石油市場の現状と今後

今回は石油市場に関する話題です。

現在、今年の予想石油価格を巡って意見が割れています。特に、年末にブレント原油価格が1バレル100ドルに達するかどうかに注目が集まっています。

強気派は年末までに1バレル100ドルに達すると見ています。彼らの意見を見ていると、大体次のことを前提としているようです:

・中国の石油需要が大きく回復する(日量110万バレル程度増える)・中国以外の石油需要が堅調に伸びる(日量100万バレル前後増える)・ロシアの供給量が前年より減少する(日量70万~150万バレル程度減る)

昨年、中国の石油需要は前年から45万バレル減少しました。前年比減少となるのは1990年以来22年ぶりのことです。

ゼロコロナ政策のもとでの移動制限により、ガソリンと航空燃料需要が大きく減ったことが主な要因です。

パンデミックが始まり一時的な恐慌に陥った翌年の2021年に、中国の石油需要は前年から日量120万バレル超増えました。

ゼロコロナ政策は年初に解除されましたから、今年は2021年のように、前年からの石油需要の大きな反動が起こると強気派は考えているわけです。

実際、燃料需要は回復しているようです。春節の休暇中に国内旅行に出掛けた人の数は延べ3億800万人と、コロナ前の9割近くまで回復しました。

これによりアジアの航空燃料価格は3割上昇しました。またガソリンの需要も安定し、在庫は減少しているとの報道もあります。

一方で強気派が見逃している懸念材料もあります。職場に戻らない出稼ぎ労働者が増えていることです。

共同トイレの古くて狭い部屋に住みながら一生懸命働いても、給料が一向に増えず、ロックダウンで無給となり、裕福な暮らしをするという夢が潰え絶望に陥っていることが背景にあるようです。

出稼ぎ労働者は2億9600万人と、今年の春節旅行者数にほぼ匹敵します。彼らの大半が農村部に留まるようになれば、移動が減り、燃料需要の伸び抑制につながるかもしれません。

中国以外の経済に関して、欧米の景気後退懸念が残ります。これまでお話しした通り、米国経済は遅くとも2024年には不況入りすると考えています(早ければ今年後半でしょう)。

ロシアの供給について、先進国のロシア産エネルギーへの制裁がロシアの産油量を減らしています。

G7がロシア産原油への価格上限措置を導入したことで、昨年12月のロシアの産油量は1カ月前より日量20万バレル減少しました。

EUが2月に石油製品の域外国向け上限価格を適用したことを受け、ロシアは3月に日量50万バレルの自主的な減産を行うとしています。

ただ、話はそう単純ではありません。

ロシア産原油を欧米のタンカーが輸送しなくなったことで、世界中に輸送できずにいる石油製品在庫が溜まっています。

下図はUAEのフジャイラ向けのロシア産石油製品の輸出量を示します。ウクライナ侵攻後から輸出量は急増し、昨年6月にピークを迎えました。その後も例年より大きい輸出が続いています。欧米に輸出できなくなった石油製品が、集積地フジャイラに向かったのです。

しかし急激な流入により、こうした集積地では貯蔵容量が不足しており、貯蔵料金が上昇していると言われます。そのためロシア産石油製品在庫を解消するニーズが高まっているとみられます。

こうしたニーズに着目し、中国などロシア制裁に関与していない国々のあいだで、ロシア産石油を運ぶ闇輸送が増えていると言われます。

航海開始から15年超経過した老齢の原油タンカーの取引価格が2倍に高騰しています。闇輸送目的の需要が急増したためとみられています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB226450S2A221C2000000/

闇輸送によりロシア産石油の在庫が捌かれていけば、供給が増えて原油価格の下落圧力になります。ただ闇輸送は実態が不透明のため、市場価格に十分に織り込まれない状況が続く可能性もあります。

短期的に原油価格がどうなるか、とても見通しにくいのが現状です。

でも本当に重要なのは短期の値動きではありません。構造的要因に着目することで浮かび上がる長期見通しです。石油市場の深層では以下の流れが進行中です:

・・・(割愛)・・・

ロシアへの経済制裁といった地政学的要因が石油市場に与える直接的な影響について無視しても、石油需給のさらなる逼迫は避けられないのです。

★石油需給の逼迫が避けられない理由は、今週号のアボマガ・エッセンシャルや過去の記事をお読みください。

短期の動向は不透明ですが、中長期の石油逼迫というトレンドはどんどん明瞭になっています。

石油市場の需給逼迫や高インフレの長期化は、石油市場の深層を知らないほとんどの平和ボケした日本人にとって、購買力の喪失、貧困化の一本道でしかありません。

でも今週号でも扱っている紹介済みの石油銘柄に投資しているアボマガ・エッセンシャル読者は、「石油市場の需給逼迫よ、高インフレの長期化よ、来るなら来い!」と覚悟できているはずです。

今年10月6日に、原油価格10倍への道の嚆矢となった第4次中東戦争からちょうど50年を迎えます。

先日、阪神淡路大震災の22倍ものエネルギーに相当するトルコ・シリア大地震が起き、5万人以上の死者が出ました。

いま、イスラエルでは史上最右翼政権が誕生し、三権分立を根底から覆す司法改革を実現して権力集中を図ろうとしているところです。
https://www.arabnews.jp/article/middle-east/article_86008/

中東での今後の軍事的緊張の高まりの前兆でなければ良いのですが…

アボマガ・エッセンシャルにご登録されると、Webサービスを通じて今回の記事の完全版を即座にご覧いただけます。

→アボマガ・エッセンシャルのご登録方法