官製賃上げの帰結は大量失業・大格差社会

[2024/07/08 日本経済新聞]5月 基本給など高い伸びも 実質賃金は26か月連続マイナス

ことし5月の働く人の基本給などにあたる所定内給与は、前年と比べて2.5%増加し、およそ31年ぶりの高い伸び率となりました。一方で、物価を反映した実質賃金は26か月連続のマイナスとなり、依然として物価の上昇に賃金の伸びが追いついていない状態が続いています。

先月に4月の毎月勤労統計が出た時、企業が政府の要請に応じて賃上げしているのに実質賃金が25ヵ月連続でマイナスとなった理由を述べました。

そのうちの一つは残業時間が減り労働時間が短くなっていることでした(もう一つは非正規労働者はほとんど賃上げの恩恵を受けていないこと)。
https://www.avocado-fes-thought.com/blog/20240606-japan-wage-inflation/

現在の日本の労働市場は、世界大恐慌最中の米国と似ているところがあります。

当時フーバー大統領は、賃下げは労働者の購買力を損なわせる可能性があるとして、企業に名目賃金水準を極力維持することを呼びかけ、そうした提唱が1~2年程度の間、大企業の間で遵守されました。

大恐慌時はデフレだったため、名目賃金維持とは実質賃金の引上げを意味します。フーバー大統領は現在の岸田首相と同じく官製賃上げを目論んだのです。

これにより何が起きたでしょうか。

企業は大不況下での収益落ち込みに加え、賃金負担の増加でますます苦境に陥りました。

製造業は少しでも賃金支払いを減らすため、工場稼働日数を週3~4日に短縮させざるを得なくなりました。

当時もいまと同じく、官製賃上げが労働時間の短縮につながったのです。そして1933年にかけて米国製造業の実質賃金は低下しました。

当時の話にはまだ続きがあります。工場稼働日数を減らしても財務は厳しいままで、企業は出来るだけ多数の従業員をパートタイムで雇用したり、多くの従業員を解雇させました。

その結果、1929年に3.2%だった失業率は急上昇し、1933年に24.9%という未曽有の水準に達してしまいました。

大恐慌のあいだに全米でおよそ30万の企業が倒産したと言われており、失業者が新たな職を見つけるのは困難でした。

1933年にルーズベルト大統領が就任した後も、基本的にフーバー政権の政策を引き継ぎ、全国産業復興法やワグナー法を制定し、賃上げを奨励し、労働組合の権利を拡大しました。

これにより労組加入従業員が高賃取りとなり、企業の採用意欲が減っただけでなく、労組は失業者を組合から排除し、失業者が職を見つけるのがますます困難になりました。「勝ち組」と「負け組」の格差は広がるばかりでした。

こうして米国が太平洋戦争に参戦する1941年まで、米国の失業率は常時10%超えでした。

官製賃上げの先には、大量失業・大格差社会が待っているのです。

→[参考]世界大恐慌前後の実質収入(製造業)、失業率の推移
→[参考]世界大恐慌前後の製造業の労働時間、実質賃金の推移

★現在は当時と違ってインフレですので、賃上げの恩恵を受ける「勝ち組」と失業した「負け組」の経済格差は絶望的に拡がるかもしれません。

「負け組」には残酷な未来が待っています。働き口を見つけられず、収入がないなか、サラリーマン時代に貯めた貯蓄はインフレで年々紙くずとなっていきます。

いつ首を切られ、生活保護世帯やホームレスに転落したり経済的徴兵制のターゲットとなることへの心配を少しでも減らしたいならば、いまから海外資産を運用し超円安インフレに負けない不労所得を形成する努力をしていくしかありません。

ただしいまの米国株式市場は株価が89%暴落した世界大恐慌前のバブルを上回るほど、一部の限られた銘柄に買いが集中しています。

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