社債発行ラッシュの裏に潜む日本企業の現状

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社債発行ラッシュの裏に潜む日本企業の現状

2016/09/17

 

 ※とても暗ーい内容となっているので、これ以上暗くなりたくない方はお読みいただかないことをおすすめします。

 

 

 20-21日の日銀金融政策決定会合後に公表される予定である「総括的検証」に世界中の市場関係者が注目していますね。

 

 報道されている内容からは「マイナス金利のさらなる低下」と「超長期金利を引き上げる」という2つが軸になりそうですが、そんななか企業の社債の起債ラッシュが起こっているそうではないですか...

 

 →【ブルームバーグ】「総括検証」で社債駆け込み発行、過去最大-緩和観測も金利上昇
 →【日本経済新聞】社債発行、最高の4.5兆円 7~9月 ソフトバンクなど、成長資金に
 →【日本経済新聞】日本企業の社債発行が過去最高 1~8月、低下金利で

 

 おぉ、見出しを見る限りは何とも華々しい。一足早く秋祭り到来ですね。

 

 記事を見る限り、どうやら日本企業はここ最近の国債利回りの上昇を受けて、金利が上がる前に低利で借りられるうちに借りておきたいみたいです。消費増税前の駆け込みラッシュのようで、10月以降は起債が低迷しそうですね。

 

 ブルームバーグの記事によると7月1日から今月15日までの社債発行額は前年同期の2.8倍の4兆5415億円で、日経によると1978年以降で最大みたいですが、一体企業は社債によって調達したお金を何に使うのでしょうか?

 

 ※以下、企業という言葉では「金融業・保険業」を除いています

 

 法人企業統計によると、平成28年度の4-6月期の日本企業の長短借入金の残高は大体400兆円程度。一方営業利益は14兆円程度。つまり年間の営業利益は(少し多めに見積もって)60兆円程度。また平成27年度の減価償却費は大体40兆円程度。

 

 年間の営業利益と減価償却費を合計すると約100兆円程度。つまり、ラフな見積もりですが、日本企業が毎年本業で得られたキャッシュで借入金を返済するには4年も掛かるということ。

 

 ※本当はのれん償却費等(の絶対値)も加算しないといけないので、多少過大評価になっていると思うのでご注意ください。

 

 本業で得たキャッシュで借入金を返済する場合に3年以上かかるようだと借り過ぎですし、4-5年以上だと危険水準に達していると言わざるを得ません。

 

 えぇ、日本企業全体の借入水準は相当危険な領域に差し掛かっているのです。つまり国内には借入金の水準が相当危険で破綻リスクも無視できない企業がそこら中にウヨウヨしているってわけです。

 

 日本企業はこんな借金まみれなのに、社債起債額がここ40年近くのうちで過去最高なんですから、それはそれは経営陣は将来の経済成長に相当な自信がおありのようで。

 

 製造業とサービス業のPMI指数を見ると、アベノミクスがスタートしてから1年程度をピークに趨勢的に下落していて、いま景気好況-低迷ラインの50ギリギリですよね(50を下回ると不況の一つの合図)。とてもとても景気回復とは程遠いよとの諦めの声が現場から聞こえてきます。

 

日本企業のPMI指数

画像ソース:Investing.comNikkei

 

 設備稼働率も悲惨な状況ですね。2001年以降の水準に達していないどころか、やはりアベノミクススタートから少し経つと設備稼働率が急激に下がってきていますよね。アベノミクスがスタートする前の2010年、つまりリーマンショックから僅か2年程度しか経っていない時期よりも悪いですよ。

 

日本の設備稼働率

画像ソース:TRADING ECONOMICS

 

 こんな状況で借入増やして設備投資するのはさすがに厳しい、というか無謀ですよね...本来であれば借入を減らし、設備投資費を抑制したり運転資本を圧縮したりしてコストカットしないといけない状況ですよ。

 

