有事と円:大震災は円高を招くとは限らない

昨日の夜遅くの福島県沖でのM7.3の大地震に驚いた方は多いのではないでしょうか。
 
さて、日本では大震災が起きた時に円高が進展する傾向にありました。
 
1995年の阪神・淡路大震災のときは、地震発生から3カ月で当時101円程度だったドル円は一時79.75円をつけました。
 
2011年の東日本大震災のときは、1ドル83円程度だったのが発生から数日で76.48円にまで円高が進みました。
 
しかし昨日の福島県沖での地震では、円安ドル高が進む中で発生し、発生後に一時1ドル119円台の円安水準となりました。
 
震災発生後の為替の動きは、当時の投資家や投機家の行動に左右されます。
 
阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生前には、日本の生損保や海外の投資家・投機家が、低利の円を借りて高利の外貨建て証券に投資する取引(円キャリートレード)が流行っていました。
 
しかし1990年代の日本の不動産バブル崩壊や、2007年の米国のサブプライムローン危機、翌年のリーマンショックで、こうした投資家・投機家は大損を被りました。
 
彼らは借金返済のために、外債を売って得た外貨を円に換える動き(円キャリートレードの巻き戻し)を一斉にしたため、円高ドル安が進んでいきました。
 
こうした動きのなかで、阪神・淡路大震災や東日本大震災が起こり、不安に駆られた投資家・投機家が円キャリートレードの巻き戻しを一層進め、さらなる円高ドル安につながりました。
 
 
しかし現在、円キャリートレードはほぼ絶滅しています。
 
外国人投資家は日米の金利差が拡大する中、円キャリートレードではなく、ドルを高利で貸して円を借りて日本国債に投資して儲けています。この取引に為替取引は含まれず、ドル円にそこまで大きな影響を与えません。
 
いまの円安ドル高の動きは、エネルギーや資源、食料の価格が上昇するなか、日本の投資家があらゆる商品を輸入に頼る日本の将来を案じて円を売っていることから起きているとみられます。
 
これまで有事の円と言われてきましたが、今後有事は日本のモノ不足に拍車をかけることになります。
 
ロシアのウクライナ侵攻で、ロシアやウクライナ産の食料・エネルギー・資源が世界市場に供給されにくくなっています。ウクライナ、ハンガリー、エジプト、アルジェリアは食料輸出を一時停止しました。
 
日本はロシアから石油、LNG、パラジウム、塩化カリ、小麦などを輸入していますが、岸田首相はロシアが北方領土を「不法占拠」していると発言し、関係は急速に悪化しています。
 
もし南海トラフ大地震・大津波や富士山噴火といった巨大災害が日本列島を襲えば、自動車をはじめとした工場の閉鎖、道路網の寸断、港湾や空港の損傷、農作物への被害などでモノの生産・輸送・輸出入に甚大な影響を与え、日本は深刻なモノ不足に陥るでしょう。
 
南海トラフでは、1000兆円規模の経済損失が出ると言われており、莫大な復興資金が日本の経済・社会に流れることは確実です。
 
深刻なモノ不足と実体経済への莫大な資金流入が起きた時に何が起こるかは、戦後の日本の歴史を見ればわかります。