世界は「大退職時代」に突入!人手不足と労働争議が常態化するだろう

[アボマガお試し版 No.186]インフレを甘く見すぎているのでは?の記事(一部)です。2021/10/25に配信したものです。
 
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現在はサプライチェーンのボトルネックや原材料価格の高騰の陰に隠れがちですが、今後労働市場の逼迫が深刻なインフレをもたらす可能性があります。
 
今年に入り米国では平均賃金が加速度的に伸びており、特にレジャー・ホスピタリティと輸送・倉庫セクターという、比較的低賃金の業種で大きな伸びを見せてきました。
 

 
賃金上昇は人手不足によるものです。
 
米国ではパンデミック直後に人手不足で求人件数がパンデミック前を遥かに上回る規模にまで急騰しましたが、雇用は伸び悩み結局パンデミック前の水準に戻ることはありませんでした。
 

 
実は今年4月から、「グレート・レジグネーション(大退職時代)」が始まったと言われています。
 
下図は米国の退職率と退職者数の推移です。退職率とは、その月の総雇用者数に対する退職者数の割合のことです。
 
8月に退職率は2.9%に達し、427万人が退職した計算になります。いずれも記録を取り始めてから最高です。
 
4月から8月までの退職者数はのべ2000万人に達しました。たった5ヶ月の間に、米国の生産年齢人口およそ2億人のうち1割が退職したのです!
 

 
こうした退職のうねりは、米国のみならず、ドイツや英国などの欧州各国にも広がっており、以下の説明から想像されるように、今後世界的に歴史的トレンドとして発展していくとみられます。
 
米国を中心に退職者が激増し出した最大の理由は、COVID-19のパンデミックで各個人が自身のキャリアや仕事環境、さらには人生そのものについて真剣に考え始めたためです。
 
1980年代以降、大半の労働者は自由や家族との時間を犠牲にしても、仕事に不満があっても、おとなしく企業に勤め、粛々と仕事をこなし、賃金を受け取る生活を送ることを選択してきました。労働争議は減少の一途をたどってきました。
 
しかしパンデミックでリモートワークになったり仕事を一時的にでも失い、企業や上司に縛られない自由な生活、自由な時間を得たことで、企業の言いなりになって送る人生に嫌気がさしたり、本当にやりたかったことをしたい、もっと趣味や家族との時間を大切にしたいと考える人々が急速に増えたのです。
 
これに人手不足で労働市場が売り手市場となることが加わったことで、より良い労働条件での雇用を望む人々が増え始め、大量の退職が起き始めているのです。
 
退職は小売とホスピタリティセクターが中心です。労働は大変ながらも低賃金であり、人との接触機会が多く感染リスクが高く、雇用形態が不安定なためです。ワクチン強制への反発もあるかもしれません。
 
また高度な技術を持つ労働者が自分のキャリアや生活の選択肢を再検討しており、数十年に1回の大規模な人材移動が起きています。
 
十分な賃金を得られ、リモートワーク環境に優れコロナ感染リスクの低い職場に人気が集中しているようです。これら条件を1つでも満たさない企業は選ばれにくいようです。
 
この現状から予想されるのは、小売やホスピタリティなどの低賃金の業種で大きな賃上げが必要になる未来です。
 
商品価格や輸送運賃と異なり、一般に賃金は下がることなく上がり続けるものです。そのため労働者の需給逼迫による賃上げは「インフレは一時的」との見方を払拭する大きな力があります。
 
1970年代のスタグフレーション時代も賃上げが大きなインフレ圧力になりました。2020年代もそうなる可能性があります。
 
また最近、ストライキが再び活発になってきました。労働者を満足させる上昇率での賃上げをしないと、ストライキが世界的に常態化し、生産や輸送が止まり、世界のモノ不足が深刻化していきます。