植田日銀総裁は海外投資家を味方につけるために金融緩和を継続するかも?

今回は日銀と日本株に関する話題です。最近、海外投資家の買いが入り日経平均が上昇し3万円台目前になっています。それと同時に円安ドル高が進み1ドル136円ほどになっています。

さて、4月9日に新たな日銀総裁に就任した植田氏にとって、今後の金融政策のかじ取りは極めて困難になると考えていました。

このまま黒田路線を継続して金融緩和政策を続ければ、円キャリートレードが本格化して酷い円安を招くリスクがありました。

他方で金融引き締めに転じれば、金利が上昇して日銀はたちまち債務超過に陥り、日本政府の財政は火の車になり、日本や日本円に対する信頼の失墜につながってもおかしくありません。

金利上昇で投資妙味が高まった日本国債を、日本の生保や銀行が買い支えることで長期金利の上昇が抑えられるというシナリオも考えられます。

しかしこの場合、彼らは保有している欧米の債券を大量に売却し、欧米の金融危機を誘発する危険があります。

実際、日本国債の利回りがヘッジ付き外債利回りを上回ったため、彼らは昨年に2000億ドルほどの外債を売り越しました。

欧米の景気後退、金融不安への懸念が高まる中、金融引き締めに転じれば植田総裁は世界の金融危機をもたらした犯人にされてもおかしくないのです。

植田総裁は就任早々、進んでも地獄、退いても地獄という状況に追い込まれていました。

しかしいま、植田総裁に対する追い風が吹き始めています。

米国を中心に信用収縮や景気後退懸念がくすぶるなか、投資家は米国の株式・債券の下落リスクと円高ドル安リスクを意識しており、円キャリートレードが進んでいません。

むしろ海外投資家は、割安な銘柄の多い日本株に興味を示しているようです。20年以上の金融緩和策のもとで日本企業は内部留保・現預金を貯めこみ続け、ROEの改善を怠り続けてきたため、日本株は世界的に割安で簿価割れの銘柄も珍しくなくなっています。

ウォーレン・バフェット氏が日本の商社5社に投資し、さらなる商社株の買い増しや他の日本株の購入を検討していることが顕著な例です。

バフェット氏の投資から3年足らずで、資源価格の高騰により商社の純利益は4倍以上に増えました。バークシャー・ハサウェイにとって日本は米国に次いで2番目に大きな投資対象国になっています。

海外投資家からすれば、日本企業の業績や収益性が伸び悩んだのは、長年にわたり必要な投資や収益性改善を怠ってきたゴミクズ経営陣たちに問題があると考えていることでしょう。

他方、日本人は真面目で勤勉で教育水準が高く集団行動が得意で技術力に長け、従業員の素質は世界的に優れているというのが海外から見た印象でしょう。

彼らは日本企業の株式を割安で取得して経営への影響力を強め、ゴミクズ経営陣たちを取り替えて、収益性を高めて積極的に株主に報いるような欧米型の経営マインドを注入すれば、日本企業は化けると考えているに違いありません。

よって日銀は金融緩和を継続することで、バフェット氏のように低利の日本円で借りて、それを日本株に投資する海外投資家を呼び込むことができるかもしれないのです。

さらにいまでこそ日本の個人投資家は米国株への投資を増やしていますが、米国の金融市場が混迷を深める中で日本株の上昇を目の当たりにすれば、近視眼的な目線でしかモノを見られない彼らはどうせ日本株に回帰するでしょう。

こうしたシナリオが現実に起これば、近々超円安が起こることを防ぐことができます。

植田総裁にとって幸いなことに、日本のインフレ率は上昇しているものの2%台と、欧米に比べれば小さいので、金融緩和を継続しやすいです。

欧米の景気後退、金融不安が日本にも波及したり、エネルギー・資源価格が下がってくれれば、植田総裁は何も困らずに金融緩和を続けられます。

ただしです。近々の超円安を防げる道筋が見えたとはいえ、円高が進むわけではありません。

貿易赤字と金融緩和が続くことでダラダラと円安が長期で続きやすいことに変わりありません。バフェット氏が購入した商社株は円安とインフレで儲かる会社です。

もう一つ注意があります。こうした海外投資家の投資行動が進んだとしても、いずれ彼らは日本株を売却して資金を欧米に戻していきます。超円安のリスクはなくなったわけでなく、将来に先送りされるだけです。

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