12月9日、中国恒大集団が一部ドル建て社債の利払いを猶予期間を過ぎても行えず、ようやく一部債務不履行に陥りました。
同じく中国の不動産開発会社である佳兆業集団も、同日に一部債務不履行となりました。
この報道に市場は反応なしでした。債務不履行のリスクは市場で広く認識されており、単に個別企業の債務不履行に過ぎないと考えられているためです。中国の銀行が多額の貸倒引当金を計上していることが安心材料となっています。
問題は恒大をはじめとした不動産開発会社が今後連鎖的に倒産し、銀行システムや市場にまで影響が波及し、中国・世界の金融や市場を脅かすかどうかです。
中国の中央銀行である中国人民銀行の最近の動きが気になります。
恒大が一部債務不履行になる前日、金融機関の預金準備率の0.5ポイント引き下げを発表しました。恒大が一部債務不履行になった同じ日、銀行の外貨準備率の200ベーシスポイント引き上げを発表しました。
人民元の供給量を増やし、米ドル等の外貨の供給量を減らすため、露骨な人民元安ドル高誘導策です。いずれも12月15日から導入されます。
この日はFOMCの2日目であり、米国政府が債務不履行を防ぐための債務上限引き上げの猶予期限であり、金融・市場にとって重要な日です。
市場は中国の緩和策を好感しているようですが、恒大の崩壊の引き金を引いた、不動産セクターへの総量規制である「三条紅線」は依然として継続中です。
またリーマンショック以降、対ドル人民元は米国の中央銀行の金融政策に応じて動いてきました。米国が金融緩和中のときは人民元高が進み、金融引き締めの最中には人民元安が進んできました。
米国は金融引き締めへと舵を切っていくことはほぼ確実であり、この流れで行けば今後人民元安ドル高が急速に進んでいくかもしれません。
人民元安ドル高が進めば、ドル建て社債に頼ってきた不動産関連会社やLGFVの元利負担はますます重くなります。満期を迎えるドル建て社債の額は2022年にピークを迎えます。
米国では超党派で反中姿勢で一致しており、安全保障などを理由に米国から中国への投資をもっと厳しく制限するべきとの声が強まっています。
米国は中国の株式・社債に1.2兆ドルを投資しており、不動産セクターが席巻する中国のドル建て社債市場規模は6000億ドルあります。
中国の不動産バブル崩壊の過程でドル建て社債市場が吹き飛べば、米国政府は中国から投資家を守るという名目で中国への投資規制を強める口実になります。
中国にとっても、ドル建て社債市場が吹き飛べば、そしてその流れで中国企業の米国での上場廃止が進んでいけば、人民元建て金融市場のプレゼンスが増し、人民元の国際化・中国の覇権強化に役立つでしょう。
また中国は国有企業だけでなく、ICT企業をはじめとした民間企業の共産党支配を強めています。不動産分野で財を成した「危険人物」の粛清に不動産バブル崩壊はもってこいです。
中国不動産バブルの崩壊は、米中双方にとって、意外に政治的なメリットがあるのかもしれません。