小麦生産量は増えている。しかし食品価格の値上げはこの先も続く。

今週月曜日の今日のつぶやきにて肥料需給について触れました。その続きではないですが、食料市場について事実から見える今後について考えていこうと思います。

日本では今月、加工食品を中心に5106品目の値上げが実施されました。今後も5月に700品目あまり、6月には2390品目あまりの値上げが決まっているなど、今年度は9000品目の値上げが見込まれています。

値上げの動きが本格化した2021年度と比較すると、1か月あたり平均でおよそ3110円、年間では平均およそ3万7000円の家計負担が増すとの試算があります。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230404a.html

食品価格の相次ぐ値上げのニュースに多くの人がうんざりしているでしょう。早く食品価格の値上げよ落ち着いてくれ、2年前の価格に戻ってくれと誰もが願っているはずです。

でも願望が現実になるなんてそうそうないことです。ましてやいまはパンデミック、戦争、相次ぐ預金流出による銀行破綻など数年前までは考えられなかった出来事が相次いで起こる有事です。

有事のときほど、厳しい現実を直視し、事実に基づいて考え、行動していくことが求められる時代はありません。有事において願望は敵です。戦時中であれば戦争が終わってくれと懇願しているさなかに爆撃に遭ってしまうだけです。

現実を見てみましょう。ウクライナ戦争で農地やトラクター、倉庫などが破壊されたり汚染されたりしたことで、昨年のウクライナの小麦生産量は前年より40%以上減りました。

しかしロシアが豊作でウクライナ産の小麦減産を賄ったことで、2022年度の小麦生産量は7.89億トン程度の見通しで、2021年度の7.79億トンをやや上回る見通しです。減るんじゃないです、増えるんです。
https://www.usda.gov/oce/commodity/wasde/wasde0323.pdf

日本の輸入小麦価格の値上がりが続いているのに、意外に思われるかもしれません。でもこれが現実です。

では何故食品の価格が値上がりしているのか。それは供給以上に需要が伸びて、世界の穀物在庫が減っているからです。

世界の穀物期末在庫率(Stocks/Use Ratio)は6年連続で低下し、1996/87シーズン以来26年ぶりの低水準となっています。ウクライナ戦争うんぬん以前に、穀物不足が続いてきたのです。

これから新興国・途上国を中心に2050年までに毎年6200万人ペースで人口は増えていきます。経済が発展し所得が増え、都市化が進み、肉食が進むことで、飼料需要は長期的に大きく増え続けていきます。加工肉やバイオ燃料にも当然食料が使われます。

肉消費量が世界トップ(27%のシェア)である中国では、2018~19年にかけて豚熱が大流行し豚肉の供給が一時不安定となり、豚肉価格が高騰しました。

豚肉の安定供給は中国政権の支持率も大きく左右しますから、これを機に中国では政府支援のもとで養豚場の大規模が進んできました。

大規模養豚場では衛生対策が徹底され、豚熱拡大の要因となった人間の残飯を与えることはせず、配合飼料をエサとして豚ちゃんたちに与えます。豚1頭あたりの飼料需要は小規模養豚場から倍以上に増えます。

中国が近年、ブラジルや米国などからトウモロコシや大豆を買いあさっているのはそのためです。肉需要の増加と養豚場大規模化の進展で、食料需要はますます増えることになります。

単純に食料需要が増えるだけではありません。この前お話ししたように肥料の供給は一向に回復していませんし、食料生産にはエネルギー費用も掛かります。これら食料生産時の投入コストは食料価格に反映されざるを得ません。

仮にウクライナ戦争が早期終結し食料生産が以前の水準に戻っても、世界の小麦生産量は1.7%程度増えるに過ぎません。

実際には農地の破壊や汚染、農機具不足、農家の資金不足などによりウクライナの食料生産は今後も戦争前の1~2割ほど低い水準が長く続くと見込まれています。

ウクライナの食料生産が回復しても、世界の食料需要を補うにはあまりにも力不足です。

残念ながら、ウクライナ戦争の動向にかかわらず、食料需給はこれからも逼迫し、食料価格は上昇傾向を続けていきます。これが事実から見える将来の絵です。

こうした厳しい現実を見据えたうえで、私たちは将来のことを考えていかなければなりません。ただ食品価格の下落を願っているだけで何も手立てを打たなければ、最悪、食卓にコオロギや培養肉が並ぶことになります。

私はこんな生活、絶対に嫌です。だから農業関連銘柄などに投資し、購買力を失わずにどんな時代でもおいしいご飯を食べ続けられるよう、対策を講じているのです。

(農業関連銘柄については、アボマガ・エッセンシャルの配信記事No.252を参照。)

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