加熱式たばこへの積極さが仇となりそうなフィリップモリス

[アボマガお試し版 No.184]加熱式たばこへの積極さが仇となりそうなフィリップモリスの記事(一部)です。2021/10/12に配信したものです。
 
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フィリップモリスは加熱式たばこのアイコスを軸に非燃焼たばこを早くから強力に推し進めてきました。
 
日本や英国で2031年までに紙巻たばこ市場から撤退することを公表するなど、紙巻たばこ事業から少しずつ撤退し、紙巻たばこのない社会の実現というスローガンの実現に向けて行動しています。
 
フィリップモリスは長期的にたばこ会社でなく、ウェルネス会社に生まれ変わろうとしています。
 
今年9月に英国の喘息吸入器メーカーのベクチュラの株式74.77%を11億ポンドで買収することを公表し、ウェルネス会社への変貌に向けて新たな一歩を踏み出しました。
 

 
フィリップモリスの非燃焼たばこの売上比率は今年中に30%を超える見通しであり、2025年に過半数の売上を非燃焼たばこから得るとの目標に向けて順調に進んでいます。
 
ここ2年の株価推移をみると、今年4月まで両銘柄は同じたばこ会社として、ほぼ同じ動きをしてきました。
 
しかし4月以降、フィリップモリスの株価は値上がりが続いた一方、BATは上昇が反転し現在にかけて下落傾向が続いています。
 
BATの株価下落は、米国のFDAがメンソールたばこを禁止する方針を改めて示したためです。
 
紙巻たばこがしばらく収益の中心であり続けるか、それとも非燃焼たばこをそう遠くない将来に収益の中心に据えるよう変貌していくか、この経営の違いが4月以降の株価の違いに反映されてきました。
 

 
しかし9月以降、フィリップモリスの株価は反転下落しはじめ、BATよりも下落率がが大きくなっています。何故でしょうか?
 

 
これは、フィリップモリスが半導体不足によりアイコスデバイスの生産に影響が出ており、コンセンサスを下回る通年の収益見通しを公表したためです。
 
加熱式たばこのデバイスは電子機器であり、アイコスには16ビットマイコンを含め数百個の電子部品が使用されています。
 
日本では半導体不足の影響でアイコスデバイスの入荷遅れがすでに今夏に発生していましたが、この影響がしばらく世界的に続くことをフィリップモリスが認めたことになります。
 
コロナ禍でリモートワークが拡がりPCやスマートフォン、サーバーなどの需要が増えたことなどによる世界的な半導体不足は依然として続いています。
 
半導体のリードタイム(発注から納品までにかかる時間)は8月に過去最高の21週間に達しました。
 

 
世界的にファウンドリーはフル稼働状態で、TSMCが来年末まで受注が満杯になるなど、少なくとも今年いっぱいは半導体の新規発注は難しい状況にあります。
 
マレーシア、フィリピンなど東南アジアの国々でも半導体の最終工程(パッケージング)が行われていますが、デルタ株の蔓延で工場の稼働が停止し、半導体サプライチェーンの逼迫を助長しました。
 
デルタ株が収束し東南アジアの工場は少しずつ再開しているようですが、自動車メーカーが生産制限をさらに強めるなど、半導体不足の影響は収束の兆しが見えません。
 
半導体をはじめ原材料不足が続き、企業はサプライチェーンを「ジャストインタイム」から「ジャストインケース」に転換する流れにあり、買い溜め意欲が強いので、供給不足は解消されにくい構造になっています。
 
TSMCが今後3年で11兆円を投資するなど、半導体メーカーは今年に入り設備増強を積極的に進めています。しかし着工から装置搬入フェーズに至るまでに最大2年が必要なため、生産容量が増えるのは2023年以降です。
 
さらに建設計画数が台湾と並び最も多い中国では、石炭価格高騰による電力不足で企業活動に影響が出ているほか、不動産バブル崩壊で景気が大きく悪化する可能性があり、建設計画の進捗に影響を及ぼす可能性があります。
 

 
そのためアイコスからの収益割合が3割近くにまで高まったフィリップモリスは、2022~23年の途中頃まで半導体不足に悩まされることになりそうです。
 
デバイスの生産に支障が出ても、半導体不足とは無縁のヒートスティックからの売上があるから大丈夫だと思われるかもしれません。
 
たしかにアイコスがある程度浸透したことで、フィリップモリスの非燃焼たばこからの売上に占めるデバイスやアクセサリーの比率は昨年末に7%にまで減少しました。2017年は25%でした。
 
しかし一般に加熱式たばこのデバイスの寿命は1-2年程度であり、頻繁に買い替える必要があります。
 
そのため半導体不足が長期化すると、デバイスが故障しても交換できず、アイコスを吸えなくなり、ヒートスティックの売上に影響が波及することになり得ます。
 
 
フィリップモリスは加熱式たばこの売上を拡大するために、紙巻たばこの喫煙者や周りの人々への健康リスクを積極的に宣伝してきました。
 
その結果、マールボロ等自社の紙巻たばこを吸ってきた喫煙者が次々とアイコスに流れ、紙巻たばこの売上は市場全体よりも大きく減少してしまいました。
 
加熱式たばこの拡大戦略が、半導体不足により、しばらく仇となってしまう状況にあるのが、現在のフィリップモリスなのです。