金融崩壊・戦争時代へ

今月21日に2つの大きなイベントが重なりました。

一つはFOMC、もう一つはプーチン大統領による55分間にわたる緊急のテレビ演説です。いずれも将来の世界市場、世界情勢に不可逆的大変動を起こし得る内容を含むものでした。

市場はFedのタカ派姿勢を受け入れざるを得なくなっている

まずは今月20~21日のFOMCについて簡単に触れていきましょう。

政策金利は3会合連続で0.75ポイントの利上げで、誘導目標レンジは3.00~3.25%になりました。これは市場の予想通りでした。

市場が注目したのは今後の利上げペースです。ドットプロットを見ると、6月時点のものと比較して、今年から2023年にかけての政策金利予想が1%程度引き上げとなりました。

今年残り2回のFOMCで1.25ポイント利上げして政策金利を4.25~4.50%にし、来年にはさらに0.25ポイント利上げして政策金利を4.50~4.75%の範囲にすることが、最新のFOMC参加者たちの総体としての考えです。

ここ1年間、FOMCの今後の政策金利見通しは下図の通りタカ派姿勢が強まり続けてきました。1年前のFOMCで今年末の政策金利見通しはたった0.75~1.00%でした。いまでは当時よりも予想金利は3.75ポイントも上です。隔世の感があります。

パウエル議長はFOMC後の記者会見で、次の通り目先の景気を犠牲にしてでもインフレ退治に取り組む姿勢をかなり厳しい表現で述べました。

・「われわれはインフレを過去のものにする必要がある。痛みを伴わずにそうする方法があれば良いが、それはない」

・「金利上昇と成長減速、労働市場の軟化は全て、われわれが仕える国民に痛みをもたらすが、物価の安定を取り戻せず、将来的に再びやり直さざるを得なくなるほどの痛みではない」

FOMCによる米国の経済成長見通しを見ると、6月時点で今年1.7%成長を予想していましたが、今回0.2%成長と、1.5ポイントも成長予想見通しを引き下げました。また来年の成長見通しも3カ月前から0.5ポイント引き下げました。

パウエル議長の発言内容通り、急速な金融引き締めで景気を冷やすことを厭わないから気を付けろと市場に警告しているとしか思えない、急激な見通し引き下げです。

8月のCPIデータと今回のFOMCのタカ派姿勢から、市場はしばらく予想以上の利上げが進み、来年の利下げもあまり期待できないことを認めざるを得なくなりました。

さらに今後、市場が見て見ぬふりをし続けてきた、もう一つのFedの金融引き締め策にも意識が向かざるを得なくなるでしょう。量的引き締めです。

今年6月にFedは量的引き締めを開始し、毎月475億ドルを目安に資産縮小が始まりました。その後縮小規模を段階的に拡大し、今月から毎月950億ドルずつ縮小するとしていました。

Fedの毎月の総資産減少額の推移をみると、実は計画の半分にも満たない額しか縮小できていません。とはいえ、6月以降縮小幅が拡大してきたことは確かです。

利上げによる景気悪化への懸念と、利上げ・量的引き締めによる金融市場からのマネー流出が、これから市場に織り込まれていくことになります。先週金曜日の急落はその始まりかもしれません。

米国経済と米国株(金融市場)との関係を示す対名目GDP比時価総額(通称:バフェット指標)は現在167%と、2000年のインターネットバブルピーク時にあります。

これから金融引き締めとスタグフレーション環境が続くことを考えると、同指標は100%を切るまで調整することになるでしょう。

インフレによる名目GDPの上昇を考慮しても、米国株は、あと33~40%ほど下げる余地がありそうです。

地域紛争から戦争へ

続いてロシア・ウクライナ情勢についてです。

プーチン大統領はテレビ演説で、ウクライナおよびそれを軍事的に支援する西側諸国のこれ以上の東方拡大は容認できず、ロシアを守るために核戦争も辞さない構えだということを改めてロシア国民に伝えました。

それと同時に30万人の予備役の動員と、ドネツク州、ルガンスク州、ヘルソン州、ザポロジエ州の4州でロシア編入を問う住民投票を今月23~27日に実施することを発表しました。

予備役とは、主に有事の際に新たに動員される退役軍人や、過去に就役していた艦艇・航空機のことです。

ロシアが予備役を動員するのは、第二次世界大戦以来初めてのことです。冷戦時代には一度もありませんでした。

ロシアの予備役は2500万人いるとされ、ロシアの全人口の17%程度で、ウクライナの全人口の半分以上です。今後状況次第で予備役を30万人からもっと増やすつもりのようです。

住民投票について、当初ロシアはドネツク州、ルガンスク州の2州の併合を検討しているとみられていましたが、ウクライナ東部・南部の支配が順調に進んだことから、支配下においたヘルソン州、サポロジエ州の住民投票にも踏み切ることになりました。

今月ロシア軍は東部ハリコフ州から撤退してウクライナ軍が反転攻勢していると報道されてきましたが、ロシアがウクライナ東部・南部をがっちり掌握していることに変わりありません。

