Sunk-Cost Fallacyとは-何故ベテラン選手はひいきされるのか-
人間にはLoss aversion(損失回避)という、絶対に損をしたくないという本能が宿っています。 しかしこうした損をしたくないという気持ちが強くなると、人はときに合理的でない感情的な意思決定をしてしまうものです。
こうした損に対する感情的な意思決定を行う一つの人間心理の欠陥に、Sunk-Cost Fallacyというものがあります。
Sunk-Cost Fallacyとは
Sunk-Cost Fallacyとは、損を出したものや今まで多くのリソースを投入したものに対して何とかしてプラスにしたい、何らかの成果をあげたいという一心で、より多くの期待を込めたり、より多くのリソースを投入する人間心理の罠を指します。
ここでSunk Costとは経済用語で"埋没費用"と呼ばれるものです。 Sunk Costとは事業の撤退などによって無駄になってしまった、これまで投資してきた金額のことを指します。
例えば投資を行うときに、多くのトレーダーは株価が上がってこれからも上がる可能性の高い企業の株を売りやすい一方で、株価が下がり損をしている株を売らずにずっと持っている傾向にあります。
買値より価格が下がっている株を売ってしまうことは、損を確定させて無駄なものに投資をしたことを自ら認めてしまうことになります。 しかしSunk-Cost Fallacyによって無駄を認めるのは嫌なので、何とか価格が戻るまで持ち続けてしまうのです。
ベテラン選手のひいきとSunk-Cost Fallacy
何もSunk-Cost Fallacyは経営や投資といったお金のイメージが強い分野にだけ起こるわけではありません。 周りを見渡すと、意外と身近なところにもSunk-Cost Fallacyが働いていることがわかります。
Sunk-Cost Fallacyが働く意外な分野はスポーツの分野。 どんなに若いときに大活躍して巨額の年俸を受け取っていた野球選手でも、年齢を重ねていくうちにどうしてもパフォーマンスは下がっていき、巨額の年俸に見合った活躍はできなくなります。
しかしこうしたベテランの野球選手の年俸は、パフォーマンスの減少に見合って落ちないものです。 打率.250、守備ボロボロという(成績だけ見て)三流選手に成り下がろうが、ケガによってほとんど試合に出場できないお荷物になろうが、それでも年俸が1億、2億の選手なんてザラにいます。
しかもこうした使い物にならないベテランは、何故か試合でひいき気味に使われる傾向にあります。 野球ファンの方々ならこうしたいろんな選手をすぐに思い浮かべることができるでしょう(特にいくつかの"金満球団"と揶揄される特定の球団に属している/いた選手)。
ここにもSunk-Cost Fallacyが潜んでいることをうかがわせます。 長年巨額の年俸を払ってきたのだから、ここ数年の損を振り払うかのようにもう一度大きな花を咲かせてほしい、そのように球団関係者は考えているのです。
さらに大きな花を咲かせるためには、当然そのベテラン選手にたくさん試合に出てもらわないといけません。 置物のベテランがひいき気味に使われるのは、Sunk-Costをどうにかして埋め合わせたいために、球団関係者が監督にベテラン選手を試合に出場させるよう働きかけていることが容易に想像できます。
もちろんお金ではなく、長年大活躍をしてきたベテランへの功績を称えているという見方も出来るかもしれません。 しかし例えばある論文※で、NBA(アメリカのプロバスケットボール)のコーチは能力の高い新人選手よりも、多くの金額を払って獲得した新人選手をよりひいきして試合に出場させやすいという統計データを報告しています。
※Staw, B. M., & Hoang, H. (1995). Sunk costs in the NBA: Why draft order affects playing time and survival in professional basketball.
こうしたデータも考慮すると、ベテランが年俸でも試合でもひいきされやすいのは、決してベテランの今までの功績を称えているだけではないでしょう。 「大金を出してやってるんだから、今までの損を取り返す活躍をしてもらわないと困る」というSunk-Cost Fallacyの影響も見逃せません。
このようにSunk-Cost Fallacyはいろんな場所で起こり得るのです。
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