SBGのアーム売却失敗と日本の石油危機リスク

ソフトバンクグループが子会社の半導体会社アームを、大手半導体会社のエヌビディアに売却することを頓挫したとの報道が出ました。
[2022/02/08 ロイター]英アーム、米エヌビディアへの売却頓挫、IPO計画へ=関係筋
 
売却には米・中・英・EUの監査当局の承認が必要で、以前より独占禁止法や安全保障の見地から売却は難しいとみられていました。当初見通し通りの結果になったようです。
 
アームの先行きは非常に厳しいです。スマートフォン用チップ市場はスマホの普及で飽和状態にあります。
 
データセンター・PC向けチップ市場は競争が激しくアームの競争力は皆無に等しく、資本や技術的リソースは不足しており新たな成長分野を開拓することはできません。
 
アーム売却は、売却益の獲得、エヌビディア株式の取得、売却資金での負債返済という一石三鳥を目指した、孫氏の強欲から発した行為以外の何物でもありませんでした。
 
ソフトバンクグループは、2019年と2020年初頭にアームのIPOを検討していましたが、必要な投資利益率を確保できないとの判断から却下することになりました。
 
つまり孫氏は当時よりアームの成長性に疑いを持っていたことになります。そこでエヌビディアに売却提案を持ち掛け、高値で売り抜けようと画策したのです。
 
しかし見事に撃沈してしまいました。ソフトバンクグループはアームのIPOを検討しているとのことですが、単独企業として成長余地が乏しく、金融引き締めが本格化していくなか、孫氏が納得する公募価格になるとは到底思えません。
 
 
ソフトバンクグループや孫氏にとって、アームをエヌビディアに売却できなかったことは痛手どころの話ではありません。
 
ソフトバンクグループは今後、資金繰りがかなり厳しくなっていきます。
 
21年9月末時点のソフトバンクグループの純負債はおよそ15兆円あります。
 
20年9月末にソフトバンクグループが保有する株式の時価総額である時価純資産は27.9兆円ありました。
 
しかし当時6割近くを占めていたアリババ株が、中国共産党の支配が強まり規制が強化されたことから半値以下になり、21年9月末時点の時価純資産は20.9兆円にまで落ち込みました。
 
さらに、ビジョンファンドへの投資分を除く時価純資産は11.7兆円しかなく、すでに純負債を下回っています。
 
ソフトバンクグループは自身が運用するビジョンファンドに多額を出資しており、自身の資金繰りを理由に売却すれば、ファンドの価値は失墜していきます。他のファンド出資者を大損させることになり、受託者責任を放棄することになります。
 
今後ソフトバンクグループは、負債返済用資金を出来る限り確保するため、ビジョンファンド以外の持ち株を急いで売却する必要に迫られることになりそうです。早速アリババ株の売却に着手するようです。
[2022/02/08 ブルームバーグ]アリババ下落、ソフトバンクGによる株売却の可能性を届け出で示唆か
 
孫氏に残された時間はわずかしかありません。今後、金融引き締めが進みハイテク株の調整本格化がいつ起きてもおかしくありませんから。
 
もし迅速な売却に失敗すれば、ソフトバンクグループの時価純資産は、ビジョンファンド込みでも純負債を下回ることになります。
 
後で振り返ったとき、アームの売却が失敗した時点で、ソフトバンクグループは「ご臨終」を迎えていたのかもしれません。
 
 
私にとってソフトバンクグループやビジョンファンドの未来には全く興味がありませんが、ビジョンファンドが崩壊した場合に日本が直面する経済的リスクについて気になることがあります。
 
ビジョンファンドはSVF1とSVF2の2種類ありますが、このうちSVF1にはサウジアラビア政府ファンド、UAEのアブダビ政府ファンド、アップルなどが出資しています。
 
正確な数字はわかりませんが、サウジアラビア政府ファンドは運用資産の1ケタ台後半~10%程度をSVF1に出資しているようです。ビジョンファンドが崩壊すれば、サウジアラビア政府ファンドは大きな損失を被ります。
 
そうなれば、サウジアラビア政府が日本に報復しないとは言い切れないでしょう。カネでやられた借りはカネで返されます。
 
日本はサウジアラビアから石油の1/3程度を輸入していますから、日本との石油輸出交渉で極めて強気に出ることができます。
 
同じくビジョンファンドに出資しているUAEと協力すれば、より交渉力が高まります。日本はサウジ・UAE両国から石油の2/3を輸入しているのですから。
 
サウジやUAEは日本への輸出割合が1%未満ですから、最悪、交渉がこじれて日本に石油を売れなくなぅても屁でもありません。中国やインドと仲良くやっていけば石油輸出で困りません。
 
 
欲の権化ともいえる孫氏の投機行動のツケは、単に一企業の崩壊では済まず、日本の全国民の生活にまで波及しないとも言い切れないのです。