を直接収集・分析してきました。

 

 またグーグル、フェイスブックといったICT企業以外にも、データ受け渡しの仲介事業を行う企業(データブローカー)が米国を中心に跋扈し、個人情報の収集、販売を行って儲けています。

 

 アクシオム、米国3大信用会社(エクスペリアン、エクィファクス、トランスユニオン)、オラクル、ブルームバーグ、トムソンロイター、ムーディーズ、IBMなどが、データブローカー事業を行っています。

 

 こうした中で、日本で三菱UFJ信託銀行がデータブローカー事業に手を出そうとしている、ということです。

 

 2017-26年の10年間で、世界全体のデータブローカー市場は年率11.5%増で成長していくという予測もあります。10年間で市場規模が3倍に増えるというわけです。
【2017/12 Transparency Market Research】Data Brokers Market

 

 データブローカー市場の中心は現在も将来も米国(+カナダ)であり、欧州やアジアでも今後データブローカー市場が大きくなると言われています。

 

 しかし日本だけはデータブローカー市場拡大に遅れをとっていました。

 

 今後AIネットワーク社会が本格化するにあたり、まだデータブローカー市場がほとんど開拓されていない日本で、遅ればせながらデータブローカービジネスに手を出そうとしているのが、三菱UFJ信託銀行というわけです。

 

 

 銀行がデータブローカー事業に手を出しても、特に驚きはありません。

 

 個人情報をAI分析して吐き出された新たな情報も再利用需要があり、「収集→分析→結果(データ)→収集」という循環が働きます。

 

 これまでお金に関して「収集(借入)→投資→結果(利益)→収集(借入)」という循環が働いて、日本の高度経済成長を支えてきたように。

 

 いままで銀行がお金に対して行ってきた、上の循環を働かせるための仲介事業と似たようなことを、今度はデータに対して行えばよいわけですから。

 

 それだけの話です。MUFGグループがお金の仲介事業だけでなく、データ仲介事業も中央集権的に握ってしまおうということです。

 

 日銀のマイナス金利政策でお金の仲介事業だけで儲けるのが難しくなったので、次代のトレンドであるデータの仲介事業で儲けよう、ということです。

 

 他のメガバンクグループも、いずれ追随してくるかもしれませんね。

「個人情報保護」と「プライバシーの破壊」は同じコインの裏表

 勘違いしてはいけないのは、「個人データ銀行」は決して「個人情報保護」には繋がらないことです。

 

 むしろ、メガバンクに対して多くの日本人がなんとなく抱く「信頼できる」という感情を利用して、プライバシーの売却をなんとか促進していきたいという企業(政府も?)側の意図が伝わってくるものです。

 

 いまだに多くの日本人が「預金は私たちのもの」だと勘違いしているくらいですから。

 

 

 個人情報を銀行に預けることは、お金を預けることと大きく違うところがあります。

 

 お金を預ける場合は、銀行から預金を引き出せば、いずれは銀行や銀行が貸し出したお金はバランスシートの減少とともに消えていきます。

 

 しかし個人情報の場合は、一度企業に提供されれば、その個人情報やそこから生まれた個人の資産状況、趣味・嗜好、思想等に関わる新たな情報を、私たちの意志で消去する術はありません。

 

 そもそも法的に整備されていません。今後のAIネットワーク社会に向けた、プライバシーに関する法的取り扱いは世界レベルでいまだに議論の段階です。

 

 これまで製造業の利益追求が、長い間環境汚染というコストを人類に押し付けてきましたが、今度は企業の利益追求が、個人情報を握ることによる各個人の一生涯にわたる支配という形で、人類にコストを課すことになるのです。

 

 個人情報を銀行に預けて、報酬や無料サービスを受けたいいうちょっとした動機、欲望のツケは、お金を銀行に預けて利子を受け取ることとは比べ物にならないくらい大きいのです。

 

 

 「個人情報保護」という言葉が先行していますが、現実に進んでいる方向は真逆です。「プライバシーの破壊」です。

 

 日欧は互いの進出企業が現地で得た個人データを域外へ円滑に持ち出せる枠組みに最終合意し、今秋までの運用開始を目指すとしています。
【2018/07/17 毎日新聞】日欧 個人情報持ち出し合意 「EPAを補完、拡大」

 

 個人情報保護どころか、個人情報が世界中の企業にビジネス目的で好き勝手利活用・流通されることによる、プライバシー破壊の方向へと進んでいるのです。

 

 EUは今年5月に「EU一般データ保護規則(GDPR)」を施行しました。同法律は個人情報保護を目的としたとありますが、今回の日欧合意をみれば、いかに「個人情報保護」という言葉が欺瞞に満ちているかわかるでしょう。

 

 現在広く使われている「個人情報保護」という用語は、AIネットワーク社会に向けて各個人に個人情報を企業に提供しやすくしてもらうためのマーケティング用語にすぎないことを、しっかりと認識しなくてはならないでしょう。

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