インフレ期待に働きかけて物価安定を図る中銀の前提は破綻している

中央銀行は、インフレを制御し、インフレを安定化させる使命を持っています。

インフレには2種類あります。1つは食料、日用品をはじめ、私たちが実感するモノの値段に基づくインフレ、物価に基づくインフレであり、事実です。

もう1つは期待インフレです。これは主に市場(投資家)が予想する将来のインフレ予測値であり、意見です。

現在、世界の中央銀行の金融政策は、期待インフレを制御することで物価安定を図れるという考えが前提にあります。

特に1990年代以降に先進国の中央銀行がインフレターゲットを導入してから、期待インフレへの働きかけが顕著になりました。

Fedは2012年、日銀は2013年にそれぞれ2%のインフレターゲットを導入しました。

中央銀行が金融政策や会合後の記者会見での発言を通じてインフレ期待を制御し、物価に基づくインフレを安定させるという考えは、ある意味金融市場とその参加者、関係者たちに「魔法をかけて洗脳する」ようなものです。

世界のモノの生産・貿易・流通が滞りなく行われ、多くの人が雇用され、グローバル経済が順調だった頃は、インターネット・SNSを通じたこうした洗脳は簡単でしょう。

でも世界の供給体制に問題が生じてしまえば、話は別です。

中央銀行がいくら魔法を掛けても供給を自由自在にコントロールすることはできませんから。

2020年のパンデミックを契機に、世界のサプライチェーンは大混乱しモノ不足になり、ロックダウンで大量のレイオフが起こり、人手不足も深刻化しました。

パンデミック由来の供給不足は解消しましたが、スエズ運河は中東情勢悪化により欧米船舶の通航が出来なくなり、パナマ運河は降雨不足による水位低下で機能低下しています。

人手不足は米国で慢性化しています。銅などの資源開発は将来の需要に対して不十分ですし、AIチップは深刻な供給不足です。

消費者物価に基づくインフレ率や、食品・エネルギー・住居を除くスーパーコア粘着インフレ率は、2021年以来期待インフレ率を上回り続けてきました。

昨年末にかけてこれらは低下しましたが、今年に入り反発し、再び期待インフレ率との差が開き始めています。

3年近くにわたり実際のインフレ率が期待インフレ率を上回っているのは、データを遡れる2003年以降で初めてです。これは異常事態です。

つまりこういうことです。

いま中央銀行は金融市場とその参加者たちへの洗脳は何とか出来ています。しかし「インフレ期待に働きかけて物価安定を図る」という前提はもはや機能していないのです。

あとはいつ、金融市場が中央銀行の魔法から目を覚ますかどうかだけです。

★金融市場が魔法から目を覚ませば、期待インフレ率に連動して動いてきた原油価格も上がることになります。

日本ではエネルギー輸入額が増えることで、円安がより進みやすくなります。輸入インフレはより深刻になります。

世界の金融市場や石油市場の動向は、我々の生活に直結します。

石油とインフレに関して詳しくは本日配信のアボマガ・エッセンシャルの記事をご覧ください。原油価格上昇によるインフレや円安に強くなる具体的な資産運用先についても触れています。

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