日経の不思議な記事

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日経の不思議な記事

2017/06/06

 

【2017/06/02 日本経済新聞】骨太から「デフレ」が消える 総論に登場せず

 

政府が2日夕に示す経済財政運営の基本方針(骨太の方針)の素案で、「現下の日本経済の課題と考え方」を示す第1章から「デフレ」の文字が消えることがわかった。安倍政権の発足以来、日本経済の課題として、いの一番にデフレからの脱却を掲げてきたのを考えれば、異変と言える。政府がデフレ脱却への自信を強めているのか、それともしつこいデフレとの戦いに諦めムードが漂い始めた裏返しなのか。

 

2017年の骨太方針素案では「デフレ」の文字が出てくるのは2度。16年版では6度「デフレ」の文字があり、脱デフレの文脈でも3回あったのとは様相が異なる。

 

注目すべきは、総論の第1章からデフレの文字が無くなったこと。第2次安倍政権が発足してからは、骨太の方針の第1章の第1段落に必ず「デフレ」の文字が登場してきた。

 

13年は「脱デフレ・経済再生」、14年は「デフレから好循環拡大へ」と副題をつけ、15年版でも「デフレ」を約20回連呼していた。

 

政府は14年の骨太の方針で「物価動向も、もはやデフレ状況ではなく、デフレ脱却に向けて着実に前進している」と表現した。デフレではないが、デフレを脱却できていない状況というのは、例えるなら、海で溺れて、なんとか水面に顔を出したが、海からは出ていないため、いつまた波にもまれて溺れるかわからない状況だ。

 

「デフレではない」状況を宣言してから3年。水面に顔を出してもがいているが、政府がデフレの判断の条件としている消費者物価やGDPデフレーター(モノやサービスの総合的な価格の水準を示す指標)などは低迷したままで、脱デフレは宣言できなていない。

 

 

 不思議な記事。

 

 記事を読むと初めから終わりに掛けて、いままでデフレ脱却デフレ脱却と連呼してきた政府が、デフレに関する指標がいまだ低迷した中で事実上デフレ脱却を諦めたかのように伝わる文章。

 

 しかし何故か次のように締めくくられています。

 

日経平均株価は2日に2万円の大台を回復するなど、足元の経済は前向きな兆しも見える。第1章から「デフレ」の文字を消すことは、政府の景気認識への自信の裏返しともとれる。デフレではなくなり「適温」とも言われる経済下で、いつまで脱デフレにこだわるべきか。経済からも人々のマインドからも少しずつデフレ色を薄める思いを込めた今年の骨太の方針は、9日に閣議決定する予定だ。

 

 いままでの記事の流れと結論の内容がまるでかみ合わないように見えるのです。政府批判とも取れる記事の流れの中で、何故か最後は政府の意向を代弁したかのような文章で締めくくられているのです。

 

 これは最近流行中の忖度ってやつですかい?

 

 しかし記事をもう少し詳しく見ると、そういうわけでもなさそうです。

 

 記事内のテーブルをみると、2017年の骨太の方針に「デフレ脱却・経済再生、歳出改革、歳入改革という「3つの改革」を確実に進めていく必要がある」と記載されていることを紹介しています。

 

 今年の骨太の方針に上記記載があるということは、政府はいまだデフレ脱却が達成していないことを認識しているというわけです。

 

 にも関わらずデフレの文言を大幅に削除したというのは、デフレ脱却達成をもはや諦めており、今後遠からず大きなデフレまたやってくることすら暗示しています。

 

 誰もがこのように思える政府の文章を引用したということは、やはりデフレ脱却が諦めムードであることを読者に伝えたかったのではないでしょうか。

 

 最後の結論には一見違和感を覚えますが、これは一つのまとまりとして読むべきではなく、次のように2つの部分に分けて読むべきなのです。

 

  • 日経平均株価は2日に2万円の大台を回復するなど、足元の経済は前向きな兆しも見える。第1章から「デフレ」の文字を消すことは、政府の景気認識への自信の裏返しともとれる。デフレではなくなり「適温」とも言われる経済下で、いつまで脱デフレにこだわるべきか。
  • 経済からも人々のマインドからも少しずつデフレ色を薄める思いを込めた今年の骨太の方針は、9日に閣議決定する予定だ。

 

 前者は前者として、後者は後者として段落分けされたと考えて見てみましょう。もはや前者はいままでの記事の流れにそぐわないので、文章を隠してしまって良いかもしれません。

 

 前者を隠すと当該日経の記事はこんな感じで終わることになります。

 

「デフレではない」状況を宣言してから3年。水面に顔を出してもがいているが、政府がデフレの判断の条件としている消費者物価やGDPデフレーター(モノやサービスの総合的な価格の水準を示す指標)などは低迷したままで、脱デフレは宣言できなていない。安倍政権はアベノミクスの成功が高い支持率につながっているが、「デフレ脱却の高すぎる目標は達成できず、呪縛のようになっている」(経済官庁職員)。

 

経済からも人々のマインドからも少しずつデフレ色を薄める思いを込めた今年の骨太の方針は、9日に閣議決定する予定だ。

 

 するとどうでしょう?随分印象が変わるでしょう。それに記事全体の一貫性をますます感じられませんか?

 

 この記事の最初からの流れを踏まえると、「少しずつデフレ色を薄める思い」というのは、「デフレ脱却という目標を掲げてきた事実を国民の記憶から忘れさせたい」という婉曲表現、最大限の皮肉とも受け取れます。

 

 実際のところはどうなのかわかりませんが、何とも不思議な文章の当該日経の記事はおそらく「やれるだけの正当な政府批判をやった」ものとして捉えるのが良さそうです。

 

 この認識を裏付けるものとして、当該日経記事の前日に日経は次のような世論調査の結果を公表しています。

 

【2017/06/01 日本経済新聞】加計学園問題、政府の説明「納得できない」8割

学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設に関する文書が政界に波紋を広げています。

 

どちらの説明に納得できるのか。電子版の読者に聞いたところ、政府の説明に「納得できない」は81.4%で、「納得できる」の18.6%を大きく上回りました。

 

前川氏の説明に「納得できる」は74.1%で、「納得できない」の25.9%より多かったです。この調査から見ると、読者の不信感は政府の方により多く向いているようです。

 

安倍内閣の支持率は26.7%で、前回調査の52.1%から25.4ポイントも激減しました。12年12月の第2次安倍政権の発足以降、最低の水準に落ち込みました。

 

 日経も、ようやく舵を切り始めたのでしょうか。何だかんだでメディアを取り巻く環境に地殻変動が起こっているのかな?

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