数と権威性その3
数が何故私たちに説得力を与え、権威性が働いてしまうのかを考えてきました。 しかし数に対する権威性は、しばしば危険をもたらします。
何故なら世の中で扱われる数は必ずしも正しいとは限らないからです。
私たちは統計や経済理論など、数学をベースに発達した理論に対して多くの信頼を寄せる傾向にあります。 しかしこれらを使ったからと言って、必ずしも正しい結果を出すとは限らないのです。
何故ならこれらの理論から正しい数字を導き出すには、これらの理論に現実を「適切に」当てはめなければならないからです。
数学理論は確かに正しいです。 数学的証明によって、世の中にあるすべての数学の定理は永遠に正しいです。 そしてこれら数学の理論をベースにして得られる統計学や経済学の理論は正しいです。
しかし理論を使って得られた結果が正しいとは限りません。
私たちは連想によって、「理論が正しい」を「理論によって得られた結果が正しい」と無意識のうちにすり替えてしまっている気がします。
数学がベースの理論を現実世界に応用するときには次の二つのエラーが起こる可能性があります:
- 使用する理論、定理は適切だが、インプットが不適切
- そもそも使用する理論、定理が不適切
一つ目は使用する理論や定理が適切でも、インプットが不適切なときです。
例えば2014年に厚生労働省から公表された年金の財政検証では、将来の様々なケースを想定したときに将来の年金財政がどうなっているのかを統計的に検証しました。 将来受け取れる賃金や物価の上昇率をインプットとして、統計的手法に当てはめて将来の年金財政というアウトプットを求めたのです。
賃金や物価の上昇率をいろいろ動かして全部で8ケースに対して検証しましたが、これら検証結果には何の正当性がありませんでした。 何故ならインプットとして入れた賃金の上昇率が、日本の現実とはかけ離れた楽観的な数値だったからです。
すべてのケースにおいて実質賃金の上昇率が、今後20年で最低でも0.7%上昇すると試算されていたのです。 当時の物価上昇率が3.6%だったので、最低でも給料が毎年4.4%ずつ上昇する必要があります。
ちなみに2014年4月に消費税が5%から8%上昇したとき(つまり物価が少なくとも2.9%(=1.08/1.05-1)上がった)ときに、大企業の賃金上昇率は平均2.39%でした。 つまり実質賃金が最低でも0.41%(=2.9-2.39)下がっていたのです。 この数字を見て、いかに実質賃金の上昇率が最低でも0.7%上昇というインプットが無意味だということがわかります。
もう一つはそもそも使用する理論、定理が不適切なときです。 このときはどんなインプットを入れても、得られたアウトプットは正しいとは言えなくなります。
例えば地震予測は、正規分布と言うグラフを使って統計的、確率的に行っています。 しかし地震はべき分布という、正規分布とは違ったグラフに従っているのではないかという意見が出ています。
べき分布は正規分布に比べて、稀な出来事が起こる確率が無視できるほど小さくはないという特徴があります。 日本で大きな地震が意外と頻繁に起きている現実を考えると、地震はべき分布に従っているのではないかと考えさせられます。
このように数学を現実世界に応用するときには、実は誤りや妥当性の欠如を含んでいる場合があるのです。 よって権威性が働いて数が使われた結果を無意識に信じることで、間違った知識を頭にインプットしてしまう可能性があるのです。
権威性に打ち勝っても、数に関することは頭を使うので対処するのが難しいかもしれません。
しかし実際の生データを見て数値の妥当性を考える、またもしも結果が間違っていた時に私たちにどれだけの悪影響があるのかどうか、そういうことは考えることができます。 このように疑う気持ちを持つだけでも、数字に惑わされないために大切な意識だと考えます。
こういった意識をもって、数に騙されないように気をつけてみてください。
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