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感染拡大防止策の成功は経済成長の必須条件ではない?
まずは昨年の世界経済成長率をみてみましょう。
下図は一部の国・地域の20年の実質経済成長率を並べたものです。
世界全体では3.2%縮小し、米国、日本、欧州は世界平均を下回る成長率でした。地域的には中南米と欧州先進国が特に悪い成長率でした。
成長率がプラスだったのは、台湾、ベトナム、アイルランド、中国、トルコの5カ国・地域のみでした。
下図は成長率がプラスだった5カ国・地域の、人口100万人あたりの新規感染者数の推移です。
これら5カ国・地域のうち、中国、台湾、ベトナムの3カ国・地域は、新型コロナウイルスの感染防止対策の取り組みが早期に功を奏し、現在まで感染の抑え込みに成功してきました。
その中で、早期に経済活動が回復していきました。台湾が最も経済成長率が大きかったのは、パンデミックで半導体等のICT製品の需要が激増したためと思われます。
中国は元々製造業やインフラ投資、ICT産業が強いですし、ベトナムは中国に替わるグローバル企業にとっての新たな製造業の生産拠点として成長中です。これら産業はいずれも比較的COVID-19からの影響を受けにくいものです。
他方、アイルランドとトルコは4月と秋・冬に感染の波が発生し、感染拡大防止が成功した国とは決して言えない国々です。
今年に入っても再び感染の波が生じており、トルコは現在1日あたり6万人超が新規感染しており、感染拡大中です。
画像ソース: Our World in Data
アイルランドの経済成長率がプラスだったのは、純輸出が前年比22%と激増したためです。
アイルランドは法人税率が12.5%と諸外国で最低であり、無形資産が中心のテクノロジーやヘルスケアセクターの多国籍企業が多く進出しています。
COVID-19の拡大で、医薬品やコンピュータサービス等の輸出が大きく伸び、アイルランド経済を牽引したのです。他方、内需は極めて弱く、消費や民間投資は大きく減少しました。
なお、米国主導で世界の法人税に共通の最低税率を設ける動きが出ており、将来的にアイルランド経済の基盤が崩れる可能性があることは覚えておく必要があります。
画像ソース: ING
トルコは個人消費、民間・政府投資の成長が経済拡大につながりました。アイルランドとは異なり内需拡大が成長を牽引しました。
トルコは昨春の感染拡大時に、早期に低金利で政府保証付きのリラ建て融資を促進する政策を導入したことで、鉱工業生産が急回復しました。
融資の促進や海外からの資金流出、観光収入の激減でリラ安が進みましたが、これは今後貿易に有利に働くことになります。
トルコは累積感染者数が世界で7番目に多く、12月の感染拡大時に行動制限を強化し、年末年始には5日間の都市閉鎖を実施しましたが、強い内需経済で強行突破できた稀有な国となりました。
画像ソース: 中東協力センター
「早期のパンデミック抑制に成功」「製造業を中心とした経済の強さ」「ICT・ヘルスケア業界に強みを持つ経済構造」が、昨年経済成長を果たすためのキーポイントだったようです。
アイルランド、トルコという、感染拡大防止に成功しなくてもプラス成長を達した国が存在することは、興味深い事実です。
新規感染者数よりも経済成長に影響する、コロナ関連要因とは
昨年、世界経済は4-6月期に世界恐慌並みに景気が悪化したものの、7月以降、回復していきました。
感染リスクが小さい製造業が景気回復を牽引し、現在、世界の鉱工業生産、貿易量、製造業PMIはパンデミック前の水準を上回っています。
画像ソース: ING
昨年の秋~冬は、昨春を遥かに上回る大きさの感染の波が生じましたが、景気は上向いていきました。
昨春は世界各国で全土の都市封鎖など、厳格な移動制限が課されましたが、昨年の秋~冬は都市封鎖の規模が感染拡大が厳しい地域に限定されるなど、各国の移動制限は国全体として緩和されました。
秋~冬にも厳しい都市封鎖措置を講じた欧州先進国の昨年の経済成長率は世界最悪レベルでしたが、そうでない米国や日本の成長率は欧州先進国に比べればマシでした。
また昨年秋~冬はリモートワークやワクチン開発、企業や病院等でパンデミック対策などが進展したこともあり、統計的にみて、移動制限は企業活動にほとんど影響を与えなくなりました。
画像ソース: IMF
「移動制限措置の厳しさ」と「パンデミックに対する企業や人々のマインド」の2つは、昨年の各国の経済成長率に大きく影響した、COVID-19関連要因として重要だと考えられます。
これら2つの要因と比べると、例えば「新規感染者数やその伸びの大きさ」は経済成長率との関連がそこまで大きくない指標だと思われます。昨年のトルコ、現在の米国が好例です。
新興国・途上国に待ち受ける厳しい未来
今年以降の世界各国の経済成長は、これまでのパンデミックで生じた経済の構造変化に大きく左右されていくと考えています。
特に大きな構造変化が生じているのは、労働市場(特に新興国・途上国)です。
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バイデン政権は米国経済を弱体化させるだろう
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市場が過小評価しているリスクこそ、最も注意すべきリスク
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