アイコスの成功は紙巻たばこを「ディスり」続けた捨て身戦略の賜物

今回はフィリップモリス・インターナショナル(PM)についてです。

[アボマガお試し版 No.154]フィリップモリスの分析の記事(一部)です。2021/02/15に配信したものです。

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たばこ会社なのに紙巻たばこを「ディスり」続ける

フィリップモリスの無煙たばこであるアイコスをめぐるビジネスモデルについて、改めて考えてみたいと思います。

アイコスはテスト販売期間を経て、2015年に日本で世界初の本格販売が始まりました。

それから5年余り経過し、韓国、欧州、米国などで次々と販売が始まり、現在までに64カ国で販売されています。

先進国での販売がメインである印象がありますが、半分以上の33の国はOECD非加盟国であり、新興国や途上国での販売もかなり進んでいます。

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フィリップモリスのマーケティング戦略は、「紙巻たばこのデメリットを強調しながら、加熱式たばこの良さを啓蒙する」というものです。

フィリップモリスはデジタル化の一環として、アイコスの直販サイトの運営を強化しています。

他社も無煙たばこの直販サイトを運営していますが、日本語サイトを見る限り、フィリップモリスの直販サイトは他社とはある一つの点で大きく異なります。

それは加熱式たばこの啓蒙活動に積極的なことです。

フィリップモリスは直販サイト内で、加熱式たばこの特徴、従来のたばこや電子たばことの違い、そして健康に与える影響について、閲覧者に目立つように説明しています。

特に紙巻たばことの比較に重点を置いているところが特徴で、紙巻たばこを「ディスる」文言が多いことに気づきます。

以下はすべて、日本語のアイコス公式サイトから引用したものです。

  • 紙巻たばこから完全にIQOSに切替えると、紙巻たばこを吸い続けたときに比べ、健康へのリスクが低減されます。
  • 79%のユーザーが「もう紙巻たばこに戻るつもりはない」と高く満足しています。
  • 加熱式たばこIQOSは、紙巻たばこに比べて手や髪、衣服や家具ににおいがつきにくいので、家族や周りの人とくつろぎながら同じ時間を過ごせます。
  • IQOSは紙巻たばこと比べてはるかに歯に汚れ(ヤニ)がつきにくいことも特徴です。

他社はここまで直接的、具体的で生々しい紙巻たばこのデメリットに言及してまで、加熱式たばこ等の無煙たばこの良さを啓蒙することはできていません。紙巻たばこの収益減を恐れているためです。

他方、フィリップモリスは紙巻たばこのない社会実現を究極の目標として掲げており、紙巻たばこの収益減を覚悟で、早くから加熱式たばこシフトを強化してきました。

このマーケティング戦略、経営陣の腹の括り具合の違いが、直販サイトにおけるフィリップモリスの積極的な加熱式たばこ啓蒙活動に現れています。

紙巻たばこのデメリットを前面に押し出すことで、アイコスの魅力をより際立たせ、訴求効果を高めている

画像ソース: アイコス公式サイト

公式サイト上での、紙巻たばこのリスクを前面に押し出したうえでのアイコスの啓蒙活動は、たばこやそれが健康に与える影響について、アイコスの潜在顧客が学ぶきっかけを提供していると考えられます。

よくたばこの有害物質としてニコチンとタールが指摘され、特にニコチンの依存性がクローズアップされています。

しかしニコチン自体に発がん性はありません。発がん性があるのはタールです。ニコチン依存の人が、たばこ葉の燃焼によって生じる発がん物質のタールを、自らの体内や、副流煙の受動喫煙を通じて他人の体内に蓄積させることが問題です。

アイコス利用者は、健康への危険性が大きいのはタールやそれを生み出す燃焼にあることを他の喫煙者よりも理解しています。またニコチンを主要リスクと考える人はかなり少ないです。

加熱式たばこにはニコチンは含まれますが、燃焼しないのでタールは含まれず、煙を出しません。

加熱式たばこに発がん性や健康への問題がないとは言い切れませんが、アイコス利用者は各種たばこが自分や他人に与える健康へのリスクを考慮したうえで、アイコス利用に踏み切った人が多いようです。

利用者がたばこや健康に関する知識を持つことは、アイコスの売上げに大きく寄与しています。

紙巻たばこの健康へのリスクを100とした場合、たばこについて知識を持たない人々は、加熱式たばこの健康へのリスクを平均90だと考えます。

しかし知識を持つことで健康へのリスクは81へと低減し、加熱式たばこの購入者は平均52と、劇的に減っています。

このように、「紙巻たばこをディスってまで加熱式たばこシフトを促す」という捨て身の経営戦略は、欲望だけでなく理性に基づきアイコスの利用に踏み切る人々を続々と増やしてきたと推察されます。

こうした利用者は、より長くアイコス等の加熱式たばこを利用し続けると期待されます。

「79%のユーザーが『もう紙巻たばこに戻るつもりはない』」というのも納得できます。

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今年後半に、第4世代のアイコスである「IQOS ILUMA」が発売となる予定です。

アイコスは加熱ブレードの破損とメンテナンスの手間がネックとなっていましたが、IQOS ILUMAはブレードの強度を高め破損しにくくし、メンテナンスなしで利用可能です。

連続喫煙ができないという弱点を2019年に克服したばかりですが、IQOS ILUMAによりますます利便性が高まり、加熱式たばこのなかで、吸い応えの強さがナンバーワンであるアイコスの人気はますます高まりそうです。

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