6月の米国のインフレ率は3.0%と、2021年3月以来の低さとなりました。
市場予想を下回る数字を見て、高インフレの非常事態を脱し、7月の0.25%の利上げをもってFedは利上げを停止するだろうとの楽観論が市場を席巻し始めています。
ナスダックが7月24日に特別なリバランスを実施し、ナスダック100指数におけるマイクロソフト、アップル、アルファベット、エヌビディア、アマゾン・ドット・コム、テスラの合計保有比率を40%に減らすという発表が出ましたがなんのその。
大手ハイテク株を中心に株高がますます進展しています。
しかし市場の見方とは異なり、複数の米国連銀総裁はインフレとの闘いはまだまだ続くとの慎重な見方を示しています。
米インフレ高すぎる、目標達成確信できず=リッチモンド連銀総裁
https://jp.reuters.com/article/usa-fed-barkin-idJPKBN2YS1DP
SF連銀総裁、勝利宣言は「早過ぎる」-インフレとの闘いは様子見
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-07-13/RXQRXXT0G1KW01
特にサンフランシスコ連銀のデイリー総裁はハト派の代表格とされてきた人物です。彼女がインフレ鈍化のさなかに突然タカ派的発言をしたことは、ウォール街のあいだで話題となっています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB142120U3A710C2000000/
BIS総支配人はこの前の日経のインタビューで、「インフレ目標を引き上げると中銀の信用毀損につながりかねない」「中銀はラストワンマイルまでインフレと闘え」と言っていました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK286P30Y3A620C2000000/
BISは「中央銀行の中央銀行」、Fedよりも上の存在です。
そのBISが、物価上昇率が2%付近に達するまで断固金融引き締めを続けるよう、Fedに圧力をかけているわけです。
以前のお試し版のメルマガ(ブログでの公開はしていない)にも書いた通り、拡大BRICSはゴールドを裏付けとした新通貨の導入を検討しているようです。
世界中の新興国が拡大BRICSへの参加を検討・表明しており、世界の中央銀行は新興国を中心に、昨年に1950年以降で最も多い1136トンのゴールドを買い越しました。
こうしたなか、世界の中央銀行や政府系ファンドがニューヨークやロンドンに預けていた金準備を自国に戻して自国で管理する動きを強めているとの報道が出ました。
ロシアのウクライナ侵攻後、欧米がロシアの対外資産を凍結したことを受け、海外に預けている金準備がアングロサクソン勢力に凍結・接収されたらたまらんというのが理由のようです。
https://jp.reuters.com/article/sovereignwealth-performance-report-idJPKBN2YQ07P
逆に言えば、こうした国々は欧米の逆鱗に触れかねない方針を持っているということになります。
拡大BRICSの金を裏付けとした通貨システムに参加することは、まさに米国への挑戦となります。
拡大BRICSの新通貨がお披露目となり世界の新興国がこぞって使用することになれば、国際米ドル体制のもとに覇権を握ってきた米国の国力低下は避けられず、最悪国が崩壊します(金本位制の崩壊により大英帝国は潰れましたよね)。
これを防ぐためには、何としても米ドルの価値を維持し続けなればなりません。
もし金融緩和に転じれば、海外との金利差が縮小し、すでに金融市場が膨張している米国から海外に資金が流れ、米ドル安が進む(=米ドルの価値が縮小する)ことは必至です。
現に金融緩和への期待のため、急速にドル安が進んでおり、ドル円は一時1ドル137円台にまで円高ドル安が進んでいるではありませんか。
米ドルの価値が縮小すれば米ドルの影響力は低減し、Fedはもちろん、その上位機関であるBISの権限が弱まっていっても仕方ありません。
元々BISは第一次世界大戦後のドイツの賠償金を債権国である英仏の中央銀行に送付する賠償代理機関として、1930年に設立されました。
第二次世界大戦後には、BISは廃墟と化した欧州の経済復興のための決済業務の要を担いました。
第一次大戦後のドイツの賠償金問題、および第二次大戦後のマーシャルプランでは、多額の米ドルが欧州に流れ、米ドル国際化の端緒となりました。
マーシャルプランによる欧州への米ドル供給は西欧のドル圏構築・ユーロダラー市場の創設へと発展し、まさに現代の国際的な米ドル覇権体制の礎となりました。
BISは米ドルの国際通貨化とともに歩み、世界的影響力を拡大していった、米ドル国際金融体制の一つの象徴ともいうべき機関なのです。
そんな機関が、米ドル覇権体制を一気にぶち壊しかねない政策、すなわち金融緩和策を支持するのでしょうか?
現在の金融引き締めは、インフレの鎮静化という経済的な側面よりも、むしろ国際通貨体制をめぐる争いと米ドルの防衛という国際政治的な目線で見なければいけません。
昨年の今頃はすでにエネルギー価格が下がり始めています。一方で見た目の労働市場は依然堅調で、人手不足に悩む企業は賃上げを続けなければなりません。
賃金上昇率はいまだに4%を超えておりインフレ率を大きく上回っています。今後もこのペースで賃金上昇が続けば、そう遠くないうちにインフレ率は底打ち反転することでしょう。
深刻な景気後退が起きない限り、インフレ率は目標の2%に達するようには見えません。
永遠にたどり着かないインフレ目標を目指して、Fedは金融引き締めをダラダラと続けていくのではないでしょうか。
金融政策をめぐり、市場の見方と中央銀行側の考えの溝は広がっていくばかりです。
▽アボマガ・エッセンシャルとは
アボマガは、「配当成長株+配当再投資」の組み合わせで複利を活用して配当収入を増やすことで、インフレに負けない生活を築き上げたい人たちを応援するメルマガです。
銘柄の将来の配当成長力を分析するには、ビジネスモデルやその参入障壁を理解し、直感と論理を駆使して量的だけでなく質的にも分析することが必要です。これは人工知能には難しいことでしょう。
配当成長力を把握するために、どの点に着目しながら銘柄を分析すればよいのか?
アボマガを毎週読むことで、銘柄の具体的な分析を通じて、配当成長力を把握するための手法を学ぶことができます。
私が各銘柄のどの要素に着目して論じているのか、ここを意識して1年、2年とお読みになり、将来あなたが自力で銘柄発掘するためにお役立てください。
▽アボマガ・エッセンシャルで最近配信した記事
アボマガ・エッセンシャル(有料)にご登録されると、以下の記事を含め直近50記事をご覧いただけます。
●No.265(2023/07/10配信)
記事前半では現在の株式市場の現状と脆さについて分析しています。記事後半は昨秋から株価が60%以上値上がりし、時価総額の7.7%もの巨額の自社株買いを発表した、キャッシュフロー豊富なある素材セクターの銘柄についてです。
●No.264(2023/07/03配信)
米国最大のスーパーマーケットチェーンであるクローガーについてのフォローアップです。全米2位のアルバートソンズとの246億ドルでの買収・合併が成立するかどうかは依然不透明ですが、その結果によらず高い株主還元を維持できそうです。その根拠を述べています。
●No.263(2023/06/26配信)
グリーンスチール分野に積極的に取り組み世界をリードする銘柄について詳細に分析しています。2030年にはグリーン関連売上が3~4割程度にも達する可能性があり、利益は長期的にグングン伸びていきそうです。
●No.262(2023/06/19配信)
中国経済とコモディティに関する内容です。中国経済は予想以上に悪く地方財政も大幅に悪化しているため、従来の不動産主導の経済発展はこれ以上見込めません。よってコモディティ需要の長期停滞が心配されますが、本当のところどうなのでしょうか。