 設備投資の伸びはここ最近弱まってきているものの、まだ多少は伸びているようです。ただ設備投資の当年計画の実現率がリーマン前と比較するとずーっと低迷していることがわかります。企業内部の人でも「こんなはずでは...」と、思うように設備投資が伸びていない現状に気付いているのではないでしょうか。

 

日本の設備投資成長率、計画実現率

画像ソース:日本政策投資銀行

 

 海外設備投資に至っては減少傾向にあります。業種によって様々ではありますが。全体で見ると2年連続マイナスの伸びになるみたいです。

 

日本企業の海外設備投資動向

画像ソース:日本政策投資銀行

 

 さらに製造業の設備投資の動機をみると、リーマンショック以降は成長には結びつかない「維持・補修」の割合が大きくなっていることが気になります。2000年以降大幅に設備能力の増強を図ってきたものの、そのツケが回ってきているみたいです。

 

 しかも今後は労働者人口減少ですし生産性の向上も怠ってきましたから、余剰な設備を売却しない限り、維持・補修という成長に結びつかない設備投資は今後製造業の経営を圧迫していくかもしれませんね。

 

日本企業の投資動機ウエイトの推移

画像ソース:日本政策投資銀行

 

 こうしてみると、企業側も積極的に設備投資を伸ばしていくことは今後難しくなることは気づいているのではないでしょうか。

 

 それなのに社債の起債額が過去最高で超長期債の発行も進んでいるって、どうなんでしょうね。

 

 もちろん、企業によってはしっかり将来の展望があって、将来への成長の実現に向けて設備投資やM&A等を計画しているところもあるでしょう。

 

 ただ、個人的な勝手な推測ですが、いまとりあえず低利で借りられるだけお金を借りておけば、今後満期が到来する負債の元利返済の波をとりあえず凌いで生き延びられるし、また成長の芽が出てきたときにこの資金が使える、そんなこと考えている企業もそれなりにあるのではないでしょうか。

 

 もちろんこの借入もいずれは返さないといけないですが、「まぁその間にきっと誰かが経営を立てなおしてくれるさ...」なんて考えているのかもしれない。

 

 日経の記事(本記事最初に貼った日経へのリンク1つ目)にこんなことが書いてありますね。

 

これまでの最高記録は1998年1~3月期の4兆4270億円。前年の山一証券の経営破綻などが響いて金融不安から「貸し渋り」が強まり、資金調達に苦慮した多くの企業が社債市場に駆け込むという特殊な状況だった。

 

 つまり「借りられるいまのうちに借りておこう」という意思のもとで、社債発行を大きく増やした事例が過去に存在していたことを示唆します。

 

 しかも現在、国内企業の内部留保は年々増加しており、直近では378兆円にも達していますよね(according to 法人企業統計)。少なくとも経営陣に前向きな姿勢や将来への展望があれば、こんなに内部留保が積み重なるなんて普通あり得ないです。国内企業は相当行き詰っているのではないでしょうか。

 

 18年前は特殊な状況にあったとありますが、いま企業は借金漬けで異常なほど内部留保を積み重ね、日銀は人類史上初であるマイナス金利政策を導入している現状を考えれば、ある意味で18年前よりも数段特殊な状況にある気がしますが...

 

 このようにいろんな数字やデータを見ていくと、国内企業の経営陣の中には完全に行き詰ってしまい、いまのうちにお金を抱きかかえられるうちにかかえよう、そうした考えに陥っているのではないかとつい穿ってしまいます。

 

 ・・・

 

 マイナス金利政策によって経済成長に結びつくという考えは、もはや妄想の類であると言わざるを得ません。もうこの経済実態を目の当たりにしたら、とてもじゃないけれど今のままで日本の景気が良くなるなんてあり得ないですね。悪化しなければ万々歳です。

 

 経済は悪くなる、デフレになることを当たり前の前提として、私たち個人も考えて何かしらの行動に移さないといけないですな...

 

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