金利上昇。政府・日銀のぬか喜び、民間企業の憂鬱

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金利上昇。政府・日銀のぬか喜び、民間企業の憂鬱

2016/12/07

 

 世界中の国債利回りがここ数ヶ月上昇してきており、日本も例外ではありません。特にトランプ氏が次期米国大統領に選出されてからは、彼のインフレ政策への期待からか一段と利回りが上昇し、遂に新発10年国債利回りはプラスの水準になりました。

 

 

 日銀は9月の終わりから「長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策」を導入し、10年債利回りをゼロ%付近に安定化させる目標を立てました。トランプ氏の当選後は見事目標どおり、10年債利回りがゼロ%付近に推移したのです。

 

 また財務省も喜んでいるようです。以下日経の記事から引用:

 

【2016/12/01 日本経済新聞】10年債落札利回りがプラスに 10カ月ぶり、異常事態脱す

 

 財務省は代表的な国債である10年物国債の入札を1日実施、落札利回りが10カ月ぶりにプラスとなった。日銀のマイナス金利政策を背景に、これまでは落札利回りがマイナスで、お金を借りる立場の国が利子を受け取る異常事態だった。「トランプ相場」が10年債利回りをプラス圏に押し上げ、これを反映した。

 

 今回の落札利回りは、最高0.040%(前回11月8日のマイナス0.055%)、平均0.032%(同マイナス0.056%)となり、それぞれ2月2日以来のプラスとなった。流通市場の10年物国債利回りは1日、0.020%で取引を終えた。11月半ばにプラス圏に浮上して同月25日には9カ月ぶり高水準の0.045%をつけた。

 

 11月9日にトランプ次期米大統領が選出されると、財政支出による景気拡大期待や債務懸念から米10年債利回りが急速に上昇。日本の10年債利回りにも波及している。

 

 これでは、日銀も財務省もトランプ氏に足を向けて寝られませんね。

 

 しかし金利上昇を喜ぶ者もいれば憂う者もいるわけで。日本の民間非金融企業、金融機関にとっては金利上昇はゾンビに足を掴まれたような思いかもしれません。

 

 2016年7-9月期の法人企業統計が出ました。金融業を除く全産業の設備投資が前年同期比1.3%減で、アベノミクス開始以降初めて前年割れしました。また売上や営業利益も前年を下回っていることが、実際の法人企業統計を見るとわかります。経営苦しそうです。

 

 マイナス金利で企業活動が活発になるという話はなんだったんでしょうか?まぁ、前にも書いたように設備稼働率が趨勢的に減少傾向にありましたから、設備投資が近々マイナス成長になるのは必然でしたが早速起こりましたか...

 

日本の設備稼働率

画像ソース:TRADING ECONOMICS

 

 法人企業統計を見ると2016年4-6月期、および7-9月期には資本金10億円以上の規模の大きい企業で営業外利益の上昇が目立っています。この間は円高進行していましたから、為替差益の影響ではなさそうです。

 

 さらに時期的な観点も踏まえると、利払い費の減少が経営利益増にそれなりに寄与しているのかもしれませんね。この間に金利が下がりましたし、いくつかの大企業の決算を見てみましたが、4月以降の利払い費の減少傾向が印象的でした。大企業は借り換えしやすいことも、資本金10億円以上の企業で経常利益増が顕著であることと合致します。

 

 金利があがればもちろん全体として利払いは増えるでしょうから、ただでさえ本業が低迷しているなかでさらに経営は苦しくなります。

 

 為替も現在は円安ドル高ですが、日銀は金融引き締めの方向に動いているように見えますし、アメリカは貿易主導による経済回復を目指しているトランプ氏が次期大統領に決まりましたから、結局は円高ドル安の流れになる可能性が高そうです。

 

 そう考えると金利があがってしまえば、日本経済に深刻なデフレが起こっても不思議ではありません。

 

 次は金融。邦銀は国内貸出金利が低下する中、少しでも収益を稼ごうと海外投融資を積極的に行ってきました。しかし金利の上昇で米ドル調達コストが大きく上昇してしまい、海外投融資による収益悪化が顕在化し出しています。

 

 3メガバンクの平成29年3月期の中間決算を見てみると、どこも資金調達費用が大きく膨らんでいます。三菱UFJフィナンシャルグループが18.5%増、三井住友フィナンシャルグループが17.3%増、みずほフィナンシャルグループが22.7%増(いずれも前年同期比)であり、米ドル調達コストが大きく影響している可能性があります。

 

 米ドル調達コストは下のクロス・カレンシー・ベーシスのスワップスプレッドと大きく関わっています(白線)。下がれば下がるほど調達コストが増えるわけですが、ここ最近ずーっと下がってますよね。これが邦銀を苦しめているわけです。

 

Cross currency basis swap spread

画像ソース:Bloomberg

 

 収益は全体的に下降局面に入っており、費用の大幅な増加により経常利益は3メガとも前年同期比18%-26.7%も減っていますし、もう既にビジネス的に大分ダメージを受けています。

 

 金利が上がると当然融資の焦げ付きや外債の価格下落が予想されますから、外債だけでもいまのうちに処分しておきたいものです。3メガの中間決算を見ても、どうやらそろって4月から外債を結構売却しているようですね。

 

 日銀が発表している国内銀行の資産・負債等(銀行勘定)をみれば一目瞭然ですね。2016年3月をピークに、邦銀は外債を売却している趨勢にあるのです。10月にも売却しています。

 

 米財務省のデータを見てみましたが、日本の投資家は最近米国債売ってますね。マイナス金利で米国債が買われると思っていましたが、6、8、9月は大きく売り越しています(9月は中国よりも売り越し額が大きい)。このあたりに3メガも米国債を売却したのでしょうね。ちなみに2016年トータルでも米国債はかなりの売り越しとなっています。

 

 そのかわりにエージェンシー債(モーゲージ証券など)の買い越しが、日銀によるマイナス金利政策発表後の2016年2月から急増していますね。下にグラフ化しておきました。2016年4月から7月までエージェンシー債の買い越し額が増えてきましたが、その後は下がっています。おそらく金利が上がりだしたからでしょう(同じ時期に米国債売りも激しくなっている)。わかりやすいですね。

 

国内投資家による米国債、エージェンシー債の買い越し額

ソース:米財務省

 

 米ドル調達コストが高いからって、誰かが米国債売って少しでも利回りの高いモーゲージ証券なんかに手を出しているのでしょうか...いま、米国の住宅ローン金利が急上昇中で、住宅ローン申込者数はリーマンショック時の最低レベルと同程度ですよ。あれ、これ相当マズイんじゃないの?

 

 これではさらに金利が上がるようなら、国内金融機関はまさに絶望状態となってしまうでしょう。日経の記事にこう書かれています:

 

【2016/12/05 日本経済新聞】米金利急上昇、邦銀に逆風 ドル調達費用拡大 期待先行のトランプ相場余波

 

大手銀や生保を含む国内金融機関の外貨建て運用額のうち円との交換で調達しているドルは1兆2500億ドル(約141兆円)。仮に上乗せ金利が0.1%上昇すると1410億円のコスト増要因だ。

 

 詰んでないか?大丈夫か?

 

 もし金利上昇が今後も続くようなら、日本の経済も金融も相当酷いことになりそうです。

 

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