Diminishing Sensitivity-損得感情は緩やかになっていく-
プロスペクト理論の3つの要旨の二つ目は参照点から離れるに連れて感情の変化は緩やかになっていくことです。 これは感応度逓減性(Diminishing Sensitivity)と呼ばれています。 (逓減:「ていげん」と読みます)
Diminishing→減少していく、Sensitivity→感応度です。 日本語で覚えるよりも英語の方が簡単なので、英語で覚えることをおすすめします。
プロスペクト理論のエッセンスが詰まったグラフを再び見てみましょう。 グラフを見るとS字のカーブを描いていることが一目でわかります。 このS字カーブこそがDiminishing Sensitivityを表しているのです。
S字であるがために、+方向に行くに連れて(得であればあるほど)カーブが緩やかになっています。 これは参照点から離れれば離れるほど、ちょっとの得の変化では喜びの変化も少なくなることを意味しています。
損の側でも同様です。 -方向に行くに連れてカーブがやはり緩やかになっていますが、これも損が大きくなるとちょっとの損の変化ではあまり感情が変化しないことを意味します。
例
プロスペクト理論は私たち人間の感情を映し出す理論ですから、当然Diminishing Sensitivityも私たちの心理的性質を反映しています。 例を見てみましょう。
あなたの現在300万円を貯金しています。 あなたは年に一回、一種の習慣として宝くじを10くじずつ買っているのですが、なんと幸運なことに1000万円が当たりました!おめでとう!
このときあなたの感情はどうですか? もちろんめちゃくちゃうれしいですよね。 貯金300万円の3倍以上ですから喜びもひとしおでしょう。
その後あなたは仕事にも精一杯取り組み、順調に出世していきました。 お金を稼いでも必要以上にお金を使わない倹約化のあなたは、出世によって増えた給料を大切に貯金し続けました。 その結果、あなたの貯金は6000万円にまで貯まりました。
あなたは一度宝くじに当たってからも、年一回のお祭りごととして宝くじをずっと続けてきました。 貯金が6000万円に貯まったいまでもそうです。 するとあなたの仕事に対する誠実さ、お金を大切に扱う清らかな心が運を呼んだのか、またまた1000万円の宝くじが当たりました!アンビリーバボー!
このときのあなたの感情はどうでしょうか? もちろん嬉しいことには変わりないでしょう。 タダで1000万円を受け取ることができるのですから。
しかし初めて1000万円が当たったときに比べれば、もう少し喜びは抑え目で現実を冷静に受け止めていることでしょう。 何故ならあなたはもう既に6000万円の貯金があるからです。 もはや1000万円という金額はあなたの現預金の1/6です。 初めて1000万円当たった時は当時の貯金の3倍以上でしたから、それに比べれば今回はスケールが1/18以下になっていることになります。
引き算ではなくて割り算
私たちは引き算(1300万円 - 300万円)ではなく、割り算(1300万円 / 300万円)によって損得感情を得ます。 割り算によって、スケールの大きさによって変化を受け止めることがプロスペクト理論のグラフをS字カーブにしているのです。 もしも損得感情が引き算によって引き起こされるのであれば、プロスペクト理論のグラフはS字ではなく直線になっているはずです。
スケールの大きさによって損得感情が変化することがグラフをS字型にしており、このS字型というのがDiminishing Sensitivityを表しているのです。
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