植田日銀のYCC政策修正は昨年度の日本国債大量売却の再来を防ぐため?

先週金曜日の金融政策決定会合において、日銀はイールドカーブコントロール(YCC)政策を修正しました。

長期金利(10年物日本国債利回り)の上限を事実上1.0%まで容認することになります。

植田総裁は今回の決定を、将来の物価上昇リスクに対する予防的措置だと話しています。

でも政策金利はマイナス0.1%のまま据え置きです。他国の中央銀行が物価上昇対策のために政策金利を積極的に引き上げてきたこととは対照的です。

植田総裁の発言だけではYCC政策を修正した意図は良くわかりません。

そこで背景に何があるのかちょっと考えてみました。・・・あっ、そういうこと?

今回の政策決定内容は、昨年から今年初めにかけてのある出来事が関係しているのではないでしょうか。

昨年、世界的な物価上昇を受けて欧米の中央銀行が利上げを進める中、市場では日銀も政策修正に踏み切るとの思惑から国債売りが加速しました。

当時の黒田総裁は昨年12月に慌てて、許容する長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げましたが、投機的な国債売りは止まらず、日銀は連日巨額の指値オペ実施を余儀なくされました。

結果、昨年度の日銀の国債買い入れ額は135兆9890億円と過去最高を記録しました。

日銀は過度な国債買い入れが通貨インフレを招き得ることを認識していないはずがありません。想定外の国債買い入れが必要になり、日銀幹部たちは肝を冷やしたことでしょう。

この出来事は、急激な日本国債売りに日銀がすぐさま抵抗し、海外投資家と日銀の争いに発展してしまったことが原因です。

ある程度の日本国債売りを許容すれば、日銀が国債買い入れに動く前に、市場の自己調整機能が働いて日本の銀行・生保などが利回りの高くなった日本国債を買ってくれるかもしれません。

植田総裁はこうして日本国債市場が安定化することを期待しているのかもしれません。

安定化してもらわないと、もし日本国債の大量売却が再び起こるようなら、「通貨インフレ」「財政破綻」といった恐怖の文言が金融・財政当局者の眼前に現れてしまい兼ねませんから。

とはいえこの対応は、YCCの形骸化につながるのではないか、植田総裁がタカ派に転じるのではないかとの疑念を市場関係者に与えました。

これまで日銀は、YCC政策は実質金利の低下を通じて緩和効果を強めると説明してきたためです。

植田総裁は今後、市場とのコミュニケーションを円滑に行い、こうした疑念を払拭していくことが求められます。

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