食料需給に影響を及ぼしそうなミシシッピ川の水位低下

今回は食料需給についてです。日本では食品価格の値上げラッシュの最中でで来年も続きそうな勢いです。

そのなかで、今後の食料需給に影響を与えそうな天候不順に関連した出来事が起こっています。ミシシッピ川の水位低下です。

ミシシッピ川の水位低下は今夏の熱波による旱魃が発生したことが原因で、9月以降に水位は歴史的低さとなっています。

10月17日時点で1988年7月に記録された最低水位を下回りました。ルイジアナ州の州都で、干上がった川底から19世紀の船の残骸が発見されたほどです。

ミシシッピ川は上流・中流で米国最大の農業地帯である中西部を縦断しメキシコ湾に注ぐ米国で2番目に長い川で、開拓時代から現在にかけて農産物を中心とした物資輸送の大幹線です。

米国から世界に輸出される大豆、トウモロコシ、小麦などの穀物の4~5割は、艀(はしけ)に積載されてタグボートに引っ張られる形でミシシッピ川経由で運ばれます。こうして運ばれた穀物の9割超は、河口にあるメキシコ湾の港から船で世界中に運ばれます。

しかし水位低下により、艀1隻当たりに積める穀物の量が減り、一つのタグボートで引っ張れる艀の数が30~40艘(そう)から25艘程度に減り、艀による穀物輸送効率が大幅に悪化しています。

下図は艀によるミシシッピ川軽油の穀物の輸送量の推移です。9~10月初めにかけての輸送量(青線)は例年(橙線)と比べて半分程度にまで減ったことがわかります。

その後一時輸送量は例年の水準まで回復しましたが、その後10月後半から現在にかけて再び減り始めています。例年であれば(大豆などの)輸送量が増え始める時期です。

艀の輸送効率が落ち、艀やタグボート、それを操縦する人員が不足しているため、輸送費用は9月から急上昇しました。

10月初めにミシシッピ川の艀輸送料金は1トンあたり100ドルを超えました。これは少なくとも2003年以降で最高値であるだけでなく、これまでの最高値である1トン40ドル付近を2倍以上上回るものです(下図左)。

その後一時スポット料金は低下しましたが、その後再び上昇して現在1トン90ドル程度あります(下図右)。

1カ月や3カ月の短期契約の価格はスポット価格ほどには上がっていません。これは予約済みの艀やタグボートを優先して割り当てられており、不足の影響をスポット契約ほど受けていないためです。それでも上昇傾向にあります。

穀物調達に必要な総コストのうち、艀運賃が占める割合は1割程度から3割弱に膨らんでいます。

輸送効率が低下し輸送費が急増していることで、ミシシッピ川上流・中流域の生産地域と河口のメキシコ湾岸地域とで、大豆やトウモロコシの価格に大きな差が生じています。

それを示すのが下図です。赤線は大豆・トウモロコシそれぞれの1トンあたり艀運賃で、青線は大豆・トウモロコシのメキシコ湾岸地域とセントルイスにおける1トンあたり価格差、黄緑線はメキシコ湾とアイオワ州北西部における価格差です。

トウモロコシは青線、黄緑線ともに赤線と完全に連動し、艀運賃がメキシコ湾岸地域のトウモロコシ価格に完全に反映されていることがわかります。

大豆は、ミシシッピ川が流れるセントルイスからメキシコ湾岸に運ばれたものは艀運賃を完全に反映しています。

他方、アイオワ州北西部からメキシコ湾岸に運ばれた大豆は7~8月に価格が急上昇しましたが、その後価格は安定し艀運賃を完全に反映していません。アイオワ州北西部はミシシッピ川から距離があり、鉄道などの代替輸送手段に切り替えた可能性があります。

ただ鉄道・トラックによる代替輸送は、重量単価の安い穀物を運ぶ場合、海運に比べて一般に輸送効率は悪くなり輸送費は高まるので、多くの農産物に対して輸送手段を切り替えることは簡単ではありません。

米国中西部の農家、特にミシシッピ川上流地域の農家は、大豆やトウモロコシの在庫が溜まり、地元では供給過多のため売っても利益が出ず、経営的に苦しい状況にあると推察されます。

特に大豆農家にとって、ミシシッピ川の水位低下は最悪のタイミングで起こりました。

米国産大豆は毎年9月から翌年1月にかけて本格的に収穫・輸出されますが、まさにこの時期に水位低下が重なってしまったのです。米国産大豆の43%は輸出向けですので、大豆農家にとって水位低下は死活問題となっています。

トウモロコシ農家も被害を受けていますが、大豆農家と比べれば次の理由によりまだマシな状況です。

・米国産トウモロコシの輸出割合は16%にすぎない・余ったトウモロコシをエタノールや飼料の原料にして販売する機会が増えている・現在、メキシコ湾岸からのトウモロコシの出荷は一年のうちで最も少ない時期

