日本企業が相変わらず預金を貯めこんでいる...ただそれだけの話
2017/01/16
【2016/01/11 日本経済新聞】銀行預金16年末6.1%増、過去最高 大企業資金の滞留
全国銀行協会は11日、手形と小切手を除いた実質預金が2016年12月末に前年同月比6.1%増え過去最高の伸びになったと発表した。大企業などがマイナス金利に陥った国債を持てなくなり、手元資金を預金に滞留させているのが主因とみられる。一方で地方では預金が流出しており、預金の都市集中が鮮明になっている。
全国116行の12月末の残高は694兆円。増加率はITバブル崩壊後の02年3月末につけた6.0%を初めて上回った。大企業の顧客が多いメガバンクなど都市銀行(5行)で9.5%増えた。運用会社などの資産を預かる信託銀行(4行)でも9.9%増えた。
全国銀行の貸出金は478兆円で2.3%増だった。伸び率は近年ほぼ横ばいで推移している。都市銀は貸出金が前年同月比0.4%減。6カ月連続のマイナスだった。
日銀がまとめる都道府県別の預金統計によると、預金の伸びは東京都や大阪府など大都市が突出している。一方、直近の16年11月末では和歌山、奈良、岩手、島根、徳島、愛媛の6県で預金が減少に転じた。若い世代が都市に集中しており、地方の企業オーナーなどが抱える資金も相続などの際に都市部に流れてしまう。
実際の日銀の都道府県別預金統計を見てみると面白いです。直近の2016年11月と2015年11月のデータを見比べてみると、確かには東京、愛知・大阪などの都市部を中心に預金は5%以上増えています。東京は16%も増えています。
しかし家計の預金である個人預金を見てみると、状況は一変します。昨年被災した熊本を除けばどこも伸びが非常に鈍いです。東京で2.66%の伸び、大阪は0.3%しか増えていません。
結局増えたのは法人預金と金融機関預金。日本の企業が預金を増やしただけにすぎないわけです。日経の記事では主因とみられるという婉曲表現になっていますが、(マイナス金利がどうだという話を脇に置けば)主因以外の何者でもありません。
少し時期は戻ってしまいますが、日銀の預金者別預金をみると、ここ最近日本の企業全体が内気になっている状況が非常によくわかります。下図のように、時を経るに連れて法人預金額が増えていっています。特に金融機関はマイナス金利の影響からか、2016年に入って急激に預金が増えています。
ソース:日銀
一般法人預金は2015年9月から2016年9月まで、およそ20兆円増えました。これは同期間の内部留保の額と大体同じです。金融機関は同期間に14兆円増えましたから、民間の法人全体で計34兆円程度増えたことになります。この額はGPIFの年金積立額の25%超です。
日経の記事の中身を読むと預金の都市集中が問題のように見えますが、結局は日本の企業が非常に弱気になってカネを貯め込んでいるという、それだけの話でした。
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最近、トランプ氏がトヨタを批判したり、大統領選出後初の記者会見で貿易問題について中国、メキシコと並んで日本を名指しで批判するなど、日本の企業に対する批判的言動後繰り返しています。しかも汚い口調で。
しかしトランプ氏は国境税を導入しようとするなど、口だけではなく米国第一に考えた行動を彼なりにとろうとしています。
こうした面はさすがトランプ氏は不動産で巨額の富を築いた経営者だけあります。成果はどうなるかはわかりませんが、少なくとも就任当初からアメリカ経済のために大きな変革をしようとする姿勢は評価されても良いのではないでしょうか。お金を貯めこむ日本の経営者たちとは大違いです。
いま、日本の経営者はトランプ政策に対してどのような態度や行動を取るか、経営者としての本当の資質が試されているのではないでしょうか。
日本の自動車産業も米国販売台数と比較して、米国生産台数は少ない傾向にあり(トヨタ、日産、マツダ、スバルなど。マツダは米国に生産拠点なし)、国境税が導入されればかなりの影響を被りかねませんから(ある信頼できるソースからの情報だと、国境税により日本の自動車メーカーは2-3兆円もの利益を失うとの試算もあります)。戦略を変えないと不味そうですね。
なにはともあれ、これからはトランプ氏の行動と日本の経営者の対応を比較しながらみてみると面白そうです。
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