食料値上がりから食料危機へ:ロシアのウクライナ侵攻

2022/03/07に配信した有料版記事[アボマガ No.203]の一部を編集したものです。
 
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ロシアがウクライナに侵攻し2週間近く経とうとしています。
 
ロシアはウクライナに非軍事化(ウクライナ軍の解体、核廃絶)、中立化(NATO非加盟の約束)、非ナチ化(軍産複合体が背後にいる極右集団、極右政権の排除)を求め、実質的に親ロシア国家への転換を要求しています。この侵攻の背景から、譲歩する余地があるようには見えません(背景についての説明は省略します)。
 
ロシア側の要求は現在のウクライナ国家の崩壊を意味するものであり、譲歩する余地がないことを考えると、戦争は長引く可能性があります。
 
 
ウクライナ情勢の悪化で最も懸念されるのは商品価格の値上がりです。
 
ロシア産の原油や小麦、ニッケル、アルミなどが市場に十分供給されなくなることへの懸念から、先週商品価格は1974年以来の値上がり率を記録しました。高騰が続いています。
 
小麦先物価格は約14年ぶりの高値になり、欧州天然ガス価格は先週100%以上暴騰し過去最高値になりました。
 

ブレント原油

 

小麦

 

欧州天然ガス

 
 
特に心配なのは小麦です。
 
両国は世界第1位、2位の小麦輸出国で、合わせて25~30%のシェアを持ちます。両国とも、小麦の多くを黒海から輸出します。
 
大手物流関連会社がロシア発着の輸送を停止しており、ロシアの小麦供給量は半分に減っているとの報道があります。
 
ウクライナはロシアの侵攻が終了するまで全ての港を閉鎖すると発表しました。いくつかの港湾施設に被害が出たり黒海に停泊中の貨物船が砲撃を受けたとの報告があります。
 
ロシア、ウクライナともに、小麦をはじめとした食料輸出が厳しい状況にあるのです。さらにハンガリーが食料輸出の停止を発表し、他国も追随して食料禁輸に動くかもしれません。
 
これから春の種まきシーズンを迎える中、小麦をはじめとした食料輸出は大きく減る見通しですから、今年世界に出回る食料が減り、世界中で深刻な食料危機が生じてもおかしくありません。
 
日本も影響を免れないでしょう。すでにほとんどすべての食料価格が値上げしましたが、今後もパン、パスタ、うどん、ラーメン、小麦粉、薄力粉を始めありとあらゆる食料価格が一段と値上がりすることは確実です。
 
さらなる問題があります。
 
ロシアは世界のパラジウムの4割を供給していますが、今後これが世界に流れにくくなります。
 
半導体不足の影響を受けてきた世界の自動車メーカーは、パラジウム不足に直面することになります。
 
パラジウムはハイブリッド車・ガソリン車の排ガス浄化触媒に使われます。電気自動車にはガソリンがないのでパラジウムは不要です。
 
日本は電気自動車の開発で遅れており、パラジウム不足で自動車開発が進まないなか、中国勢やテスラなどが電気自動車で日本に攻勢をかけるチャンスとなりかねません。
 
すでに日本の実質実効為替レートが石油危機時代並みの水準にあることは皆さま報道でご承知のことかと思います。
 
ロシアへの経済制裁により、原油高はもとより、日本の自動車純輸出が減り、外貨獲得がますます厳しくなり、日本の円安スパイラルに歯止めがかからなくなるリスクが足元で高まっています。
 

 
今後、日本の食料価格は、食料そのものの値上がりだけでなく、円安による輸入コストの上昇の影響も加わることになります。
 
 
昨年末にお試し版で次の記事を配信しました。覚えていますか?
 

