米国石油メジャーが増産に積極的な理由

[2023/12/07 日本経済新聞]エクソン、年最大4兆円の設備投資 石油需要増で上積み

石油メジャーの米エクソンモービルは6日、2027年までの中期計画を公表し、設備投資を27年まで年220億〜270億ドル(約3兆2000億〜約4兆円)とした。従来計画は27年まで年200〜250億ドルだった。化石燃料の先行きの需要は堅調とみて、投資額を上積みする。

[2023/12/07 ブルームバーグ]シェブロンが設備投資引き上げ、エクソンに続く-原油増産目指す動き

米石油大手シェブロンは同業の米エクソンモービルに続き、設備投資予定額を引き上げた。両社は長期的な原油増産を目指している。
6日の発表によると、2024年の世界全体での設備投資額は185億-195億ドル(約2兆7200億-2兆8700億円)と、今年の170億ドルから増加する見通し。米パーミアン盆地への投資が50億ドルと、最大の部分を占める。

エクソンモービルやシェブロンのこうした石油増産を強める動きを見て、馬鹿げていると思われるかもしれません。

ブレント原油価格は1バレル76.3ドルにまで下落していますし、世界的に化石燃料の使用を減らしていこうという動きがあり長期的に石油需要は減るとみられていますから。

しかも上の設備投資とは別に、エクソンは645億ドルでのパイオニア買収、シェブロンは600億ドルでのヘス買収をそれぞれ発表し(買収額はいずれも負債込み)、それだけで両企業とも石油生産量は1割以上増えます。

エクソンモービルのCEOは化石燃料の需要の伸びを期待して石油増産を強めると言っています。でもより重要なのは供給面です。

ロシアやサウジアラビアといった産油国の大半は、原油価格が高値維持してくれないと困ります。

ロシアはウクライナ戦争による軍事費の増大で財政赤字が増えており、財政改善のために原油価格の高値維持は必須です。

サウジアラビアも財政状況は悪いです。脱エネルギー経済構築のための財政支出が増えていることもあり、2014~2023年の10年間で財政黒字となった年は2022年だけです。来年も赤字を見込んでいます。

サウジの損益分岐点原油価格は1バレル79ドルほどですので、現在の原油価格が続くと財政赤字は今後も続くことになります。

しかもMBS皇太子の肝入り政策であるサウジの脱エネルギー経済構築(ビジョン2030)では、5000億ドルかけて紅海沿いに新都市を建設するなど多額の資金が必要です。

自前だけでの資金調達は困難で海外からお金を集める必要がありますが、原油価格が高止まりしている状況でないと投資家はサウジに投資したがりません。

OPECプラスの協調減産は形骸化しています。昨年7月から1年4ヵ月以上にわたり原油価格下落・低迷が続き、メンバー国が減産に耐えられなくなり、次々と増産しているためです。

そのなかでサウジだけが昨年から日量100万バレルもの減産を継続しているのは、自分たちの財政と経済政策の事情から、絶対に原油価格の暴落は避けなければならないためです。

こうした状況でサウジアラビアが石油増産投資を積極的に進める余裕はありません。

欧州の石油メジャーは、クリーンエネルギー、カーボンニュートラル分野への投資を積極的に進める方針であり、金銭的にも政治的にも化石燃料に大規模に投資することはできません。

米国勢は水平掘削技術の向上で、水平坑井の長さが以前の3倍にまで伸びたために、シェールオイル・ガスの生産性は著しく高まりました。

10年前と比較して米国の石油採掘コストは3分の1以下になったと言われています。

さらにエクソンや(ヘス買収により)シェブロンが権益を持つ南米ガイアナの海底油田は、1バレル35ドルでも利益が出るほど生産性が高いです。

他の大手産油国が原油価格維持のために増産に消極的なことをチャンスと捉え、エクソンとシェブロンは石油支配を強めようとしているのです。

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