質素でいることが最強の生き方-Lossを減らして安全域を広げる-
前回の記事で、質素に暮らし幸せの参照点を低く設定することで、ちょっとしたことでも喜びを感じられるようになると話しました。
今回は質素に暮らし幸せに参照点を低くすることと、Loss aversionの関係を見ていきたいと思います。
質素に暮らすことでLossによるダメージを減らせる
質素に暮らして幸せの参照点を低く設定することの強さには、Lossによるダメージを大きく減らすことができる面もあります。 何故かと言うと、質素に暮らして参照点を低く設定すると損となる事柄がぐっと減るからです。
もしもラグジュアリーに暮らしている人で普段からタクシーで移動をしていたら、もう移動を普通の電車に戻ることは難しいですよね。 毎日の通勤でタクシーを使っている銀行員が、貯蓄を増やすために通勤を電車に変えようとしても中々切り替えられないはずです。
駅まで歩かないといけないわ、めちゃくちゃ混雑しているぎゅうぎゅう詰めの電車内で圧迫されて汚い空気を吸いながら、立ちっぱなしで移動しないといけないわ、駅からまた会社まで歩かないといけないわ... タクシーから電車に切り替えることによって生まれるマイナス点はLoss aversionによってかなりセンシティブに感じてしまい兼ねません。
しかし普段から質素に電車による移動をしていたらどうでしょうか。 もうこれ以上失うものはないですよね。
だって、電車による移動というのは交通手段の中で一番庶民的でお金が掛からないからです。 これ以上減らそうにも減らす余地がほとんどありません。
自転車、徒歩という手段もありますが、自転車は駐輪にお金が掛かったりします。 徒歩だと確かにお金は掛かりませんが、さすがに移動範囲に限度というものがあります。
同じように毎日1500円するパスタとかステーキとか、あとたまに寿司とか、そういうおいしいものばかりを食べて味覚に対する参照点を高く設定してしまうと、節約のためにカップラーメンを食べようと思ってもなかなか食べることができません。 しかし普段からご飯とみそ汁とか、カップラーメンとかお金の掛からない食事を中心にしていれば、それ以上食事の質を落とすのって中々ないですよね。
質素に暮らして参照点を低く設定することで、それだけ損をする事柄、オプションが減っていくのです。 逆に普段からリッチに、ラグジュアリーに暮らして参照点を高く設定すると、それだけ参照点よりも質、レベルの低いものが増していきます。 それだけマイナスのオプションが増えてしまうので、Lossによる悲しみを受けやすくなってしまうのです。
損を受けやすくなるだけではありません。 ずっと5000円する食事を毎晩毎晩食べていたときに、突然夕食を150円のカップラーメンに変えてしまったら相当な落差があります。 つまり損をしてしまうオプションを増やすだけでなく、損による一回のダメージが大きいオプションも生まれてしまうのです。 つまりマイナスにスケールが働くオプションも増えていってしまうのです。
安全域を広げる
株を始めるときに必ず耳にするのが「安く買って高く売れ」という言葉です。 これはまさにいま私が話した、質素に暮らすことで参照点を低く設定することに通じています。
ある石油会社の株を買おうとしたときに、最近5年間の株価の値動きが最低300円、最高1000円だったとします。
もしもこの株を900円で買ってしまったらどうでしょう。 最高の1000円にまで増えれば確かに儲かりますが、もしも300円にまで下がってしまったら購入価格の1/3にまで減ってしまって大きな損をしてしまいます。
それに損をする範囲が900円以下と、直近5年間の株価の範囲の多くを網羅してしまっています。 これでは参照点が高く設定されてしまって、損による影響を受けやすくなってしまいます。
一方この石油会社の株を400円で買えたらどうでしょう。 株価が100円上がって500円になったとしても、1.25倍に増えるのです。 同じ100円の上昇でも、900円から1000円の上昇では1.11倍にしかならないです。 購入価格を安くして参照点を低く設定することで、同じ変動でも大きなリターンを得ることにつながります。
しかも400円で購入していれば、損によるダメージを減らすことにつながります。 もし300円にまで下がってしまっても、0.75倍になっただけなのでまだ耐えられる損になっています。
このように株を安く買うことで参照点を低く抑えれば、ちょっとの価格上昇で大きなリターンが生まれるようになりますし、また損のリスクも減らすことができます。
賢明なる投資家であるベンジャミン・グレアムの言葉を借りれば「安全域」を広げることなのです。(※これは安全域の表面上の説明です。真の安全域の意味はもっと深いので、興味のある方は調べて見て下さい。)
質素に暮らすことは幸福感に対する安全域を増やすことなのです。 そうしてLossによる悲しみリスクを極力減らして、ちょっと嬉しいことが起こっても幸せを感じられるようになるのです。
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