ロシア危機は世界の金融市場へと通じる:LTCM破綻期よりも酷い現状

ロシアのウクライナへの軍事侵攻に収束の兆しが見えないことや、欧米やロシアの経済・金融への制裁、規制導入が相次ぐ中、ルーブル安が急速に進んでいます。
 
現在は1ドル108.5ルーブルであり、侵攻が始まる前からおよそ1/3程度のルーブル安になっています。
 
急激なルーブル安で思い浮かべるのは、1998年のロシア危機と翌年のLTCMの破綻です。
 
LTCMはノーベル経済学賞受賞者2人が設立したファンドで、彼らが開発し数学的証明を与えた金融工学の理論(ブラック・ショールズ方程式)を駆使して、巨大なレバレッジをかけながら、新興国債券やロシア国債などのわずかな金利差から収益を得ていました。
 
しかし1997年のアジア通貨危機で崩れ始め、1998年のロシア政府によるルーブル引き下げ、ロシア短期国債の債務不履行に端を発するロシア危機が致命傷となり巨大な損失を抱え、翌年LTCMは清算しました。
 
LTCMの巨額の損失市場を大きく驚かせ、それまでの株高・ドル高の流れが一転、株安・ドル安の展開となり、金融危機への不安が高まりました。
 
このとき、当時Fed議長であったグリーンスパン氏は3ヵ月連続で利下げを行い、市場に即座にドル資金が流れるよう緩和策をとったため、市場の動揺は収まりました。
 
 
今回のルーブル安で、14年前のLTCM破綻の二の舞が起こるかどうかはわかりません。
 
しかしルーブル安とロシア中銀の政策金利の20%への引き上げにより、ドル建てロシア証券価格は暴落しました。年金基金など世界中の機関投資家がロシア証券の売却を相次いで決定しています。
 
ロシア政府は一時的に外国人のロシア証券の売却を禁止する措置を講じています。もし措置が緩和されたら再び一斉売りが生じるでしょう。
 
この措置を受ける前に運よくロシア証券を売却できても、欧米がロシアの銀行をSWIFTから排除したことで、外国人投資家はロシア内の資金を欧米に送金することが難しくなりました(暗号通貨を使った送金が一部で横行するかもしれませんが)。
 
日本のGPIF含め世界中の機関投資家がロシア証券に投資していた事実が明らかになっています。LTCMのように巨額のレバレッジをかけてロシア証券投資をしていたヘッジファンドがいても不思議ではありません。
 
彼らは早急の現金確保に迫られてもおかしくありません。ロシア証券の売却は出来ず国際送金は難しいですので、欧米などロシア以外の株式・債券などを売却するしかありません。
 
もしLTCM破綻のような事例が発生しても、14年前とは異なり、現在はインフレが酷い状況ですのでFedは利上げするしかありません(14年前の米国インフレ率は2%を切っていました)。
 
世界の中央銀行のこれまでの大規模緩和策により巨額の資金が世界中の金融市場に流れてきましたが、すでに利上げへの警戒感から米国投資家の証拠金残高の伸び率は急速に低下しています。
 
ブラックスワンにご注意ください。