日本株を支える日銀。私たちが直面するモラルと年金のあいだのジレンマ

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日本株を支える日銀。私たちが直面するモラルと年金のあいだのジレンマ

2016/12/26

 

→【2016/12/25 日本経済新聞】日本株購入、日銀が最大 16年4兆円超

 

2016年、日本株の最大の買い手は日銀――。12月半ばまでの投資部門別売買動向を基に集計したところ、日銀の上場投資信託(ETF)購入額が4兆3千億円超と他部門を上回り最大になることが確実になった。

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16年1月から12月第2週(12~16日)までの累計売買では、外国人が3兆5千億円強を売り越した半面、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの売買を含む信託銀行が約3兆5千億円を買い越した。一方、日銀は22日までにETFを4兆3千億円購入しており、信託銀を上回り「今年最大の買い手となる」(みずほ証券の菊地正俊氏)。
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日銀のETF買いは株価を下支えする効果がある一方で、業績などに関係なく幅広い銘柄を購入するため「株価形成をゆがめる」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)弊害も指摘されている。

 

 

 引用した日経記事に、2016年初から現在までの投資家別日本株売買状況がグラフ化されています。こちらをご覧になると2016年の日本株売買状況が一目でわかります。

 

 グラフを見れば分かるとおり、2016年に日本株を買い越しているのは日銀、信託銀行(GPIF等の公的年金基金含む)、事業法人の3者。一方外国人投資家、個人投資家などは日本株を売り越しています。

 

 日銀による買い越しを除いて考えると、日経のグラフによるとどうやら2016年の日本株は売り越しのようです。日経のグラフに含まれていないと思われる、証券会社、その他法人等、その他金融機関等(いずれも東証集計の投資部門別売買動向の投資家内訳の一部)の東証一部売買動向を自身で計算してみたところ、大体6260億円の買い越しでした。

 

 しかしこの分を買い越し額に含めたとしても、日経のグラフと比較すればわかるように、日銀の買い越し額を除いて2016年の日本株売買状況はトントン~多少の売り越しであることがわかります。

 

 つまり2016年の日本株の相場は、日銀のETFを通じた日本株の買い支えによって持ちこたえてきたのです。

 

 日本株の委託取引額は9月に海外投資家の影響で大きく売り越しとなり、その後売り越し額は直線的に減ってきていますが12月に入ってもまだ売り越しとなっています。海外投資家は10月以降、トランプラリーのせいないのか買い越しているものの、個人投資家が大きく売りに転じているからです。

 

 日銀は7月の終わりの金融政策決定会合で、日銀による年間のETF買い入れ額目標を従来の3.3兆円から6兆円にほぼ倍増する決定を下し、8月4日から買い入れ額が倍増していることが日銀の公表データからわかります。

 

 こうしたことから現在の日経平均の価格は日銀による買い支え、特に8月以降のETF買い入れ額倍増の影響によるものなのです。

 

 今後も日本株の暴落を防ぐためには、日銀、信託銀行(公的年金基金含む)、事業法人という政・官・民が一体となって買い支える必要があるでしょう。個人投資家はトランプラリーに乗じることなく大幅に売りこしていますし、海外投資家もいつ売りに転じるかわかりませんから。

 

 しかし信託銀行は年初~8月までは日本株を多く買い越して来ましたが、9月以降売り越しており、12月に入ってようやく買い越しに持ち直しているところで、今後どれだけ日本株の買い支えに寄与できるのかは不透明です。

 

 GPIF+3共済の公的年金も今年上半期だけで1.58兆円も買い越して来ましたが、7-9月期は微量の買い越しにとどまっており、日本株を買い支える力は弱まっています(→ソース1→ソース2)。

 

 事業法人はいままで自社株買いを続けており、ゴールドマン・サックスによると今年4月から現在までに法人による自社株買いは5.5兆円であり、年度末(2017年3月末)までには計6.5兆円にまで達するそうです。

 

 しかし設備稼働率や設備投資が落ち込んできており、金利がジワジワ上昇中であり、トランプ氏の政策といった不透明な要因もあることから、2017年度以降もこれまで通りの規模で自社株買いを続けられるかどうかは不透明です。

 

 そうなると日本株を支えきれる安定したプレーヤーは日銀一人ということになってしまいます。まさに日銀の判断いかんによって、国内株式市場の帰趨が決まってしまうでしょう。言い換えれば、大暴落を経験しない限り国内株式市場が市場原理に戻ることはありえないのです。

 

**********

 

 こうしてみると、日銀による買い支えは市場を歪めている、けしからんと思われるかもしれません。確かにモラルの観点からはそう言えるでしょう。

 

 しかし一方で私たちが認識しないといけないのは、我々の現在の公的年金制度は日銀による買い支えがあるからこそ成り立っていることです。

 

 もし日銀による買い支えがなければ、今年の秋には日経平均は暴落してGPIFの積立金も大きく目減りし、状況は現在とは異なっていたでしょう。

 

 すでにGPIFの積立金残高は2006年以降、趨勢的に減少しています。年金積立金の取り崩しによってどれだけ給付を賄えるかが今後の年金制度計画に長期的に大きな影響を与える以上、日本株の暴落が起こればさらなる年金額減額は避けられないでしょう。

 

 日銀によるETFを通じた日本株の買い支えはけしからんと思っても、それは年金額の将来の減額受け入れ表明を意味します。もし年金額の減額を受け入れられないのであれば、日銀の日本株買いには目を瞑らないといけません。

 

 私たちは好き嫌いに関係なく、モラルを取るか将来の生活資金(つまりカネ)を取るかの究極の二者択一を迫られているのです。

 

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