中国の車載電池支配体制の準備が整いつつある

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中国の車載電池支配体制の準備が整いつつある

2018/05/26

 

【2018/05/22 日本経済新聞】中国、自動車関税を一律15%引き下げ 米に歩み寄り

 

中国政府は22日、7月1日から輸入乗用車に対する関税を25%から15%に引き下げると発表した。貿易赤字削減へ関税引き下げを求めてきたトランプ米政権に中国側が歩み寄った。

 

【2018/05/22】国家戦略ありきの成長 外資電池は補助金対象外

 

CATLをはじめとした中国メーカーが世界の車載用電池市場の6割以上を握るようになったのは、自力よりもむしろ、中国の周到な国家戦略によるところが大きい。その中心は外資が極めて不利な2012年から続く政府補助金政策だ。

 

中国政府は電池を中国メーカー57社から調達をしなければ、中国でEVを製造しても補助金を支給しないとした。補助金がなければ高額なEVは売れない。「なぜあえて中国企業の電池を採用しなければならないのか」と反発した外資は中国でEV参入を見送った。

 

その結果、中国勢は政府が12~16年に投じた少なくとも2兆円の補助金を総取りし、最近5年間で一気に生産能力を拡大して技術も磨いた。1日単位でコスト削減が進む電池業界で、外資を封じた5年間のアドバンテージは計り知れなかった。

 

米中摩擦の根幹には、こうした中国の手法に対する米国の反発がある。中国政府は22日に乗用車の輸入関税引き下げを発表するなど外資への市場開放をアピールするが、電池分野は「時すでに遅し」との見方が大勢だ。

 

 上の2つの報道から、「中国が市場開放を進めている」というよりむしろ「中国による世界の車載電池市場の支配態勢が整った」ことが推察されます。

 

 中国の車載電池メーカーであるCATLは、2017年に電力量でみた出荷量が11.84GWhとなり世界最大の車載電池メーカーとなりました。現在は4月のIPOで得た20億ドルの資金を使って「ギガファクトリー」を建設中で、2020年には年間出荷電池の電力量は40-50GWhと、現在の4倍程度になる見通しです。

 

 中国国内生産の純電気自動車を販売するためには、業界基準および中国政府が公布する規範条件を満たす企業が製造したEV駆動用バッテリーを搭載しなければなりません。中国政府が公布する規範条件を満たす企業は中国企業が独占しているので、海外メーカーが中国国内で純電気自動車を生産するためには中国メーカーの車載電池を搭載しなければなりません。

 

 プラグインハイブリッド車や燃料電池車にはこうした要件はまだないようですが、中国政府が将来これら車種にも同じような要件を課す可能性が排除できないので、事実上すべての中国産エネルギー車は中国製車載電池を採用しなければなりません。
【2017/04 信栢法律事務所、瑞栢法律事務所】EV駆動用バッテリーメーカーの外資出資比率規制の撤廃と業界基準の引き上げ

 

 CATLは中国政府と手を組み、欧州の部品大手企業等から大量の優秀な人材を高待遇でスカウトしてきました。また国際的な電池研究の権威を最高技術責任者に迎え入れており、電池の研究・開発・生産技術は世界トップレベルにあります。昨年には車載電池の価格を3割削減できたようです。
【2018 05/23 日本経済新聞】中国CATL、EV電池首位疾走 世界から技術者

 

 今年に入り、CATLの素材調達能力が高まっています。今年3月にはCATLへの素材主要サプライヤーのGEMが、グレンコアから3年間で5万トン超のコバルトを購入する大型契約を交わしました。毎年全世界のコバルト生産量の15%程度をGEM一社が買い占めるのです。
【2018/03/14 FT】China tightens grip on global cobalt supplies

 

 また今年4月には、CATLのカナダ支社がカナダのニッケル生産企業のNORTH AMERICAN NICKELの株式25%超を購入しました。
【2018/04/20 CNBC】Contemporary Amperex Technology Canada Limited Announces Acquisition of Units in North American Nickel Inc.

 

 CATLはコバルト・マンガン・ニッケルの三つの元素を用いるリチウムイオン電池の開発・生産を行っており、その素材のできるだけ安価な安定調達手段構築を進めてきたわけです。

 

 さらにCATLは完成車サプライヤーであるフィンランドの企業Valmet Automotiveの株式22%を保有、業務提携しており、中国国内産の電気自動車やバッテリーパックの欧州への供給体制も整えています。
【2017/01/30 Valmet Automotive】Valmet Automotive and CATL form a strategic partnership in electric vehicle solutions ? CATL invests in Valmet Automotive to become an important owner

 

 CATLは単に車載電池の研究開発や大量生産の準備を整えているだけでなく、CATL産バッテリーやそれを搭載した電気自動車の欧州を中心とした世界への供給準備も着々と整えているのです。

 

 つまりCATLは車載電池の研究・開発・生産から、資材の調達、車載電池の国内外問わない提供に至る、一連の車載電池サプライチェーンを急速に構築してきたわけです。

 

 先進国(特に日独)の大手メーカーはEV用電池では中国勢に適わないとすでに諦めムードで、最王手で資金力もあるCATLに電池供給を任せる方針に転換しています。

 

 独フォルクスワーゲン、独BMW、日産、独ダイムラー、ホンダはCATLから電池供給を受けたり、CATLと電池共同開発を進めることを決めています。
【2018/05/09 Bloomberg】Tesla May Be Trampled by CATL in China
【2018/05/23 日本経済新聞】ホンダ、EV電池を中国企業と開発 量販車向け

 

 CATLが世界の車載電池市場を呑み込もうとしているタイミングで中国が自動車の輸入関税を25%→15%に引き下げるのに驚くことはありません。2019年から、中国自動車市場に参入するメーカーは、中国での自動車総販売台数の10%以上の新エネルギー車(実質的に電気自動車+プラグインハイブリッド車)を中国で生産しなければなりません。

 

 自動車輸入関税の引き下げにより海外メーカーが海外で生産した自動車をより積極的に中国に輸出・販売するようになれば、自動的に同メーカーは中国での新エネルギー車の生産も増やさねばならなくなるため、CATLその他中国電池メーカーや中国の資材、部品等のサプライヤーの収益が増えます。

 

 中国政府の自動車輸入関税引き下げ措置は、車載電池を通じた中国の世界的な経済的影響力の拡大策であり、儲けるための手段なのです。

 

**********

 

 CATLの本社は福建省寧徳市にあります。福建省は習近平国家主席が大出世の糸口となった登竜門の地です。福建省アモイ市の副市長、寧徳市書記(No.1)、福州市書記(No.1)、福建省副書記(No.3)、そして福建省省長(No.2)にまで上り詰めました。そして浙江省、上海市の書記を経て、中央指導部入りしています。
【東洋証券】寧徳市といえば習主席

 

 習近平にとって思い入れの強い地に構えるCATLが、全くの無名から急成長し、設立からわずか6年で以前まで中国最大の車載電池メーカーであったBYDを抜き去り、テスラ・パナソニックを抜き去り、世界最大の車載電池メーカーとなり、さらに今後3年で生産量が4倍増えるのです。

 

 国家主席の任期を撤廃した習近平とともに、CATLもまた、中国の市場開放を通じて長きに渡って世界に大きな影響力を与えていくことになるのでしょうか。

 

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