ロシア軍の撤退は、住民投票を確実に実施して併合を実現するための防衛強化が理由ではないでしょうか。

4州を含むウクライナ東部・南部はロシア語を話す住民が半分以上を占めています。中高年だけでなく若者も同じです。

東部・南部はソ連に編入される以前からロシア帝国の一部であり、歴史的・文化的にロシアによる併合を受け入れやすい地域です。

ロシアが独立国として承認したドネツク州、ルガンスク州は2014年以来、ロシア圏に入ることをずっと望んできました。

またザポロジエ州では欧州最大の原発がウクライナ軍により攻撃され、全電源喪失・放射線漏れの瀬戸際にありました(ロシアが併合を模索している地域の原発を攻撃することは常識的に考えてあり得ません)。

そのためザポロジエ州の住民にとって、ウクライナ政府・軍は憎悪の対象となっていても不思議ではありません。

ロシアの国立世論調査研究所が今月19日に行った世論調査によれば、4州とも大多数がロシア編入を支持しているようです。

4州の住民投票では、いずれもロシア編入に賛成との結果が出て、速やかにロシアの一部になる公算が高いように思えます。

4州がロシアに編入となれば、これら地域へのウクライナ側の攻撃はロシアへの直接攻撃となり、宣戦布告を意味することになります。

ウクライナ側はロシアによるウクライナ4州の併合を認めない考えです。ゼレンスキー大統領だけでなく、米高官も、NATO事務総長も、併合した場合は交渉には応じられないとの態度を明確にしています。

ロシアがウクライナ側との交渉カードを捨て去り、有事モードに入ったことには伏線があります。

8月9日、ロシア占領下のクリミアのサキ空軍基地が何者かに攻撃され爆発しました。衛星画像から、少なくとも9機のロシア戦闘機が完全に破壊され、他の多くの戦闘機も飛行不能になったとみられています。

(16日にも、クリミア北部の前線から約120マイル離れたドザンコイ付近でロシアの軍需工場が大爆発を起こし、同地域の変電所も破壊されました)

9日のサキ空軍基地への攻撃は、当初ロシア軍は攻撃を受けたのではなく「事故」であると述べていました。ウクライナ側は曖昧な態度を取っており、両者歯切れが悪いものでした。

実はこの攻撃、専門家のあいだで、ウクライナ側が長距離弾道ミサイルで攻撃した可能性が高いと言われています。

下図はサキ空軍基地の衛星写真です。丸がついた場所が爆発した箇所ですが、このクレーターの直径はおよそ10メートルあります。

このような大規模な爆発跡が出来るには、少なくともC-4爆薬500ポンド(約227キログラム)が必要とされます。

特殊部隊が地上から爆薬を仕掛けたとの主張も一部ありましたが、爆発が起こったのは午前10時です。

航空機1機を破壊するのに2ポンドの爆薬で十分なのに、数十機の戦闘機を破壊するために500ポンドもの大量の爆薬を白昼堂々と設置することは考えにくいです。

専門家によると、サキ空軍基地の攻撃には地対地弾道ミサイル「ATACMS」が使用された可能性が高いとみられています。

これは米ロッキード・マーチン製で、射程は300キロあり、500ポンドの弾薬を搭載したミサイルをマッハ3.5の超音速で空軍基地まで発射できます。

ATACMSは、現在ウクライナが保有しているロケット砲システム「M142 HIMARS」または「M270 MLRS」から発射することができます。

ウクライナ軍は、公式にはサキ空軍基地に攻撃するためのミサイルを持っていないことになっています。米国またはNATO同盟国がウクライナに提供する公式の武器パッケージには、サキ空軍基地に届くミサイルは含まれていません。

バイデン政権は、ウクライナがロシア国内の攻撃にATACMSを使用すれば米国やNATOがロシアとの戦争に直接巻き込まれる恐れがあるため、ウクライナ側からのATACMS提供の要請に応じていないとされていました。

しかし上述のことから、何らかの形で西側がウクライナに長距離弾道ミサイルを配備してロシア軍基地を攻撃した可能性が高そうです。まぁロシア側はおそらく情報を掴んでいることでしょう。

思い出してください。今年2月末にロシアがウクライナ侵攻に踏み切る4ヵ月前に米国は国際法違反をしてまでウクライナにミサイルを配備していた事実を。

今回は西側がウクライナに長距離弾道ミサイルを配備しただけでなく、ロシア軍基地を攻撃したとみられるわけです。これは米海軍の艦隊と基地に奇襲を仕掛けた日本の真珠湾攻撃と大きな違いはありません。

これまでは特殊作戦でしたが、ロシアが4州の併合を完了したら、あまり間髪をおかずに(早ければ年内に)本格的な戦争に突入しても不思議ではありません。最悪、核戦争に発展することも覚悟しなければなりません。

世界情勢の変化にいち早く対応できそうなセクター

今後金融引き締めの強化や景気悪化が織り込まれるなかで、ほとんどの銘柄で株安が進むと考えています。

しかしロシアとウクライナ・西側諸国との本格的な戦争が年内に勃発する可能性が出てきたなか、そこまで調整期間が長引かず、早めに投資資金が流れ込むかもしれないセクターがあります。

それは・・・です。

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