米国は最低でも11%程度への利上げが必要だ

原油価格は一年前の水準に低迷し、天然ガス価格はピークから75%ほど暴落し、2021年3月頃の水準にまで落ち込んだ。

これから春を迎え暖房需要が減少していくなか、エネルギー価格が大きく落ち込みインフレは落ち着いていく。そう市場は高をくくっていた。

しかし今年に入り、米国経済はますます絶好調となり、インフレが再び強まりつつある。

米雇用者数、予想大きく上回る51.7万人増-失業率53年ぶり低水準
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-02-03/RPIAY3DWLU6801

米小売売上高、1月はほぼ2年ぶりの大幅増-全分野で堅調な消費
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-02-15/RQ4IY2DWRGG001?srnd=cojp-v2

米PCE価格指数、予想上回る伸び-利上げ継続への圧力増す
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-02-24/RQL6X3T1UM0W01

PCE価格指数は昨年8月以来、5ヵ月ぶりに前年比上昇となった。
https://cms.zerohedge.com/s3/files/inline-images/image%20-%202023-02-24T055832.848.png?itok=xCrPi08a

限られた労働力の確保を巡る競争は激しくなっており、それが賃金上昇圧力として続いている。賃金上昇と過剰貯蓄が消費を下支えする構図となっている。これに家賃や宿泊費の値上がりが加わり、米国の高インフレを定着させている。

労働力不足や賃金・家賃の上昇は、商品価格とは異なり構造的な問題だ。人手が足りない状況が今後も続くと信じられ、賃金や家賃の上昇が何年も続けば、それは当たり前のものとして社会に定着し、高インフレは止まらなくなる。

※人手が足りない状況が今後も続くと「信じられ」という表現を使うのは、人々が着目する雇用に関するデータは労働市場逼迫が過大評価されている疑惑があるため。このことは「今日のつぶやき~9言目~」に書いた。

経済に構造的に組み込まれた高インフレを退治するには、中央銀行が金融引き締めを長年続けるしかない。

そのため、最近のインフレ熱の再度の高まりがあるなか、さらなる利上げが必要との声が強まっている。Fedは6.5%にまで政策金利を引き上げるべきとの声も出ている。

最高6.5%への米利上げ必要、学会・金融界エコノミストが論文で指摘
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-02-24/RQLBU4T0AFB501?srnd=cojp-v2

・・・ちょっと待ぅてほしい。

6.5%への利上げでインフレを鎮圧できると本気で思っているのか?

歴史を振り返ろう。何故Fedは1965年から1980年まで、15年間も高インフレを退治できなかったのか。

それは景気後退に陥りインフレ率が下がり始めたときに、景気回復のためにすぐに利下げを開始し、政策金利をインフレ率以下にまで(つまり実質金利がマイナスになるまで)下げてしまったからだ。

それも一回ではない。1970年と1974年の2回にわたり行われた。

インフレが落ち着いたと思って急速に利下げした結果、そのおよそ3年後に再びインフレが過熱し、前回よりも酷い高インフレを生んでしまったのだ。

何故ポール・ボルカーがインフレ退治に成功したのか。

「政策金利を20%に上げたから」というのは間違いではないが、それだけで理解は不十分だ。

ボルカー氏が政策金利を20%にまで引き上げたのは1981年である。実は1980年にインフレ率は14%台のピークをつけており、この頃にインフレ率は10%台にまで低下していた。

インフレ低下中にも関わらず20%に引き上げたことで、政策金利は一時インフレ率を9%以上上回った(実質金利が9%以上になった)。

その後インフレ率が低下していく中で利下げしていったが、1987年8月に後任のアラン・グリーンスパン氏に議長職を継承する数ヶ月前まで、およそ6年間にわたって政策金利がインフレ率を4%以上上回るよう常に保ってきた。

ボルカー氏がインフレ退治に成功したのは、政策金利がインフレ率よりもかなり大きい(つまり実質金利が大きくプラスの)状況を何年も維持したためなのだ。

いまの米国のインフレ率は6.3%ある。よってボルカー氏に倣ってインフレ退治を果たすならば、最低でも政策金利を11%に上げてしばらく維持しなければならないのだ。

現在の政策金利が4.5~4.75%だから、あと6.5%程度引き上げる必要がある。6.5%「への」利上げではなく、6.5%「の」利上げが求められるのだ。

そういえば最近、Fedの利上げ長期化観測の高まりでドル円は136円台に円安ドル高に振れている。仮に米国の政策金利が11%にまで上昇したらどうなるだろうか…