現実世界の仕組みを「情け容赦なく」変えるICTの巨人_2
2018/09/01
前回は、アマゾンの財務、事業、株価について話しました。今回は、アマゾンのビジネスについて個人的な見方を紹介します。まず消費者を味方につけて支配することで、企業を支配する。こうして見ると、アマゾンの事業が見えやすくなります。
※前回の記事の続きです。
の記事(一部)です。
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まず消費者を味方につけて支配することで、企業を支配する
今度はアマゾンのビジネスモデルについて個人的な見方を話します。
アマゾンはECサイトをはじめ、クラウド事業、動画サービス、広告事業、食料品事業、スマートスピーカーといったハードウェア、人工知能、住宅事業、ヘルスケア、金融サービスなど、広範囲の事業を行っていたりこれから行っていく予定であり、すべて追うのは無理があります。
しかし、「目に見える」部分ではなく、「目に見えない」もっと本質的な部分に着目すると、アマゾンのビジネスが意外にわかってくるものです。
アマゾンのビジネスモデルは、一言で言えば「まず消費者を中心に味方につけて支配することで、企業を支配する」というものです。
これを、最新のICT技術を駆使して実行しています。
これはグーグルやフェイスブックも同じです。アマゾンもグーグルもフェイスブックも、次の3つのステップで個人や企業を支配して収益を得ています。
- 消費者等の顧客を満足させるプラットフォームやコンテンツを生成・買収し、
世界中の人々を集客する - 集客した顧客から膨大な行動データ(購買データ、検索データ、
プライベート写真のアップロード等)を収集・蓄積し、分析する - 収集・蓄積・分析したデータや情報をエサに、世界中の企業を取り込み、収益化する
アマゾンもグーグルもフェイスブックも、他社には真似できない規模の顧客に関する行動データや情報を保有しているので、広告主や効率よく商品を販売したい企業は、これら巨大ICT企業を使わざるを得ません。
そうして、世界中の企業を取り込み、ビジネス的に支配するのです。
アマゾン、グーグル、フェイスブック等の巨大ICT企業、プラットフォーマーは、次のように捉えてもよいと思っています。
「ポスト銀行時代の新しい形の仲介業者」
銀行は家計等の黒字主体から預金として「お金」を集め、「信用創造プロセス」で集めたお金の何倍もの「信用」を生み出して企業等の黒字主体に貸し出して収益を得ます。
アマゾン、グーグル、フェイスブックは消費者等から「データ」を集め、「AI分析」でデータに付加価値のついた「情報」を生み出して、企業等に満足のいくサービスを与えて収益を得ます。
プラットフォーマーのビジネスモデルは、銀行のそれと結構似ていることがわかるでしょう。「お金」→「データ」に代わっただけで。
今後機会があれば別の記事に書こうと思っていますが、「お金」と「データ」は類似した性質を持っています。
お金とデータの類似点が、銀行とプラットフォーマーのビジネスの類似性を生み出すと考えられます。
銀行とプラットフォーマーにはもちろん違いもあります。
例えば、銀行はお金を集めるとそればバランスシートの負債に計上されますし、預金を引き出されるとビジネスが破綻します。
しかしプラットフォーマーは収集したデータは法的に定められた帳簿に一切記載されませんし、データや個人情報を消費者らが任意に引き出すことはできません。
これから規制が導入されないかぎり、プラットフォーマーはリスクなしでデータを収集でき、AI分析を活用することでいくらでも収益をあげられるのです。
しかし、アマゾンはグーグルやフェイスブックと次のような違いがあると考えられます。
- 商品購入意欲の最も高い人々を集中して集客できる
- 「嘘をつけない」「本音の」質の高いデータを収集しやすい
- 代替が利かず、もしなくなると人々の生活に大きな支障をきたす
(以下省略)
広告事業はアマゾンの企業支配力を高める
「まず消費者を中心に味方につけて支配し、企業を支配する」「ポスト銀行時代の新しい形の仲介業者」
こうした目線でアマゾンをみれば、今後アマゾンは次のような方法でビジネスを展開することになりそうです。
