次の不況は「円安不況」

中央銀行は日銀を除きインフレ退治のために金融引き締めを本格化してきましたが、一部で政策転換や政策転換前兆のような動きがみられます。

イングランド銀行は量的引き締め開始を決定した4日後に唐突に量的緩和を再開し、オーストラリア中央銀行は今月の利上げ幅を0.25%と、これまでの0.5%から縮小しました。

市場はこうした動きを見て「インフレのピークアウトは近い」「これから世界的に中銀は金融緩和再開の動きを強めるだろう」との期待をまた強めています。

「急速な金融引き締めは景気後退をもたらすだけでなく、供給制約に基づくインフレ退治への効果は限定的だ」「供給制約を解消するための投資を拡大することが長期的なインフレ対策だ」との見方も少しずつ強まり始めています。

しかし英国での金融緩和は、国債利回りの急上昇で担保積み増しを要求されて破綻リスクが急激に高まった年金基金の破綻を防ぐことが目的です。年金基金は現在も現金確保のため債券や株式を売却しています。

オーストラリア中央銀行は、金融引き締めで保有国債・債券の評価損が膨らみ、すでに債務超過に陥っています。

金融緩和再開や金融引き締め抑制の動きは、インフレが近々落ち着くとの前兆を示すものでなく、崩壊し始めた金融市場・金融システムの穴を塞ぐための応急措置でしかありません。

こうした応急措置は中央銀行にとって諸刃の剣です。インフレ退治に向けた金融引き締めを本格化した矢先に、唐突に金融緩和に舵を切り政策スタンスを180度転換することは、中央銀行の信用を傷つけてしまいかねません。

通貨価値の下落が止まらなくなり、通貨インフレを招くおそれが出てきます。

英国や豪州と違い、米国のドルは基軸通貨です。基軸通貨だからこそ、米国は双子の赤字を垂れ流し続けても通貨価値を保ってきました。

中央銀行の信用棄損は、米ドルの基軸通貨性を失わせることにつながりかねません。急速なドル安が進み輸入インフレが急増するだけでなく、世界の覇権を失うことになり、政治的にすぐさま容認できるものではありません。

Fedは9月のFOMCで、来年までに4.5%程度への利上げを計画するなど、インフレ退治を優先するタカ派姿勢を鮮明にしました。

高インフレが続き労働市場がタイトな状況が続くなか、Fedが急いで金融緩和に転換する理由は果たしてあるのでしょうか。

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Fedがこのまま金融引き締め方針を続ければ、再びドル高が強まり、他国の通貨は相対的に安くなり、世界経済に深刻な打撃を与えることでしょう。

もちろん日本も例外ではありません。近々深刻な不況が待っていることでしょう。

これから訪れる日本の不況はこれまでとは異なります。いままで日本の不況は円高がセットのデフレで、ハンバーガーや牛丼チェーンなどが値下げしてくれて家計を助けてくれました。

しかし今度やってくるのは「円安不況」です。

倒産が相次ぎ社会に失業者が溢れるなか、円安と供給不足で、食料、ガソリン、灯油などの生活必需品や電気、ガスの価格高騰が進むことになります。

日本は敗戦後の預金封鎖、財産税があった頃の時期を過ぎてから、今日まで「円安不況」を一度も経験してきませんでした。

失業し給与収入を失えば、戦中・戦後直後さながらの生活困窮に追い込まれることになりかねません。