インフレ・供給制約がハイテク株を本格的に襲い始める

[2021/10/29]米国株式市場=S&P・ナスダック最高値、アップルやアマゾン上昇で
 
米国株式市場は上昇し、S&P総合500種とナスダック総合が最高値で引けた。テスラやアップル、アマゾン・ドット・コムの上昇が寄与した。
 
アマゾンは1.6%高で終了。ただ、引け後の決算発表で、第4・四半期の売上高見通しが市場予想を大幅に下回り、時間外取引で4%下落した。
 
アップルも決算を受け、時間外では3%超値下がりした。同社の第4・四半期決算(9月25日まで)は、供給網の制約で売上高に60億ドルの影響を受けたことで、予想を下回った。年末商戦期にはさらに大きな影響があるとした。

 
ナスダックは再び最高値を更新しましたが、宴の終わりが近づいているように見えます。
 
米国の大手ICT企業の今年7-9月期決算が出そろいました。読んでいて感じたことは、多くの企業で業績サイクルがピークに達したことです。
 
大手ICT企業の業績は昨年10-12月期から現在にかけて、一年前を大きく上回る成長を見せてきました。
 
パンデミックにより、リモートワークやSNS、電子商取引の利用が拡大したなかで、パンデミックで大きく落ち込んだ米国や世界の経済が昨年下半期から大きく回復したためです。給付金も加わり個人消費も拡大しました。
 
サイクルの目線で見れば、今年10-12月期から、大手ICT企業の業績の前年比成長率は大きく鈍化しやすくなります。
 
すでにノートPCの販売額は減少しリモート需要は陰りを見せ始め、実店舗での買い物が再び活況となっていることから電子商取引の売上は伸び悩んでいます。
 
 
さらに大手ICT企業には新たな逆風が吹き始めています。インフレです。
 
現在、世界的にサプライチェーンの混乱、原材料やエネルギー価格の高騰、労働力不足による賃上げでインフレが進んでいることは周知の事実です。
 
アマゾンはサプライチェーンの混乱や労働力不足の影響による仕入れ費用や物流人員の賃金上昇、アップルは半導体不足によるiPhoneの生産ペース鈍化が今後の業績の重しになっていきます。
 
ガソリン価格や食品価格の値上がりが続き、消費者の購買力が低下していることは、グーグルやフェイスブックの広告収入に響いてくるおそれがあります。
 
 
AWSやマイクロソフトのアジュール、グーグルのクラウドサービス事業は、業績を見る限り好調が続きそうな雰囲気にあります。
 
しかしクラウドサービス事業のインフラであるデータセンター向け機器の供給不足が業績を脅かすリスクがあります。すでに一部の機器で、半導体不足と中国企業による買い占めによる影響で、リードタイムが従来の倍になっています。
 
半導体不足は収束する兆しがありません。半導体企業は今年から工場建設を急いでいますが、竣工し稼働するまでに2年は掛かりますから、半導体不足は少なくとも来年まで続きそうです。
 
しかも半導体の安定供給にはチャイナリスクがつきまといます。
 
中国では不動産開発の失速や電力不足の影響で経済成長率が鈍化し始めています。不動産バブル崩壊で不況となり、失業率が増えれば、中国国民は習近平指導部への反感を強めるおそれがあります。
 
そうなった場合、習近平指導部は国威発揚による支持率巻き返しのために、北京五輪以降にでも台湾海峡有事を起こしても不思議ではなくなります。
 
高速演算処理に欠かせないロジック半導体の大半はTSMCなどのファウンドリが製造しており、台湾は世界のロジック半導体の製造・組み立て・テストの2/3を担います。
 
仮に中国が台湾海峡有事を仕掛けるものなら、世界の半導体サプライチェーンは大混乱することになります。
 
もし現実化すれば、巨大ICT企業のクラウド事業やiPhoneの製造に甚大な影響を与えることになります。
 
 
巨大ICT企業の銘柄は、すべて割高な成長株という点で共通しています。こうした銘柄は長期金利が上がると値下がりする傾向にあります。
 
長期金利上昇に直接影響する変数が期待インフレ率です。長期金利は「実質長期金利」と「期待インフレ率」の足し算の結果です。
 
米国では物価が5%以上伸びていますが、期待インフレ率は2%台に過ぎません。
 
これから感謝祭・クリスマス商戦を向かえるにあたり、消費者向け商品の需給逼迫はますます深刻になり得ます。
 
米国を皮切りに世界は「大退職時代」を迎えており、低賃金業種は今後何年も賃上げしないと従業員をつなぎとめることが出来なくなりそうです。低賃金業種の賃上げはコアインフレ率の上昇に直結します。
 
市場がインフレの現実に気づけば、期待インフレ率は実際のインフレ率にもっと近づいて然るべきです。
 

 
 
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株式投資を行うほどの資金を持っていない少年が投資の話をするくらい、素人投資家が市場に殺到しており、市場の天井が近いと察知したのです。
 
現在、所得の少ない若いウーバーの配達員が仕事中にスマホで暗号通貨の取引を行い、頻繁に値動きやポートフォリオをチェックしているそうです。