当たり前を疑え-心理が生むリスクを理解し不確実を楽しむ-

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実行力があるだけではダメ

   私たちは実行力のある人を好む傾向があります。 もちろんただ闇雲に実行している人ではなく、自分が定めた目標等に向かって一貫して実行している人、そういう人を好む傾向にあります。


   例えば政治では実行力というキーワードが重要視されています。 よく選挙シーズンになると、候補者が「現政権は全く実行力がない嘘つき政権だ」「我が党は実行力があります」とやたら実行力という言葉を使っています。 また現政権の支持・不支持に関する世論調査でも、現政権を支持する理由として実行力を上げている人が多いです。


   このように私たちは実行力というのを重要視しています。 何故なら私たちは一貫して行動している人に対してポジティブイメージをもつからです。 決断力がある、知性がある、アクティブ、そんなイメージを持ちます。


   私たちの心理はコミットメントと一貫性を、前向きなものとして捉えるのです。


   しかしこのように実行力があることを肯定的に捉えることで、誤った連想を引き起こしてしまいがちです。 上のように実行力のあることを決断力があるとか、知性があるとか、そういったポジティブなイメージをもつことにより、いつしか私たちは無意識のうちに次のような連想をしてしまいがちです:


   実行力がある→良いことだ


   しかしこのように連想することは誤っています。 何故なら例え実行力があったとしても、ちゃんと正しいこと、価値のあることを実行してもらわないといけないからです。 もしも私たちに結果として悪影響を及ぼす行動を一貫して実行されると、むしろ残るのは害です。 悪影響を及ぶ行為をするくらいなら、何もしないほうがマシです。


   例えば政治でも、消費税増税をマニフェストに掲げて実際に消費税増税を行って、実行力があると言われても我々消費者にとっては嬉しくもなんともありません。


   消費者物価を高めて景気を良くするとマニフェストに掲げ、実際にインフレが起こり消費者物価が上がったとしても、消費者物価が上がった分だけ給料も増えないと(実質賃金が増えないと)我々の生活はもっと苦しくなってしまいます。


   いくら実行力があろうが、私たちの生活を苦しめる政策を実行するくらいなら、実行してくれないほうがマシですよね。


   大切なのは、価値のある行動をするかどうかです。 時には何も実行しないことも価値のあることなのです。 「何もしないということを実行する」という、ちょっと奇妙に思える考えもちゃんと受け入れる必要があります。


   投資で「Buy and Hold」という戦略があります。 これは一度株などを買ったら、その株を持ち続けるという投資戦略です。


   投資の世界でも実行力のある人の方が正しい、知性があるといったポジティブな印象を持たれがちです。 ここでいう実行力とは、企業や経済の状況を見ながら頻繁に売買することを指します。


   しかし頻繁に売買すると売買手数料が余計に掛かったり、株価等の変動に心が敏感になってしまい精神衛生上もよくありません。


   私が購読している投資情報メルマガを提供している元ファンドマネージャーの方曰く、株価に注視し頻繁に売買することをやめ、代わりに一度株を買ったらひたすら放置するという戦略を取ったところ、投資結果が向上しました。 つまりBuy and Hold戦略により、より高い儲けを得ることができたのです。


   このように投資の世界でも、必要以上に実行しないことが価値を生み出すのです。


   私たちはコミットメントと一貫性に対するポジティブイメージを持つため、どうしても実行力のある人を価値のある人と見てしまいがちです。 しかし先ほど述べたように、問題は実行するしないではなく、価値のあることをするかしないかです。 価値があるのならば、あえて何も実行しないことが功を奏する場合だってあるのです。

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