[アボマガお試し版 No.195]本格化する食料価格値上がりへの対抗手段(2021/12/27配信)より引用(リンク):
 
食料は人間が食べるだけでなく、家畜用の飼料にも多く使われます。
 
とりわけ世界最大の人口を有し所得増・都市化が進んできた中国の豚肉向け飼料需要が、食料価格に大きな影響を与えます。
 
実は中国の豚肉市場に構造的大変化が生じていることをご存知でしょうか。
 
中国では1995年頃まで、養豚業者は飼育数が50匹以下の小規模農場が中心でした。
 
その後中国経済が大きく成長し、労働者の所得が増え、都市化が進むなかで、豚肉需要が高まり、50~1000匹のブタを飼育する中規模農場や、それを上回る大規模農場が数を増やしていきました。
 
その結果、現在は大規模農場と中規模農場がそれぞれ40%のシェアをもち、小規模農場の割合は20%にまで低下しました。
 
今後、大規模農場の割合は2025年までに65%にまで増え、小規模農場の割合は5%にまで減るとの予測があります。
 
豚肉需要の増加や規模の経済の追求だけでなく、中国政府が補助金政策などで大規模農場の支援を行うとみられているためです。
 
大規模農場の寡占化が進むことで、中国政府は豚肉市場を統制しやすくなります。また大規模農場は衛生対策を講じているため、アフリカ豚熱など感染症の蔓延による豚肉市場の急変動を抑制しやすいです。
 
小規模農場に多い家族経営の養豚場では残飯を餌に与えることが普通でした。残飯に細菌やウイルスが混入しており、それを家畜が食べることで感染症に掛かる原因になってきました。
 
大規模農場では、エサを効率よく与えるため、小麦とトウモロコシという栄養価の高い飼料の割合が65%と非常に多いことが特徴です。
 
豚1頭あたりの小麦・トウモロコシの量は474ポンドで、中規模農場の1.16倍、小規模農場の2.4倍に達します。
 
今後、大規模農場化がさらに進展することで、中国の飼料需要が増えていくことは確実です。2025年までに飼料需要が40%(4000万トン)増加するとの予測があります。
 
ただでさえ高い食料価格に、さらなる上昇圧力が掛かり続けるというわけです。
 
・・・
 
食料自給率が低く輸入に依存し、賃金・年金額は物価上昇に追いつかず、貧困層が増えている日本では、食料価格の上昇が止まらないことは人々の生活に深刻な打撃を与えかねません。
 
私たちは、当たり前だった日常を当たり前でない状況にしないために、食料価格の値上げに真面目に対抗する必要に徐々に迫られ始めているようにみえます。
 
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対抗手段があります。食料価格の値上げに恩恵を受ける銘柄に投資し、購買力を高めることです。
 
今回アボマガ・エッセンシャルで配信した記事では、まさに食料価格の値上がりの恩恵を受ける銘柄を取り扱っています。
 
この銘柄は紹介時から4割値上がりしてしまいました。昨春から現在まで株価上昇が続いており、株価推移をみるといまから投資するのは遅いと思われるかもしれません。
 
しかしこの銘柄の長期株価推移をみると、現在の株価はリーマン危機時の水準に過ぎません。
 
リーマン危機時と比べ食料価格が軒並み高い現在において、この銘柄はむしろ過小評価気味です。
 
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いま期待しているのは、Fedのテーパリング・利上げにより株価が急落し、良い投資機会が来ることです。しかし食料需給が大きく緩和するようにあまり見えないため、場合によってはそこまで大きな調整が来ないまま値上がりが続くかもしれません。
 
食料危機対策が出来る時間はあまり残されていないかもしれません。さらなる値上がりが起こる前に、まずはこの銘柄にいつでも投資できるよう準備しておくことが大切なように思えます。

 
この銘柄は結局、大きな値下がりをすることなく、昨年12月27日から現在まで、2カ月余りでさらに25%値上がりしました。アボマガ・エッセンシャルでの紹介時から77%の値上がりです。
 
ロシアのウクライナ侵攻後、この銘柄の値上がりが本格化し止まる気配がありません。先週ロシアがウクライナ南東部にある欧州で最大規模の原発であるザポロジエ原発を砲撃・掌握したとの報道を受けて、値上がりはより勢いを増しました。
 
幸いなことに、この銘柄の予想PERは8倍しかありません。小麦を中心に食料価格が今後も値上がりすることを考えれば、まだ投資は間に合います。同時に円安対策もできます。
 
食料価格値上がりや円安が進行してから対策しても手遅れになります。実質賃金が下がり続ける中、日本は戦時中のように、日々の食べ物にも苦労する時代へと急速に向かい始めています。