パウエルFed議長は「東京五輪発、世界中再ロックダウン」を望んでいる?

6月、インフレ指標に応じて利上げやテーパリングの議論を早める可能性に言及してきたFed。
 
Fedはインフレの過熱に注目しているとのシグナルを市場に送ったわけですが、その後の展開を見ると、市場が考えるよりもずっとずっと、Fedは利上げやテーパリングに消極的なようです。
 

[2021/07/14 ブルームバーグ]FRB議長、テーパリングに「程遠い」-インフレで議員の質問相次ぐ
 
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は14日、下院金融委員会の公聴会で金融政策に関する半期に一度の証言を行い、インフレ率が予想より速いペースで上昇していることを認める一方で、米経済への積極的な支援策を縮小するのは時期尚早と述べた。
 
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インフレについて議長は、「生産のボトルネックなど供給面の制約で生産が限定されている業種で強い需要が見られ、それが一部の財とサービスに特に急速な物価上昇をもたらしている。だがそうした物価上昇は、ボトルネックの影響が解消されるのに伴い一部反転するだろう」と指摘。「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で大きな打撃を受けたサービス分野の価格もここ数カ月に上昇している。経済活動の再開とともにそうしたサービスへの需要が急増しているためだ」とした。
 
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インフレ期待に関しては、「中長期のインフレ期待に関する指標はパンデミックの間に記録した低水準から上昇しており、FOMCが掲げる中長期のインフレ目標とおおむね整合するレンジにある」と説明した。
 
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議長は「労働市場の状況は改善が続いているが、まだ長い道のりが残っている」とし、回復完了にはまだ程遠いとの認識をあらためて示した。

 
利上げやテーパリングに消極的なFedの姿勢が変わっていないことを、一部市場関係者は見抜いています。
 

[2021/07/16 ブルームバーグ]米金融当局は「一時的インフレ」の定義を変えた-ガンドラック氏
 
ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高経営責任者(CEO)は15日、米金融当局は「一時的インフレ」の定義を変えたと述べた。
 
CNBCでガンドラック氏は、一時的というのは元々は2-3カ月だったが、今では6-9カ月になっており、一段の引き延ばしが余儀なくされるかもしれないと指摘。パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長はインフレが収まるのを「願い、望み、祈っている」と述べた。

 
パウエル議長がインフレが収まるのを「願い、望み、祈っている」と考えているのであれば、ガンドラック氏は暗に次のことを言っていることになります。
 
「もうすでにFedはインフレをコントロールする機能を喪失している」と。
 
 
パウエル議長にとって最も都合の良いシナリオとは何でしょうか?
 
それは「再度米国(だけでなく世界中)で新型コロナウイルスが蔓延し、全土で都市閉鎖が再開される」ことです。
 
再び経済が大恐慌レベルに失墜することで、商品価格や最近のインフレを牽引している中古車価格は急落・暴落することになり、インフレ期待も大きく後退します。
 
Fedは景気の急速な減速に対応するためと称して、インフレを気にすることなく、大規模緩和策を続けられるようになります。
 
昨年のコロナ経済危機において、経済は一時的に大恐慌レベルになりましたが、その後市場の予想の斜め上を行くV字回復を果たしました。
 
コロナパンデミックは世界大恐慌やリーマンショックの頃のように、経済を長期低迷させませんでした。
 
失業率は一時15%程度にまで達し、現在もパンデミック前の水準に戻っていませんが、どこの企業も人手不足に悩まされており、求人数は記録的水準にあります。
 
Fedは大規模緩和があったからこそ、大恐慌レベルの経済をV字回復に導いたと主張することが出来ます。再度都市閉鎖が起こったとき、大規模緩和継続を正当化できます。
 

 
大規模緩和は市場バブルをさらに推し進め、1%の富裕層と99%の残りの人々の経済格差を急速に拡大したとの批判があります。
 
他方、昨年3月に成立した総額2兆2000億ドルの新型コロナウイルス支援策(CARES法)により、最も恩恵を受けたのは低所得層でした。
 
そのほとんどは失業給付の上乗せ措置によるものです。彼らはレイオフや失業に遭っても、場合によってはこれまでの給与所得以上の失業給付を手にすることができました。
 
低所得層が最も大きな恩恵を受けたのは、彼らは他の所得層に比べ家計支出額が少なく、支出に占める給付額の割合が大きいためです。
 
確かに大規模緩和は格差を大幅に拡大しましたが、その一方で政府の支援策のために発行された膨大な国債を買い支えるという形で、低所得層にも「寄り添いました」。
 

 
さらに都市閉鎖は、中央銀行も関心を強める気候変動問題にとって大きな好影響がありました。
 
世界的な都市閉鎖で自動車や航空機の利用が大幅に減り、工場の生産活動が一時ストップしたことで、昨年の世界の二酸化炭素排出量は前年から6.3%減少しました。これは戦後最大の下落率です。
 
さらに昨年の炭素排出量の減少率が今後30年続けば、パリ協定の目標を達成することが出来るようです。
 
欧米のエリートたちにしてみれば、あと30年間、毎年数か月程度、世界各国が全土の都市閉鎖を実行するのは望ましいことなのです。
 
経済が悪化しても、金融政策と財政出動により、富裕層も低所得層も経済的に喜ばせることができます。
 
際限のない財政ファイナンスを正当化するために、すでにMMT理論という便利なツールが用意されています。
 
 
Fedの大規模緩和は、パンデミックが永続して毎年一定期間ロックダウンが取られることで、インフレを抑制しつつ、雇用拡大を支援し、しかも気候変動対策まで出来てしまうのです。
 
東京五輪開幕まであと一週間です。新規感染者数が本格的な伸びを見せる東京で選手等にデルタ株の感染が広がる姿を、NBCネットワークを介して米国や世界の人々は目の当たりにするかもしれません。
 
東京五輪は世界中の人々に「感動と喜び」ではなく「感染への恐怖」を伝搬し、ワクチン接種が進んだ国々でも新規感染者数が再び急速に伸びる中、再び都市閉鎖の機運が高まるかもしれません。
 
パウエル議長は内心、東京五輪開催をゴリ押そうとするIOCのバッハ会長や菅首相に感謝していることでしょう。