- 新規顧客や新たな属性・行動データ取得、既存顧客の満足度向上のために、
巨額の投資や買収を行う(短期的利益ではなく、長期的利益獲得のため) - 利益は、データやAI分析を利用した、利益率の高い
企業向け・個人向けサービスから得る
最近成長著しい広告事業がまさにそうです。
膨大な数の顧客データを活用し、広告主である企業たちに利益率の高いサービスを提供して利益をあげると同時に企業を支配するのです。
広告事業でアマゾンはグーグルやフェイスブックに大きな遅れをとっており目新しさは感じないかもしれません。
しかしグーグルとフェイスブックが米国広告事業を席巻しているタイミングに、アマゾンの広告事業が遅れながらも急成長し出した点は見逃せません。
アマゾンにはグーグルやフェイスブックにはない強みがあるように思います。
一つ目は消費者が商品検索を行うサイトとして、アマゾンがトップに躍り出たことです。
よって商品広告は、グーグル検索よりもアマゾンのウェブサイト上に掲載したほうが、消費者の目に留まりやすくなるのです。
画像ソース: ネットショップ担当者フォーラム
二つ目はアマゾン訪問者は買い物意欲が高い見込み顧客が多いので、広告のコンバージョン率(成約率)が高いことが期待されることです。
広告ではなくアマゾンに掲載された商品のコンバージョン率は、非プライム会員で13%、プライム会員は驚異の74%という数字です。
米国のEC売上上位500サイトの平均コンバージョン率(CVR)は3.32%を遥かに凌ぐ数字です。
コンバージョン率が高ければ、広告主は売上げに占めるマーケティング費用を安く抑えられますから、広告主にとって大きな魅力です。
三つ目はアマゾンは世界中の大半の企業と取引関係を通じた主従関係を形成していることです。
商品を販売する企業にとって、アマゾンは梱包や配送といった面倒な作業を代行してくれ、簡単に商品を販売して収益をあげる近道であり、世界中の企業はアマゾンとの関係を切れなくなっています。
よってアマゾンは各企業に対し、アマゾン上での広告出稿を増やさざるを得ない状況をつくりやすくなると考えられます。
先ほど話したように、アマゾンに掲載された広告は閲覧者数も、コンバージョン率も高いことが考えられますから、広告主にとってはマーケティング費用を節約できるメリットを得られる可能性があります。
そこで、アマゾンが各企業に対し仕入れ値を下げるよう圧力を掛けたらどうでしょうか?
アマゾン側からすれば「広告費用を安く抑えてあげてるんだから、多少仕入れ値を下げても問題ないでしょ?」となります。
そうすれば、各企業はアマゾンへの広告出稿のウェイトを増やさざるを得ないですよね。
「まず消費者を中心に味方につけて支配し、企業を支配する」
アマゾンにこうした考えがあるとの目線に立てば、いまさらながらもアマゾンが広告事業を本格化させてもなんの驚きもありません。
収益拡大を超えた、企業支配という目的があると考えられるためです。
アマゾンの広告事業は、商品検索を通じて購入を「検討」させ、「購入」に至らしめ、レビューを通じて商品を「支持」することに長けています。
フェイスブックは商品の存在を「認知」させるのが得意なのでアマゾンとはあまり競合しないでしょうが、グーグルは検索を通じて購入を「検討」させることが得意なのでアマゾンと被ることになります。
クラウド事業に続き、広告事業でもアマゾンとグーグルによるシェアの奪い合いが起きそうです。
アマゾンが「真の姿」を見せるのはまだ先
・・・
いままでもアマゾンは、長期的戦略や柔軟なアイデアを形にして事業を伸ばしてきた企業、というわけです。
今後はビッグデータとAIの利活用で、アマゾンの柔らかい頭脳が様々な分野で新たな付加価値を生み出すと考えるのは、自然な見方です。
アマゾンの「真の姿」が露になるのは、もっと先でしょう。
米国証券口座で長期投資。日本よりも圧倒的に安い手数料で世界中の株式に投資できます。将来有望な企業が運よく暴落してもすぐに購入できるように、いまのうちに口座開設しておくと良さそうです。
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