ミシシッピ川は食料だけでなく、別地域・国から輸入した肥料を河口から中流・上流の農家に届ける役割も担います。

リン酸は消費量の約25~40%、尿素は消費量の約33%がミシシッピ川経由で輸送されます。

水位が低下すれば、当然肥料の輸送量が減り、輸送費を転嫁した肥料価格も高くなります。上流にいくほど肥料価格は高くなります。

水位低下が生じる前と比べて、米国の農家が支払う肥料の費用は1トン当たり50ドル程度増えているとみられます。肥料にもよりますが、8~10%程度価格が増していることになり、農家の負担は大きいです。

米国中西部の農家、特にミシシッピ川上流の大豆農家は、売上の悪化と肥料価格上昇という二重苦を被っていることになります。

しばらく大豆を中心に米国産穀物が、日本を含め世界に供給されにくい状況が続きそうです。

ミシシッピ川の水位は一般に秋に最も低くなる傾向にあり、冬以降は降雨や降雪により水位は上昇していき、3月には大量の雪解け水が流れ込み始めるため水位は十分回復すると見られています。

よって来春にはミシシッピ川経由の穀物輸出が例年通りに戻る可能性が高そうです。このとき何が起こるでしょうか。

大豆の生産量は米国、ブラジル、アルゼンチンの3国で8割程度を占めますが、春は南半球のブラジルやアルゼンチンで大豆の収穫が始まり輸出が本格化する時期です。

よって現在溜まっている米国の大豆在庫の輸出が3~4月ごろから本格化した場合、ブラジルとアルゼンチンの輸出本格化と被るため、大豆は供給過剰となり、値崩れを起こしてしまいます。

ブラジルでは昨年旱魃で大豆の収穫量が減少しましたが、今年は過去最高の1億5,200万トンと推定されています。

大豆とトウモロコシの価格が高い状況が続く中、現在作付けが進んでおり、栽培面積は過去最高になるとみられています。

したがって、3月以降は大豆が日本に大量に流れやすくなり、食料価格の値上がりを抑制してくれるかもしれません。

しかしその先を考えると話は変わってきます。

食料需給緩和はすぐにリバウンドする

現在、食料在庫は世界的に減少傾向にあり、例年と比べて少ない水準にあります。最近は世界的な旱魃が食料生産量を減らしています。

米国は穀物の輸出量で世界シェアの2割を占めます。上述したような大豆価格の値崩れを起これば、来春以降の米国農家の作付け意欲は減ります。そうなれば、来秋以降の食料供給量は減ることになります。

食料市場で見過ごしてはならない大きな流れがあります。中国で豚用の飼料需要が高まっていることです。

ゼロコロナ政策が続き外食需要が減っている中国ですが、アフリカ豚熱の脅威が過ぎ去り、中国政府の財政支援があるなかで飼料を多く使う大規模養豚場が増えていることから、飼料需要は高まる一方です。

すでに中国は国内生産だけで飼料需要を賄うことはできなくなっており、輸入を増やすしかありません。

下図は中国の大豆輸入量の推移ですが、2020年以降、輸入量が増えていったことがはっきりと描かれています。今年1月には米国から記録的水準の大豆を輸入しました。

中国の大豆とトウモロコシの期末在庫をみると、今年に入り低下傾向が続いています。ゼロコロナ政策が緩和・解除されて外食が回復すれば、より在庫低下圧力が掛かることになります。

中国は最近、ブラジルから大豆粕輸入を増やそうとしています。これまで中国は輸入した大豆を自国で粉砕して大豆粕を製造してきましたが、飼料需要の高まりで大豆粕の製造すらも追いつかなくなっているのです。

また米国との貿易戦争が続く中、代替供給先の選択肢を広げておきたいという中国政府の思惑もあります。

中国政府は食料安全保障の重要性を近年強調しており、政治的にも食料輸入を増やし食料を囲い込む意欲が強くなっています。

14億人の人口を抱える国の旺盛な食料・飼料需要があり、インドをはじめアジア・中東・アフリカで人口が伸びていくなか、どこかの農業生産大国で作付けを減らすなど食料生産量が減れば、たちまち世界的に食料需給逼迫が生じやすいのが現在です。

結局、食料価格高騰の大きな流れが止まることはありません。

★今回アボマガ・エッセンシャルでは海外の農業関連銘柄についてお話ししています。

日銀は量的緩和・マイナス金利政策を止められず、日本政府は39兆円もの巨額の総合経済対策を発表しました。玉砕するまで日本円を輪転機で発行し続けるようです。

食料自給率38%の日本において、円安が加わることで食料価格が今後とんでもなく値上がりしていくことは確定した未来になりつつあります。

紙くずになる日本円を抱え込んで食べ物に苦労する前に、預貯金の価値が残っているいまのうちに、資産や生活を守るための対処をしておきませんか。

今回お話ししている銘柄に投資しておけば、食料価格上昇と円安のどちらに対しても資産を増やすことが期待できます。

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